禁断の漫画

もりの

禁断の漫画

 僕、義雄は、一見すると普通の男子高校生。

 だが実は、誰にもいえない秘密の趣味があるのだ。

 それは少女漫画を集めること。

 毎日、時間さえあれば、書店、古本屋で面白そうな少女漫画を探し集めている。

 今日も、小さな古本屋で聞いたことのない少女漫画を見つけてきた。

 表紙には、一人のお姉さまっぽい雰囲気のセーラー服姿の女子高生が描かれており、 しかも、タイトルは『運命の二人』。

 なんだか百合物っぽい。モロ僕好みだ。

 早速購入した。

 だが―

 家に帰った後、自分の部屋でわくわくしながらページを開くと、何も描いていない。真っ白だ。


「なんだこりゃ? 落丁か?」


 がっかりして閉じようとすると、突然頭に声が響いてきた。


「あら、かわいい子ね、あなた。気に入ったわ、こっちへいらっしゃいな」


 突然若い女性の声が響いたかと思うと、まわりの景色が歪んできた。


「うわ、な、なんだ?」


 何が起こったのかわからず、混乱する僕。

 そしてまた声が響いてきた。


「さあ、早くあたしの妹にしてあげるわよ」


 猫のような甘い声だ。


「ちょ…僕男の子なのに!」


 姿のみえない相手にわけもわからず答えた。

 しかし、どんどん暗転していく世界に、僕は飲み込まれていった・・・・・・





「義雄~、はいるぞ~」


 義雄の兄、義和(よしかず)がドアをガチャリと開け、入ってくる。


「ん? いないのか?」


 部屋は空っぽで誰もいない。

 ふと目の前をみると少女漫画が一冊落ちている。


「あいつ、またこんなものを・・・・・・変な趣味しやがって」


 手にとって表紙を見る。


「一体どんな内容なんだ?」


 漫画の表紙には抱き合う2人のセーラー服姿の女子高生が描かれていた。

 1人は長いカールの髪をした年上の雰囲気の女子生徒。

 もう一人は幸せそうに微笑む、長い黒髪のまだあどけなさの残る女子高生。

 ページをパラパラめくってみる。


「この黒髪のヒロイン、なんか容姿や言葉使いが義雄にそっくりだなあ。名前も義子って名前だし」


 見ればみるほどそっくりであることに、義和は、義雄が漫画にはいりこんだような錯覚を覚える。

 内容はとある女子高に転校したヒロインの主人公が先輩の女子生徒と出会い、その先輩の「妹」となるところから始まる。

 お互い惹かれあい、すれ違い、いろいろと苦難を乗り越え、ついに二人が結ばれるところで終わる。

 少女漫画によくある百合物ってやつだ。最後は熱烈な二人のキスで終わる。


「好きだな、あいつも・・・・・・」


 パタンとページを閉じると、義和は机の上に漫画を置く。


「しかし、義雄のやつ、どこにいったんだろう?まさか本当に漫画の中に・・・・・」


「ま、そんなわけないか。あいつは男だしな。しかしおかしいなあ。さっきまでここにいたはずなのに」


 義和は部屋を出て行った。

 義和が出て行ったあと、机の上の漫画が空いた窓からの風でページがめくれる。そしてとあるページで止まる。

 それはクライマックスでの先輩の女子生徒とのベッドシーン。

 なぜかヒロインの義子が


「ああ、お姉さま。もう、男にもどりたくないわ」


 という台詞を、喘ぎ声でしゃべっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

禁断の漫画 もりの @alfo0g2g0k3lf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ