第3話




 あの時どうして止めなかったの。

 急になに。

 いいから答えて。

 止めたら殺しちゃうでしょ。

 どういう意味?

 ねえ。それじゃあ死にたい人はどうして死ぬの?

 死にたいと思うから。

 おんなじこと言ってる。

 そういう事じゃないの?

 いや、そういうことだよ。死ぬことを選ぶってことでしょ。は生きることを選んだの?

 二択だからね。

 それはどっちも選んでないだけよ。りーちゃんはなにも選択していない。皆そうだから。

 でも選ばないと生きていけないでしょ。

 それは選んだこと、選択の責任をとろうとしてるだけ。わたしが蕎麦を食べられないのも、食べた後に炎症になったり発作を起こすのもわたしが選択したことなの?

 選ぶだけなら自由じゃないの。

 誰もが、自由に選択することさえできないってことよ。一人で生きていくことなんてできない。生まれてくることさえ選んでいないのに、まして自由に死ぬことなんてできないわ。人が死にたいと思うことだって、その人だけのものじゃない。きっと自由に選べてるって思う方が便利だからそう思ってるだけで。

 それでいうなら、選べない方が良いように聞こえるけど。

 みんなが自分の事を選んでいるっていうのは、信頼そのものでしょ。信頼の無い世界に生きていける? 自分のことを自分で選べないなんて、そんな状況に耐え続けられるかってこと。

 手足がなかったら。

 ふーん。

 そんで私の質問はどうなったの。

 ああ、どうして止めなかったって話?

 うん。

 わかるでしょ。止めたら、その人は止まるか止まらないかを選ぶことになる。それは私の責任。たぶん一人を殺すために大勢が救えるだろうけど、あんまり味がいいとは思えないから。

 だから止めなかったと。

 いや。あの時は別。

 なんなのじゃあ。

 暗くて見えなかったの。

 なにそれ。

 だって、見えない先に飛び降りる人なんて居ないでしょ。あたしだったら見えるところを選ぶ。確実に死にたいならね。



 

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「コイキング」の向かいに 三月 @sanngatu

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