第2話
沈んでいく陽を見ているのは、誰かを看取るのと訳が違う。太陽は煮えたぎって卵黄色から炉の中で鉄を
善意よりも悪意に敏感な少女は
あなた誰。
同級生でしょ。
それじゃC組のひと?
少女は静かに息を吐いた。あそう。
何してるの。
ちょっとねといい少女は城壁の上の回廊の左右についているような出っ張り、いわば銃眼のついた壁面の終端にかかる
寒くないの。
え?
寒くないかって聞いただけ。
少女は背後の同級生に目をやった。彼女の手でも掴みかかるのに苦労しないほど薄い肩は、白いシャツを覆う紺色のカーディガンの上からでも分かった。
あなたも上着を着れば。
まあね。置いて来ちゃって。
少女は黙ったまま自分のブレザーの裾を返して裏地を見ると、これを貸してやるというような気の利いた返しは、より一層ぎこちなく見るに堪えない、おかしな状況になりかねないと思ってやめた。そのような気の回し方はまったく初対面同士ならいざしらず、相手を心配することが自分の利益に繋がると考えていてもそれを表に出すことのない器用な人間がやるような仕草であったからだ。そして影というより抜け殻のようになって遠景に重なる山々の更に向こう側を見た。すると陽が光の腕を伸ばすように、闇へと至る回廊を渡る空はもはや青とは呼べない色のその太腕で中天の下に広がる世界を包み、それは彼女たちのいるこの屋上すら例外ではなかった。もう一度肩を震わせる来訪者へと目線をやり、暗闇に目を慣らすようにじっと見据えていた。来訪者は上目づかいで、その瞳には道端に座り込む人間を通りがかりに見やる時のふてぶてしさと、鏡写しに自分の顔の調子を確かめるときの真摯さとがちょうど同居していた。
なに、と少女は突っかかるように口を開いた。それからあっちへ行けというように手をやるとその同級生は手の動きに続いて視線をやり指先の示す方へと顔を向けた。そしてすっかり暗闇に溶け込もうとしていたのでわかる筈もなかったが瞬きするときの
知ってると少女は応えた。見える訳ないじゃん。
同級生は少し身を屈めたが、それはちょうど劇団員が笑う演技すら奥の席の客にも分かるよう大袈裟にやるというのに近かった。そして
もう電源切れるでしょ、と少女はいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます