隅に吊るす

れん

隅に吊るす

 田舎の住宅街の片隅に、レンタル収納スペースがある。

 一見何の不思議もない、物置が整然と並んだよくある景色。しかし、ここの利用ルールは他とは違っている。ここでは、中に入れてはだめなものがない。危険物や怪しいあれこれ……ふつうなら置き場所に困りがちなどんなものでも、しまいこむこと自体は可能だ。代わりに、置き方には少し気を遣う必要がある。唯一の守るべき決まりであるその置き方とは、「逆さにする」というものだ。ふつうに置いてみてもいいけれど、それではいつしか失くなっている。レンタル物置の中に何を預けるかなんて、いくら借りているからと言ってもふつうなら借主のプライバシーと言えそうだが、どういうわけか逆さにしなかった物は知らない間に消えているのだ。ただし、契約して最初の『失せ物』は、申告すると返してもらえる。社会通念と同じに、1回目の失敗までは許すから勉強しろということなのかもしれない。

 何でも置いていい、けれどつまり逆さにできないものは置けない。この奇妙な、しかしたとえるなら塩むすびのように身近で素朴そうなのに奥の深い道に従い、尚ここを必要とする人々が今日も預けたい品を持ち寄る。まんが本、電話機、靴、ぬいぐるみ、テレビ……経歴様々なそれらの、これからの行方を知ることは、今は誰にもできない。ここを作り、管理している何者かというのは、きっとふつうとは違う視点で物事を見ているのだろう。そこでは光が歪み、景色と常識が反転する。

 そう、まるでグラスの底から世界を覗くように。

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