第04話:エピローグ:運命の契約(コスト)

その夜。僕は自室でニュースを見ていた。


『速報です! 直径10kmの超巨大隕石が地球に向かっており、

あと10分で東京に直撃します!』


(今日はやけにハードだな)

僕が窓の外を見ると、そこには絶望的な顔で空を見上げる、あの彼女がいた。


「(ああ、もう、あの方に会うこともないのですね…。わたくしの運命も、ここまで…)」


その時、彼女の頬を、きらりと光る涙が伝うのを見た。

僕の脳内で、最後の計算が完了した。


(……待て。あの憂いを帯びた表情。人類の終焉を前にした絶望に濡れた瞳。死を覚悟した儚さ。そして、あの涙のプリズム効果。すべての要素を加点すると…)


(…10.0倍だ! ぴったり! 美しさがエルフィン(作画最高時)と並んだ!

やはり最初の予想通り『10倍の価値』とは美しさだったのだ)


僕は、玄関から飛び出て、彼女の前に駆け寄った。


「あ、あなた様! やはり来てくださったのですね! 隕石が迫る中、わたくのために…! 運命ですわ!」


「ええ、運命ですね。あなたは、確かに10倍美しい」


「まあ! では、わたくしたちは、この世界の最期に結ばれるのですね!」


うっとりと目を閉じる彼女を前に、僕は冒頭の契約を、もう一度、思い出していた。


(うん…?ちょっと待て、しまった!彼女は、普通の女性の『10倍の価値』だ。つまり、10人分の女性と交際するのと同レベルのコストが発生する…)


僕は言った。「え~っと大変申し訳ございません」


「え?」


「普通の女性の10倍美しい(エルフィン級の)あなたと交際するとなると、デート代やプレゼント代も、おそらく普通の10倍はかかりますよね?」


「……は?」


「僕の小遣い(月5,000円)では確実に破綻します。本当にすみません。お元気で」


隕石が、夜空を眩しく焦がした。

僕が背を向け、その場を去ろうとした刹那——文字通り、刹那だった。


「ちょっと待てぇぇぇぇいっ!」


バキィッ!という鈍い音と共に、

僕の背中に強烈な『10倍』の威力の飛び蹴りの衝撃。


「ごばぁはっ!」


僕の身体は、綺麗な放物線を描いてきりもみ回転しながら数メートル先のアスファルトに叩きつけられた。


ズシャァァァッ!(僕が地面にめり込む音)


危なかった。打ち所が悪ければ、異世界の貴族の少年の物語がはじまるところだ。


「ああっ、ごめんなさいまし! 溜まりに溜まったストレスが爆発してしまいました」


僕を地面から引っこ抜きながら、彼女は涙目で訴えかけた。


「破綻を理由に嫌われるのは、納得できませんっ!だって…公園でのデートや、図書館でのお勉強デート…! お金のかからないデートだって、たくさんあります。しかも、わたくしはそういったデートの方が好きなタイプですわっ!それに…」


彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤くして告白した。


「わたくし、お恥ずかしながら…戦闘以外は何もできなくて…。

家事全般、まったくダメなんですの…!」


「(な、なんだと…!?)」


「ですから! その、あなた様の家事スキルや、スーパーの特売日を把握されている生活力、お金を無駄にしないその『コスパ術』も、わたくしにはとても価値のあるものなのですのよ!」


僕の脳内に、稲妻が落ちた。


(お金のかからないデートが好き。家事全般がダメ。生活力ゼロ。つまり、彼女は俺の『生活費節約術』に理解と興味を示し、しかも必要としてくれている…!?)


僕の脳内の脳細胞がフル回転で思考する。

(これほど『価値観』の合う女性にこの先の人生で何人出会えるか…そうか、

『10倍の価値』とは、仮に1年で一人と交際し別れたとして、最長で10年かかるその出会いを時短で実現することか、しかも無駄な交際費をかけずに済んでいる)


そして、僕はついに最終的な結論に近づきつつあった。


(最高にコスパの良い出会いだ。確かに『10倍の価値』はある。ただし、10人の女性の最初で価値観が同じ女性と出会える確率を考慮すると…ブツブツ)


いつまでも黙り込んで思考している僕にとどめを刺すように、

彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。


「それから、わたくしにはダメダメな趣味があります。あなた様は、アニメをご存じないかもしれませんが『魔法少女ピュア☆エルフィン』のエルフィンのコスプレをすることが大好きなんですわっ!」


僕は彼女の手を握りしめ、真剣な顔で答えた。

「なるほど! 納得しました。2.5次元の嫁になってくださいっ!」


(空から見ていた運命の神)(けっきょくエルフィンかーーーーーーい!)


「えっ…!? あ、ありがとうございます…? で、でも…!」


麗華は隕石のことなど忘れたように頬を染め、僕の手を握り返した。


「まずは、恋人からですわよ」


(数瞬後、隕石も運命の神のモチベの低下と共に光の粒子となって消滅した)


(いったん完結)

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【作者より】

もし、この作品を面白いと感じ、続きを読んでみたいと思っていただけたなら、

ぜひ応援や感想のコメントをいただけると嬉しいです!

読者の皆様からの熱い反応次第で、続きの連載を真剣に検討させていただきます。


【この後のプロット】

この神様は、うっかり者なので、この後10倍の価値を持った女性が、

10名ヒロインとして出てくるハーレム展開になります。

しかし、このような主人公なので誰を選ぶのか作者にも予想不可能です。

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