ダンスをちょうだい。
@yanfuji
ダンスをちょうだい。
今夜も誰かと繋がりたくて、あるサイトに辿り着く。
そのサイトは性別も年齢も名前もわからない。
本性を証さない者同士、文章チャットやビデオ通話で対話するというもの。
もちろん顔を映さなくていいし、言語チャットでもいい、部屋の植物や好きなフィギュアを映している者もいる。
まだ私も数回しかやったことはなかったが、匿名性や共通な話題で話せることそしてムフフ。
つまり男女が出会う場でもあった。
まぁ私の場合は、後者のケースを求めていたのには間違いない。
丈の短いタイトなボクサーパンツ、白いタンクトップ姿。
僕はその時が来るまで横になり、バラエティ番組を気長に見ていた。
「ピコーン。」
誰かが入室すると音が鳴り、僕の姿が映し出される。
退出しました。
まあそう簡単にはマッチングはしない。
「ピコーン」
退出しました。
「ピコーン」
退出しました。
またピコーン。
その度、手を振ってみたり、声をかけたりし反応した。
退出しました。
「ピコーン」
あれ?
なかなか退出しない。
これはHITか!?
「こんばんは~」
「マッキーです」
男なのか?女なのか?まだ判断はできない。
まだ焦るような時間じゃない。
「今日はなにしてたの?」
「洗濯に掃除ですょ。」
よし!
小さい「ょ」いただきました、ありがとございます。
気がつきにくいかも知れないが男ならあえて小さいこの「ょ」は使わない。
はい、いただきましたと細く笑む。
マッキーが発言する度に僕はとにかくすごい!とか素敵だと連呼した。
これはお母さんがとにかく褒めたら褒めた分だけ女性はうれしいだということを僕に教えてくれたからだ。
だから僕は、とにかく褒めた。
ありがとうお母さん。
そして。
突然マッキーから一言…。
「下を映して欲しい…。」
本来なら髪を掻き分け、口角を右にすこし上げ、爽やかに。
まるであのちびまる子ちゃんの花輪君のように
「オーケ~ぃ」と答えたかった。
待ち望んでいた展開だ。
だか、その余りにも急な展開に…。
「ガッテン!」
なぜか江戸っ子になっていた…。
ブレにブレるカメラワークで下半身あたりを映し出すようにした。
「もっと、ちょうだい。」
もっとの意味がわからなかったが、
なんとく仰向けになり、膝を少し曲げ、腰を浮せて、少し突き出してみた。
「そう!」
正解だったんだ。
力強く突き出すと
「もっとそう!」
もっと?
いよいよ本当にわからない。
ただとにかく催促がすごい。
私もたまらなくなり、マッキーのすごいところもみたいと催促したが、
すぐに「それは違う。」と言われた。
何が違うんだ!
何も違わない!
こっちは突き出してるんだ!
ギブアンドテイクの精神だろうがぁ!
ギブギブ言いやがって!
テイクくれや!テイクをよぉ!
と言いたがったが
グッと下唇を噛んで
そっと突きあげた。
ただ体力に限りがあるため、これ以上はできないと素直に伝えた。
「…出す」
「出すから…。」
「報酬を…。」
「だから…もっと欲しい。」
はたして、女性はここまでアグネッシブに来るもなのか?
お母さんとよく行く床屋のおばさん程度の女性しかふれあいのない僕でも今はこれはわかる。
ナニカガオカシイ。
「もしかしてだけどさぁ、マッキーは男性?」
確信についた。
「…女でもあるょ」
「ょ」ってなんだよ。
でもなんだかその「ょ」が女性であることをわずかだか、支えているようにも思えた。
「…牧なの。」
「SLAM DUNKの?」
「違うょ~笑、そんな黒くないにょ~」
今はこの状況で肌の黒さを聞いているわけではない。
「にょ」には少し気になったが、なんだかもうどうでもよくなってきた。
だって突き出してるし。
ただ報酬っていうのも気になるし、誰かに期待される事がうれしくて、せっかくマッチングしたし手を添えてみようと思えた。
「わかった!」
「でも1つお願いをきいてほしい。」
「顔は映さなくてもいいから、せめてビデオ通話だけでもしてほしい。」
別にマッキーを見たかった訳ではないが、なんだかアンフェアではないと思った。
それにチャットだとラグがあるため、リアルタイムでのやり取りができてリアクションが見れる事は重要だからだ。
マッキーは何も言わず、テレビのCMの音だけが流れていた。
「…少しだけ待って、準備するから」
僕は僅かな期待を寄せていた。
これ…もしかしたら。
もしかするかもしれない。
そして相手側の映し出される黒い画面から映像が映し出された。
女でもあり男でもあり。
もしかするわけなかった。
その手の甲に走る血管
鋭い顎の輪郭
肩幅に、声
おそらく、松尾伴内ぐらいしか着ないだろうと思う、編込レースの薄い上着
黒みがかった赤色のマニキュア
鮮やかな朱色の口紅。
とりわけ肩幅は妙に広かった。
なんだかお父さんを少し思い出した。
「マッキーです。」
知ってるよそれは!
特に会話もなく、気まずい雰囲気の中、
「黒くないでしょ~?」と笑いながら。
いやいや、もう牧にしか見えません。
とは言えず、そっと突き出した。
その圧倒的な存在感に押し潰されそうになったが、私も負けるまけにはいかない。
だって突き出してるんだもん。
それからは要望がとにかくすごい。
もっと早く強く。
もっと鋭く高く。
もっとクネにクネ。
要望の多さと運動量の質に僕はたまらず
両手でTの文字を型どり、タイムアウトを要求した。
僅かなタイムアウトの中、緊張と警戒心がとけたのか、聞いてもいない年齢や家族、仕事、趣味、そして住所までプライベートな事を赤裸々
語りだした。
中学生頃くらいから目覚めたらしいが、プライベートではその事を隠ながら生活しているそうで、本当の事は親、兄弟、友達にも言っていない。
仕事は主に身体を動かす建築関係
趣味は編物。
好きな食べ物はお好み焼き。
でも本当の自分は誰にも言えないし、受け入れてくれないと思ってる。
ここの世界では本当の自分になれるし、なんだか解き放たれ自由に羽ばたけるとのこと。
その反動はまるでフィリピンプレートのように沈みこみ、大地が揺れる。
私はそんな衝撃の真ん中にいる。
すべて答えてくれた。
私も応えようとした。
なんだかわからないが応えたかった。
ビシッとカメラワークを下半身中心に向ける。
さぁ、お遊びはここまでだ。
突き上げる度に
「スゴイ!もっと!モッツ!」
加速する腰に
「早い!早いよ!早すぎるよ!」と興奮気味
減速した腰に
「重い!重力を感じる!潰れちゃう!」
「私はパイロット!」
さらに僕はこんなことも出きるぞと仰向けになり逆ブリッジのような体勢にして停止した…。
「マッ…」
「マッァ…」
「マッシモッッ!」
その多種多様な動きを見てマッキーが叫んだ。
「ダンスをちょうだい!」
「私にパッションを魅せつけてちょうだい!」
舞ってやるよ!
華麗に!
足の指先はピンと伸ばし、尻をシメ、照明まで届かせる気持ちで腰を持ち上げた。
「パッション!!」
「ナイスパッション!」
「カモン!パッション!」
と叫んだのが聞こえた。
もう、画面など見ない!
オレは荒ぶる牛を華麗にさばく、
マタドールのように。
その後、お互い何度も何度も汗だくで激しく求めあった…。
息もあがり、汗だくで、ヒラメ筋から大腿四頭筋、大殿筋、ハムストロングは悲鳴をあげる。
とにかくケツが熱い。
限界に近い状態だ。
やがて腰は上がりなくなり、それまでの保ててた高さは嘘のようだった。
そんな哀れで醜くく、憔悴している僕を見ている彼女を僕も見ていた。
ゆっくりと静かにそして優しく、少し微笑みながら声にはさず、ただただ口元だけが
「ダンスをちょうだい」
と動いたのがわかった。
後日、報酬のことはすっかり忘れていが、謎の「パッシモ」さんという振込人から入金があったとお母さんから連絡があった。
僕は、帰り道に少し遠回りし、立ち寄る事のなかった八百屋に立ち寄り、フルーツを買って食べた。
パッションフルーツってこんなに甘いんだぁ。
~終わり~
ダンスをちょうだい。 @yanfuji
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