微笑みの仮面

@ooemansaku

第1話

完成

1

今日のニュースをお知らせします。

 仮面にヒビが入ってしまう原因についてです。

 仮面と心は強く繋がっています。

 心の深い傷を負ってしまった場合、仮面にヒビが入る事があります。

 その際は仮面登録協会へご連絡下さい。

 テレビのニュース番組を三人で見ながら、口元だけ見えるマスクをした父と母と僕が食卓を囲んでいる。

 微笑みの仮面をつけている僕たち三人に会話はほとんどない。

 微笑みの仮面のせいでみんな疲れ切っているのだろう。

僕たちは今日も他人の人生を歩む。

決して自分の人生を歩むような余裕はない。

 ただそれを口に出そうとはしない。

僕たちの人生、生き方は生まれた時からほとんど決まっている。

 これはこの世界では当たり前なのだ。

 この国では、生まれてすぐに顔に仮面をつける。

理由は見た目での差別を無くすためとされている、しかし僕はそう思わない。本当の狙いは表情を見えなくすることで感情を抑制しコントロールして社会の歯車にするためだと思う。

仮面は親が仮面登録協会と相談して選ぶ。

仮面を選ぶのにも交換するのもお金が沢山かかる。

僕の仮面は一般的な相場の仮面で一枚15万円ほどするということを母から教えてもらった。

 父と母が、なけなしのお金を一生懸命貯めて僕のために奮発してくれたみたいだ。

 微笑みの仮面以下の仮面にはしたくないからだ。

僕についている仮面は微笑みの仮面で父と母は自分に似ている仮面をつけた。

 そこからは優しい子として高校生まで育てられてきた。

 この世界は誰も本当の顔を知らない。

 本当の顔を知ることは禁止されている。

 それは自分の顔さえも。

優しい仮面をつけている僕は、周りから優しい人と一目で認識されている。

 色々なことをお願いされることが多い。

 横断歩道での高齢の人の荷物運び。

 これはまだ分かる。

 ただ学校でも色々なお願いごとをされる。

優しいお面をつけている人は怒らないということになっている、そこで英雄の仮面のクラスメイトなどから黒板消しなどを依頼されたりする。

 生まれた時から全てが決まっているそんな世界、つまらない世界。

 僕は退屈していた。

僕には友達があまりいなかった。

 クラスではお願いごとはされるけどあくまでそれは都合のいい相手だからだ。

 クラスメイトは英雄の仮面をつけている人を中心に集まる。

 女性のクラスメイトでごく一部の限られた人しか手に入らない薔薇の仮面をつけている人と英雄の仮面をつけているクラスメイトは最高権力者だった。

 英雄や薔薇があれしたい、これしたいと言えばクラスだけではなく、先生はぺこぺこと犬のようにお腹を見せる。

逆に僕たち、普通の微笑みの仮面や下位の仮面には高圧的に振る舞う。

例として先生は僕たちには決して敬語を使ったりすることはなかった。

 僕はそんな世界が嫌いだった。

そんな僕の趣味は数少ないが最近のマイブームは財政破綻をしてしまった街が近くにありそこを探検しに行くことだ。

 子供じみているかもしれない。

 ただ探検は現実を忘れることができ、仮面のことを忘れさせてくれる。

 本当は入っちゃいけないのだけど、人の過去に住んでいた建物に入るのは高揚感があった。

廃校の扉は鍵がかかっていたが、近くに落ちていた金属で叩いたら腐食が進んでいて、簡単に開いた。

玄関は肝試しにきた輩が入った形跡があってガラスが開いていて、そこの隙間から侵入した。

廃校を一人歩く、当たり前だが誰もいない。

音楽室、体育館などを勝手に散策した。

 少し歩いて疲れたので教室の椅子に座ることにした。

そしてそのまま疲れて、机に伏せてうたたねしまった。


誰かの視線で目が覚めた。

まさかこんなところに人などいるはずがない、ただ僕の机の目の前には、薔薇の仮面をつけた女性が一人立っていた。

思わずびっくりして机を大きく揺らしてしまった。

本能的に自分の身を守るために警戒した。

それを見て仮面の少女も少しびっくりした様子だった。

「脅ろかせてごめんなさい」

女性は申し訳なさそうに言った。

どうしてこんなところにいるにか気になったがまず一番気になることを質問することにした。

「あなたは誰ですか?」

「私はみな、あなたの高校の隣の高校の生徒」

隣の高校ってことは上位の仮面の生徒が多いあのロメオ高校の生徒ってことだ。

「そんなエリート高校の生徒がなぜこんなところに?」

彼女は答えなかった。

普段話したことない薔薇の仮面の人と話すのは緊張した。

「あなたこそ、なぜこんなところにいるのですか?」

質問を返された。

「僕は、、」

とても学校や家がこの世界が嫌とは言えなかった。

返答に困った。

「何かしら事情はあるよね」

薄暗くて、その時まで気づかなかった。

別れ際に気づいた、その子の仮面はひびが入っていた。

その日はいつも通り解散した。

僕はあの後すぐに帰ろうとしたが、彼女は

「ここで明日以降も待っているね」

そう言っていた。

僕は次の日も学校終わり、学校へ行くことにした。

別れる前に

「次、来てくれたら面白いもの見してあげる」

そう言われたからだ。

この前の教室に向かった。

みなは一人教室のイスに座っていた。

僕を見るなり

「君は来てくれると思っていたよ」

みなは机の中に手を入れて一冊の大きな本のようなものが取り出した。

「開けてみて」

僕はその本を恐る恐る開けてみた。

そこには人々の写真が写っていた。

その写真の人たちに表情があった。

仮面がついてなかったのだ。

産まれて初めて人の顔を見る。

写真にはなぜか口角を上げている写真が多かった。

「これは仮面をつける前の人の写真、どこでこれを見つけたの?」

「学校の奥の書庫で処分されていないものがたまたまあって。この机の中に隠していたの」

産まれて初めて見る素顔の人たちを見た。

どの写真を見ても同じ顔の人はいなくそれぞれが違う顔を持っていた。

「仮面なんてなければいいのにね」

彼女がそう呟いた。

僕はその後何度か彼女と一緒に廃校を探検して様々な素顔の写真を見た。

泣いている顔、怒っている顔、悔しい顔や喜んでいる顔、様々な顔を沢山見た。

その際にお互いの話を少しした。

みなの学校では薔薇の仮面などの上位の争いが起きていて、薔薇の仮面同士のいじめなどが学校の問題になっているみたいだ。そして当たり前だが下位の仮面の人もいてその人達の扱いに心をひどく痛めているみたいだ。

彼女の仮面のひびは会うたびにどんどん増えていく。

僕はそんな傷ついた彼女をかわいそうと思った。

僕はある日勇気を出して彼女の気になったことを聞いてみることにした。

「あのさ、、、」

場の空気が少し静かになり、彼女がこちらを見つめる。

「その仮面のヒビはどうしたの?」

「これはね、、、何度薔薇の仮面をつけてもすぐにヒビが入ってしまうの、、」

彼女は少し沈黙した後に返答した。

「私の家庭は代々薔薇の仮面って決まっているの、でも私にこの仮面は合わないみたいで何度新しい仮面を作り直してもヒビがは入ってしまうの」

「嫌味じゃなくて、私にはあなたみたいな仮面が合うと思うの」

「この仮面が?」

彼女は頷いた。

「あなたと人の顔の写真を見て、一番好きなのは笑顔の写真なの、私も微笑みの仮面をつけたら仮面の下でも笑っている気分になれるのかなって思って」

僕は自分の仮面がずっと嫌でそれは今も変わらない。ただ自分の仮面を褒められたことに心がきゅうっと暖かくなった、そんな気がした。

その日は帰宅したら父と母が二人そろっていた。

3人での食事に基本的に会話はない。

「母さん、父さん僕にこの仮面って本当に合っているの?」

「なに言っているの!小さい頃のあなた本当に優しくてその仮面がぴったり合っていたのよ!」

小さい頃の僕には、今の僕にはどうなんだろう。聞くことが出来なかった。

僕はその後何も言わなかった。

部屋に戻った。

すると仮面の下から水滴がぽたぽたと垂れていた。

僕はきっと写真で見た、あの時の人と同じように泣いている。

これが涙。

そしてその時、パリッとした音がした。

僕は玄関を出て、夜の廃校へ向かった。

彼女は一人座っていた。

そのころには涙は乾いていた。

彼女の仮面は一面全体がヒビでいっぱいで今にも壊れてしまいそうだった。

「仮面を外してみない?」

「本当の自分の顔が見てみたい。」

僕たちは一人ずつトイレで自分の顔を見てみることにした。

そしてそれぞれが自分の顔を確認した後、仮面を再びかぶって向き合った。

「私って意外といい女だった。」

彼女は気分が高揚させながら発言した。

「たく君はどうだった?」

「僕は普通の顔だったよ」

彼女はふーんと頷く。

今日のことは二人だけの秘密と指切りして自宅にそれぞれ帰った。

僕はその時頭が真っ白で思考出来る状態ではなった。

自宅の自室でもう一度仮面を外すために、仮面に力を込めて外す。

ゆっくりと目を開けて鏡を確認した。

鏡に映っていたのは、真っ白い白い仮面。

そこには喜びの表情も無ければ、何もなかった。

この仮面の下に本当の素顔はあると考え再び仮面を外す。

しかし、何度外してもそこには何もない仮面が現れた。

何度外しても変わることはない。

何もない仮面の表情はとても冷たく感じた。

「これが僕なのか?」

許せなかった。

僕は自分の仮面を近くにあった鈍器で自分の顔に殴りつけた。

彼女には美しい顔があるのに、僕には何もなかった。

怒りよりも悲しい、悔しい。

自分自身が怖かった。

何もない仮面の目元から、赤い水滴が零れ落ちてくる。

ひとしきり泣いた後、僕は押し入れの中からマジックを取り出した。

そしておもむろに自分で仮面に顔を書いた。

震える手で、目や鼻そして口を書いた。

「やあ、今日は遅かったね」

彼女は上機嫌の僕に告げた。

「なんか雰囲気変わったね」

「外した後はひどく落ち込んでいるように見えたけど」

 「なんか、、、明るくなった。」

 僕にはあの日に、自分で書いた本当の顔がある。

 僕は自分の顔を自分で描く。

 この仮面の下の本当の顔。

 仮面が僕の素顔。

何もないなら自分で描けばいい。

仮面の下の自分で書いた仮面は、今日はきっと本当の微笑みを浮かべている。



 

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