第02話:運命の再検品(基準:速)
「(ああ、困りましたわ!いつもの道が工事中なんて…!これでは遅刻ですわっ!)」
翌日。ピンクの髪の美女が、裏路地を稲妻のような速度で疾走している。
彼女が角を曲がった、その瞬間だった。
ズバーンッ!
「うわぁぁぁぁっっ~」 「きゃあっ!」
出会い頭の衝突が発生した。尻餅をついた彼女に比べ、
僕は50メートルは吹き飛ばされていた。
「ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
少年は、埃を払いながら歩いて近づき、落ち着いて答えた。
「あと一歩で「異世界転生」するところでしたが、トラックではなかったので、
なんとか大丈夫でした。こちらこそ、ごめんなさい。前方不注意です」
ほっと息をつき、美しく微笑む彼女。
「あら?昨日もお会いしましたわよね…」
「え?人違いでは?…じゃあ、僕はこれで…」
「待ってください! 昨日助けていただいて、今日またこうしてお会いして…これはもう、運命ですわ! せめてお名前だけでも…!」
必死に僕の袖を掴む彼女。
(確かに、二日連続のエンカウントは、黒の組織の意図すら感じる。
まさか、さっきの突進速度…普通の女性の『10倍の価値』とは、…そうか!
真実はいつも一つ。『速度』のことだ)
僕は彼女の、期待で真っ赤になっている顔を、再度、検品した。
(うーん、通常のMSを速度1倍として、赤いあの人が3倍だとする。『10倍の価値』
なら、彼女は赤いあの人よりも、さらに3倍以上も速いのだろうか…)
(麗華さんの顔が、赤いことを加点して計算しても、…2.5倍。昨日より6.0ポイント大幅ダウンだな、10倍はない。やはり気のせいか)
「あのっ、わたくしのお顔をまた見つめて…どうかされましたか?」
(どうしましょう、自分から運命とか…重たい女だと思われましたかしら…!?)
「あ、いえ…。すみません、日頃節約のために自炊しているのですが、昨今の物価高と輸入関税のことを考えていたら、急にお腹が痛くなってきましたので。ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるので」
「えっ、あ…お腹!? だ、大丈夫ですの!?」
(危なかった。やはり契約(仕様)と違う。友人に『運命とか言って近づいてくる美女(マルチ商法)に貢がされた』ってやつもいたし、パスが正解だな)
僕は腹を押さえるフリをしながら、全速力でその場を去った。
「(腹痛で去っていくなんて…わたくし、そんなに魅力がありませんの…?)」
泣きそうになる麗華。
その上空、ビルの屋上で、運命の神が手すりを殴りつけていた。
(ば…馬鹿な! 今期イチオシの子じゃぞ! 2.5倍!? なんで基準がMSなんじゃ!
基準は、普通の女性と言ったはずじゃ!しかも赤い奴よりも遅いじゃとっ!
赤い奴が速すぎじゃっ! くそっ、次じゃ、次はもっと派手にいくぞ!)
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