朝の一コマ
朝食のひとコマ
「「「いただきまーす」」」
「……」
「怒莉さん、いただきますは言わないのですか?」
「うるさいな、心の中で言ってるよ」
「心の中は聞こえないのでは……」
「そんなこと知ってるっての」
哀羽は下から怒莉の表情を覗いている。怒莉は前方で腕を組み、眉間に皺を寄せていた。その表情を見て、哀羽は小さく震える。
「では、言わなくては。喜々さんが悲しみますよ」
「そんなことよりも早く食べようよ〜」
言葉をこぼしながら、潤んだ瞳で怒莉を見つめる哀羽。その前に座る楽奈は、輝いた瞳で言葉をこぼすと、パクッと卵焼きを口に入れた。
「ほら、これ美味しいよ」
「ほんとに!嬉しいなー!」
楽奈は卵焼きを箸で掴んで、哀羽の前に差し出す。その隣で、エプロンを身につけた喜々が跳ねるように喜んでいた。
「哀羽も食べてみて」
「じ、自分で食べますから……」
卵焼きを一つ取り、口に運ぶ。喜々はキラキラした瞳で哀羽を見つめていた。
卵焼きを飲み込んだ瞬間、哀羽の瞳から大粒の涙が零れた。
喜々は驚いたように目を丸めて、すぐに心配そうな表情を浮かべる。他の二人も少し驚いたようだった。
「哀羽ちゃんどうしたの!?」
「すみません……お母さんの味を思い出して寂しくなってしまって」
「なんだそういうことか〜そんなに喜々の卵焼きが不味かったのかと思った〜」
「そうじゃないみたいで安心したよー」
しんみりした空気を二人が軽く和らげる。楽奈は悪戯っぽく笑っていたが、喜々には刺さらなかったようだ。
「いいから静かに食べろよ」
「いかりんも食べてね」
「……いただきます」
その言葉を聞いて、三人の視線が怒莉に集まる。ゆっくりと箸を伸ばして卵焼きを掴むと、少し震えた手で卵焼きを口に運ぶ。三人は目を輝かせ、その様子をじっと見つめた。
「なんだよ」
不機嫌そうな声なのに、どこか温かさが混ざっている。
「どう?美味しい?」
「……まぁ美味いな」
「良かったー!」
喜々は耳を赤くした怒莉の前でガッツポーズ。
すると突然立ち上がり、歌うように告げた。
「ちょっと待ってて!」
三人は不思議そうにしながらも、卵焼きと白米、味噌汁を順番に口に運んでいる。
しばらくして、台所から戻って来た喜々が声を弾ませて言った。
「じゃーん!いっぱい作ったから食べて!」
三人は目の前の光景に思わず、時が止まったかのように固まった。食卓には新たに卵焼きが八つ置かれていた。喜々は輝いた瞳で私たちを見ている。三人は目を見開き、呆然とお皿を見つめていた。
その静寂を破るように怒莉が叫ぶ。
「こんなにたくさん食えるかー!」
こうして四人の朝食タイムは、笑いと涙と怒号に包まれたまま終わったのだった。
喜怒哀楽ちゃんたちの日常 桜庭 結愛 @Yua_Sakuraba
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