全てでは無論ないが、メインロードのweb小説で辟易するのは、「!!」つきの会話が延々と続くという点で、もちろんそれが面白みになっているのは分かるのだが、毎度毎度それでは、十往復もしたらもう十分とちゃうか。とつい考えてしまう。
もちろん、わたしが悪い。
それがあるからこそ読者は「わあああ!!」「あああああ!」というその場の雰囲気に没入できるのだ。
そうか、これは読む映像、あるいは読む漫画なのだと意識を切り替えてみると、なるほど、こちらの流れの方がずっといい。
要はヨム側の慣れの問題なのだろう。
脳内映像をそのまま書き起こせば確かにこうなるのだ。
第三回山羊座賞受賞作品「アイリスの赤い仮面」
『人は誰でも人を見下したいと思っている、そして暗い心を仮面の下に隠して生きている』『そんな仮面の下には悲痛が隠されていることがある』そんな、いささか手垢のつきすぎた普遍的なテーマをご自身の得意分野であるファンタジーに引きずり込んで、勢いを失うことなく書き上げたものだ。
一読して、三倍の分量の小説を読んだような気がしないだろうか。
長編は短編のように、短編は長編のように書くのがコツだというが、長編を短編のように書くについてはやや懐疑的であるものの、短編については、巧い人ほど無意識のうちにもちゃんとこれをやっている。
指定が二千文字ならば、少し書けばもうゴールが眼の前という分量だから余計にそうだ。
その二千文字の中にファンタジーの世界をきちっと打ち立て、仮面を登場させ、登場人物を無理なく配置して、最終場面のカタルシスまでひた走る。
「あああああ!」
と書かれているわけではないが、アイリスが感情を暴発させていく様子が見えるのだ。
胸がぐっと詰まるような迫力のある描写と、鮮血の炎を噴いた後にくる一文。
「この仮面は呪われているのだから……」
冒頭の言葉が無人の館内に木霊してくるようなエンディングまで、ピシッと書き上げて筆を終えている。
力のある人が遺憾なくその力を発揮した作品は、読んでいて実に気持ちがいい。
いささかもダレることなく、わずか二千文字のうちに読者を豊かな読書体験に引っ張ってくれる。
「!」は必要なところにだけ置いている。
そこは文字数消化目的で「!!」つきの会話がだらだらと続くような作品とはやはり違うのだ。
さすがは電撃四次選考にまで残った方である(と千織さんからきいて知った)
お手本作品としても最適。
「俺ならもっとうまく書ける!」というファンタジー畠の人がいたら、ぜひ山羊座賞へ。