エピローグ「そして、データは未来を描く」

 俺が宰相に就任してから5年の月日が流れた。

 俺が立案し実行した国家再建計画は、驚くべき成果を上げていた。


 物流は最適化され、国内のどこにいても新鮮な食料が安価で手に入るようになった。税制は公平化され民衆の生活は豊かになった。教育制度の改革によって多くの子供たちが学ぶ機会を得て、国全体が活気に満ちている。かつて経済が破綻しかけていた国は、今や大陸で最も豊かで安定した国として知られるようになっていた。


 俺が追放された原因である【データ分析】スキルは、今や『神の眼』と呼ばれ国中の人々から尊敬の念を集めている。皮肉な話だ。


 俺は宰相の執務室で最新の国勢調査のデータに目を通していた。

 人口増加率、GDP成長率、国民幸福度……。全ての指標が右肩上がりに伸びている。俺の仕事は順調そのものだった。


 コンコンとドアがノックされる。

「アッシュ、入るぞ」

 入ってきたのは騎士団の総長としてすっかり風格が備わったフェンだった。彼女の腰には相変わらず二本の短剣が差されている。

「どうしたフェン。何か問題か?」


「問題じゃない。お前の好きな新しいデータだ」

 フェンはそう言って一枚の地図を机の上に広げた。

「最近、東の大陸との新しい交易ルートが見つかった。まだ未開拓の資源豊かな土地らしい。うちの調査隊がいくつかのサンプルを持ち帰ってきたぞ」


 地図の上には見たこともない鉱石や珍しい植物の標本が置かれた。

 俺のデータサイエンティストとしての血が騒ぐ。未知のデータ。新しい分析対象。

 俺はスキルを発動させそれらの情報を読み取り始めた。


 《新規アイテム『太陽石』:高純度の魔力エネルギーを内包。動力源として応用可能》

 《新規アイテム『星屑草』:万病に効く可能性を秘めた薬草》


「……面白い。これは国の産業構造を根底から変えるかもしれないな」

 俺の目が輝いているのが自分でも分かった。


 そこへもう一人、訪問者が現れた。

「アッシュさん、フェン。お疲れ様です」

 穏やかな笑みを浮かべたリノアだった。彼女は国の医療と福祉制度を整備し『聖女』として多くの人々から慕われている。


「二人ともここにいたのか。ちょうどお茶の時間にしようと思って」

 リノアは手にしたトレーから湯気の立つハーブティーを俺たちの前に置いた。その香りが部屋の緊張をふわりと和らげる。


「ありがとう、リノア」

 俺は礼を言ってお茶を一口飲んだ。

 変わらない優しい味だ。


 俺たちは三人で新しい大陸の地図を眺めながらこれからのことを語り合った。

 新しい技術、新しい医療、そしてまだ見ぬ冒険。

 俺たちの前には無限の可能性が広がっている。


「なあ、アッシュ」

 フェンがふと真面目な顔で言った。

「お前、元の世界に帰りたいとか思うことあるのか?」


 その質問に俺は少しだけ考え、そして首を横に振った。

「いや、ないな。俺の居場所はここだ」


 元の世界では俺はただのしがない会社員だった。データという数字の羅列の中で孤独に生きていた。

 だが今は違う。

 俺の分析は誰かの役に立ち、国を動かし未来を創っている。

 そして何より俺の隣にはかけがえのない仲間たちがいる。


「そうか。ならよかった」

 フェンはぶっきらぼうにそう言うとニカッと笑った。

 リノアも嬉しそうに微笑んでいる。


 俺はもう一度、窓の外に広がる王都の景色を見た。

 人々の笑顔、活気のある市場、整然と進む馬車。

 その全てが俺たちが最適解を求めて歩んできた結果だ。


 俺の追放から始まったこの物語はハッピーエンドを迎えたのかもしれない。

 だが俺たちの人生はまだこれからも続いていく。


「さてと。まずはこの東の大陸の分析から始めるか。最適化すべきデータはまだまだ山ほどあるからな」


 俺は新たな未来を描き出すために再び膨大なデータへと向き合った。

 リノアとフェンの笑い声を聞きながら。

 これ以上ないほど幸福な気持ちで。

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戦闘力ゼロと追放された俺のスキルは、全ての最適解を導き出す【データ分析】。論理的に成り上がり気づけば一国の宰相に 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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