第2.5話

何度目かの、目覚め。


うんざりするほどの、白く歪な空間。

戻りたくないけど、ここにでしか存在できない。

帰りたい場所は、もう、なくなった。


私は感傷を振り払い、書庫へと向かった。


ここは、入り口である白い歪な空間と書庫しか存在しない。

だから、本を読むことしかできない。

幸いなことに、本は読んでも読んでも、読みきれない。

端が見えない本棚には、隙間なく、本が入っている。


歪な空間と書庫。


それが、今の、私の日常。



ーーーーー


今日は、何を読もうか?


聖者の物語、勇者の物語、魔王の物語、普通の人の物語…。


物語の主人公が変われば、善悪も変わる。

それは、現実でも同じ。


誰かが言っていた。

正義の反対は、もう一つの正義だと。


人の数だけ正義があり、若しくは、正義など存在しないのかもしれない。


神もそう。

ある国では、神と崇めているのに、別の国では悪神として、貶められている。


神も人も、たいして変わらないのかもしれない。


今の私になって、余計にそう考えるようになった。


ふと我に返り、自分の行動は、本当に正しいことなのか、という考えが浮かぶ。

けれど、すぐにその考えは掻き消す。


だって、仕方がないじゃないか。


もう何度も、手を出してきた。

目的のために、切り捨て、全身を血に染めてきたのだから。


誰も知らなくても、私が知っている。


何も知らなかった頃には、もう、戻れない。


本当に、引き金を引いたのは、誰だったのだろうか。


本の海を漂いながら、結局は、いつも同じ本棚に辿り着く。


そして私は、1冊の本に引き寄せられ、ページを捲った。


ーーーーー


魔物の変化と進化について


魔物の増加。

森では、魔力濃度が高い場所が複数存在し、魔力濃度が低くなるまで、無限に魔物が発生する。

街道近くでは、魔道具のゴミが魔力濃度を上げて、同じく魔物が発生する。


魔物は、種類を問わず発生するため、生息域の違う魔物が発見された。


魔物同士で殺し合い、殺した魔物は、殺された魔物から瘴気を取り込み、強くなっている。

取り込んだ瘴気の量によって、身体の大きさ、色、力、知能に大きく影響している。

魔物によっては、魔法を使えるようになった個体もいる。


魔物は瘴気や魔力を求めるため、いずれ、村や街を襲う可能性がある。



このような有力な手がかりを見つけたのは、グラノルス王国、ヴィンセンス・ノーナ・カロネア公爵だった。


グラノルス王国から発信されたそれは、世界中に広がり、今や世界の常識となっている。


また、此度の件は、冒険者ギルドとの協力体制、教会との協力体制における前身となった。


これにより、グラノルス王国と、ヴィンセンス・ノーナ・カロネア公爵の名は、広く知られることになったのだ。


けれど、それは、いいことばかりではない。


尊敬と共に、敵意をも受けることになったのだ。


ルトワール歴838年。

悪い意味で、歴史に残る事件が発生した。


グラノルス王国王都ノルス。

グラノルス王国を代表する美しい都市。

その郊外には、優秀な魔術師を育てるための魔術学園が存在した。


魔術学園は、1夜にして壊滅した。


原因は、瘴気だった。

理由は、カロネア公爵家と国に対する恨み。


魔物の変化に対する対応で、一躍有名になったカロネア公爵家。


ヴィンセンス・ノーナ・カロネア公爵が治める公爵領と隣接するホアン伯爵家。

ホアン伯爵家は、国から要請されたにも関わらず、魔物の対処を怠り、あろうことか、カロネア公爵領に、竜を嗾けた。

それが公になり、国から処罰を受けた。


ホアン元伯爵は、大勢が集まる学園見学日に瘴気を持ち込み、それをばら撒いた。


死者及び、重症者多数。


未曾有の大混乱となった。


死亡者

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アーネスト・ティムス・グラノルス

ソフィア・ラナ・グラノルス

サイラス・マルク・コルネリウス

レナード・ターナ・ローレンツ

アーロン・ネトス・カロネア

マリウス・ナノン・カロネア

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ーーーーー


見覚えのある、いや、よく知った名前。

別人だと、思いたかった。


何度も何度も、名前を消したくてなぞる。

それでも、名前は消えない。


頭が痛い。

耳鳴りがする。

立っていられずに、いつの間にか、倒れ込むように本棚にもたれながら、座り込んだ。

虚ろな目を上に向ける。


ーーあぁ、まただ。また、助けられなかった。


どうしてこの身は、制限があるのだろうか。

ずっと地上にいられたら、守れたのに。

いつも肝心な時に、私はいない。


やるせ無い気持ちが胸に広がる。


できないことを、いつまでも悔いてばかり。

過去を変えるには、こうするしかなかった。


過去を変えても、道が違うだけで、結局のところ未来は同じ。


そんなことは、信じたくなかった。

受け止めたくなかった。

だって、そうしたら、何かが壊れてしまいそうで。


いや、違う。

未来は、変えられる。

過去をかえたら、違う道に進んだじゃないか。


もう一度。


今度は、もっと前の過去に行こう。


私は、戻れない。

進むしかないんだ。


私は、本を破り捨て、立ち上がった。


さあ、もう一度。今度こそーーー

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