最善策を探しましょう
青いひつじ
第1話
我々は今、業務改善会議の真っ只中。というのも、私の勤める情報管理課ではここ最近深夜にまで及ぶ残業が続いており、時間が限度を超え、とうとう上から目をつけられてしまったのだ。そのため業務改善の最善策を話し合っているわけである、が。
『まずはタスク管理から見直しましょうか』
『タスク管理なんて社会人の基本中の基本でしょ。わざわざ会議で話し合う必要はないわ。それに最近業務が立て込んでいるのは、他部署との連携が増えたことが大きな原因だと思うわ』
『そうそう。確認することが増えたわよね』
『特にシステム部の回答が遅いのよ。こちらが返答を待ってる時間が長すぎる。なぜそんなに時間がかかるのかしら』
『それでは催促してとにかく早く返答をもらうほか手がないな。そんな策でいいのだろうか』
『上は納得しないでしょうね。それにきっとシステム部は、こちらの作業が遅いのが原因だって言い返してくるわよ』
『情報管理課の作業スピードは以前となんら変わりないけど』
『単に仕事が増えてるのよ。でも人数は変わってないから、今の人員で捌ききれないの』
『そう言えば、この間も隣部署の子が顧客書類の処理は情報管理課でお願いしますって。少しずつ業務増えてるわよね?』
『あ、ちなみにその子、E部長と不倫してるらしいわよ』
『あらやだぁ。だから強気なの?』
こんな感じで、話が脱線することもしばしばである。本日で2回目の会議になるが、今のところ上に報告できそうな素晴らしい改善策は浮かんでいない。それどころか30分が過ぎた頃には話題は路線変更し、人事異動か他部者の色恋沙汰の話の方へと進んでいく。
『最善策はなんだと思いますか』
私は話を引き戻した。
『業務の棲み分け?』
『どこかで線引きしないとね』
『一度現状の業務をリスト化して、他部署に委託できそうな業務を整理しますか』
今日の会議は2時間にも及んだが、改善策の思案に費やしたのはせいぜい20分程度だろう。
我々のもとに悲しいお知らせが届いたのはそれから1週間後のことであった。
『システム部からも総務部からも受託拒否の連絡が届いた』
『つまり、自分たちでやれと』
ひどく非協力的な姿勢に、我々は呆気にとられるほかなかった。みな、自分の村の安全がなによりも大事らしい。こうして今週の業務改善会議は悲報とともに開幕したのだが、相変わらず持ち寄ったのは上司の愚痴とポケットの中の飴だけであった。
それでも時間は過ぎていく。軽く改善策を検討し、愚痴と噂話でお茶を濁す。次の会議の日程を決める会議をしているようなものである。
2時間の時が流れデスクに戻ると、パソコンの画面にいくつかの付箋が貼られていた。内容はさっぱりだったが、今日も残業になることは理解できた。
会議さえなければ、23時には上げれただろうに。最後に定時に上がったのはいつだっただろう。
机に項垂れる私の元へ、部長がやってきて尋ねた。
『D君、会議はどうだい?何かいい策は浮かびそうかね?私もそろそろ上に報告しないといけないんだ。なるはやで頼んだよ』
まるで他人事のような口調に、考えるより先に口から言葉が飛び出した。
『業務改善の最善策は、会議をやめて業務を進めることだと思います』
オフィスには沈黙が流れ、ハッとした私の目の前の部長は、同じく驚いた表情のまま固まっていた。
最善策を探しましょう 青いひつじ @zue23
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