第03話:運命の最終検品(基準:力)

翌日、街は阿鼻叫喚に包まれた。

「グオオオオオ!」

「くっ、駄目だ、対怪獣ミサイルが効かない! 全員撤退!」


突如出現した怪獣(全長80m)により、ビルが崩れていく。


そして、その瓦礫の下敷きになりそうな少年がいた。そう僕だ。

「(くっ…近所の激安スーパーが…! あそこのPB商品のリピート購入が不可能になった。今後のエンゲル係数の上昇率は試算8.5%増。詰んだ…!)」


僕は空を見上げ、深くため息をついた。


するとどこからともなく、颯爽と花京院 麗華があらわれた。

彼女は全力で跳躍すると、怪獣の眉間に向かって右ストレートを放った。


「『10倍』パぁぁぁンチ!」


怪獣をアッパーで打ち上げ、天を突く光の柱が放たれ、

怪獣は光の粒子となって消滅した。


「おおっ! ありがとうございます!あっ…花京院 麗華さん。奇遇ですね」

瓦礫の中から這い出た僕に、彼女が駆け寄ってくる。


「スーパーは残念でしたが、僕は助かりました。本当にありがとう。それじゃあ、ちょっと隣町の激安スーパーの市場調査に行かないといけないので…では」


「ちょっと待ってください!3回目ですよ?これは、もう間違いなく! 確実に! 100%運命ですわ! どうかお名前だけでも!」


またこのパターンか。…しかし命を救われた恩義がある。

僕は再び、彼女の真剣な顔を精密にスキャンした。


(普通の女性の『10倍の価値』とは、間違いない。『強さ(戦闘力)』のことだな。パンチ一撃で、全ての敵を倒す男を『10.0』としよう。必死の形相。

汗で張り付いた髪。怪獣を一撃で倒す力。

一撃で全て倒すハゲマントのヒーロー(10.0)と比較して…)


(…9.2倍。惜しい!ハゲてさえいれば同点だったな。減点0.8だ)


「あのっ、わたくしのお髪をまた、そんなに穴が開くほど見つめて…」

(どうしましょう、今日の髪型、戦闘で乱れてて最悪ですわ…!?)


「あー、えっと…。すみません、今日はちょっと風邪気味で…ゴホッ。スーパーに行くのは、大人しく諦めます。どうかお元気で」


「だ、大丈夫ですか? お大事にしてくださいね」


(惜しい。9.2倍はかなり惜しい。だが契約は10.0倍だ。貴重な運命の出会いという『リソース』の判断をミスすることは、甚大な機会損失を意味する。慎重に待とう)


僕は咳き込むフリをしながらその場を去った。


瓦礫の上で、運命の神が地面に転がってジタバタしていた。

(世界の危機まで演出したのに! 9.2倍!? そんな微妙な点数で切り捨てるな! あと0.8倍じゃろ! ハゲとるかどうかは価値に関係ないじゃろがい!

サービス点くらいつけろよ! お前に客商売はできん!)


不敵に笑う運命の神は、邪神?へと変貌しつつあった。

「次で最後じゃあ! これでもかと盛ってやるわい!ヒヒヒ…」

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