米陸軍基地へ

 瀬戸内グループの車に乗り、香里奈が記した場所に到着する。車を止めると、私たちは降りてから準備に入る。美生はノートPCを操作し、ハッキング可能なサーバーを探す。

 しばらくしていると、オフィスで『ブレイバー』となった翼のバックアップで、美生はサーバーの在り処を突き止めた。


『美生さんの作ったツール、すごいです! 流石の私でも、その発想は考えられませんでしたよ!』

「まぁ、政府所属のホワイトハッカーをやってたら、こんなもんだよ。二人とも、準備はできたよ」


 美生の声に、私と香里奈は振り向く。香里奈は車の後部座席に座ったまま、スマホを構える。運転手は目隠しをしているみたいなので、私達が『ブレイバー』であることがバレる心配はないようだ。


「えぇ、こっちはいつでも行けるわ」

「そうね。早く始めましょう」


 私達は、互いのアバターと『ライド』し、『ブレイバー』となる。


「上手くいったみたいね。さて、どう侵入する?」


 私が侵入手段を聞いていると、香里奈は美生のPCに指を刺す。


「あれから入るぞ。この基地のサーバーをハッキングしているのなら、すぐに入れるはずだ」

「あんたにしてはいい判断じゃない? まぁ、それが妥当でしょう」


 皮肉を言う美生だが、香里奈の案には賛同のようだ。そして、美生がPCに手に触れる。すると、私達はPCに吸い込まれるようにダイブした。


「この感じ久々ね。一気に進んでいる感じがするわ」

「相変わらず、ワープしているみてぇだ。こりゃ捗りそうだぜ」

「いつやっても、ファンタジーね。こうしてる自分も信じられないわ」


 インターネットの中をダイブしながら進む。そして、私達は目的地のサーバーに辿り着いた。

 米陸軍のサーバールームに辿り着く。どうやら、まだ『現実世界リアル・ワールド』ではなく『仮想世界ヴァーチャル・ワールド』のようだ。


「あのショッピングモール以来だわ。ここはどこも寂しいものね」

「まぁ、あの時はロボットが多くいてそんな余裕はなかったけど、まだバレてないみたいね」

「よし、行くぞ。まだバレてねぇなら、奴の痕跡を調べられる」


 私達は、サーバールームの中を漁る。『ブレイバー』でいる必要はそもそもないが、脳の回転が早い以上、損はないらしい。


「あったわ。例の情報よ」


 美生がZIP化されたフォルダを発見する。ハッキングを試みているが、どうやら厳重にロックされているので開けないらしい。


「ダメね。パスコードが何重にも指定されているせいか、時間がかかるわ」

「翼。解析できるか」


 香里奈は無線越しに翼に例のフォルダの解析を依頼する。その間に、私達は他にフォルダがないか捜索する。


「これは?」


 私はZIP化されていないフォルダを見つけ出す。すると、ファイルを開く度に不審な履歴が表示されている。


「これって?」

「佐々木の野郎の取引履歴か? どうしてわざわざ陸軍基地に置いてるんだ?」


 美生が履歴を開いていく。私達は表示されているウィンドウを見ていると、驚きの履歴を発見する。


「これは、ナノマシン!?」

「そんな! ヤクザだけじゃなく、米軍にでも売っていたの!?」

「狂ってやがる……。ここまでして金が欲しいのか?」


 佐々木の所業を見て、私達は思わずドン引きをする。それほどに戦争でビジネスをしたいのだろう。


「見て。『量産型機兵』の売買履歴があるわ」

「それで陸軍は喉から手が欲しいのか。自分たちの尊厳を強めるために」


 さらには、あの『量産型機兵』の売買履歴が残っている。陸軍はもう佐々木から数機体購入しているらしい。しかし、この履歴は情報部は把握しているのか。それだけの疑問が残る中、ウィンドウにアラートの表示が出現する。


『皆さん、聞こえますか!?』

「翼? どうかしたの?」


 美生が焦る翼の通信を受ける。どうやら、かなり焦っている様子だ。


『大変です! 私達が侵入したことがバレました! ハッキングしたことがバレたみたいです!』

「そんな! あのプログラムは、かなり強めに作ったはずよ!」

「外部から監視していたハッカーがいたことになるようね」


 私の言葉に、香里奈は頷く。美生もまた、私の方を見て頷きだす。


「悔しいけど、そうなるようね」

「あぁ。これで、退路は塞がれたな。となると、あとはあれしかないな」

「えぇ、強行突破ね」


 私達は佐々木との売買履歴を見るのをやめ、『現実世界リアル・ワールド』に転移する。転移すると、翼から無線が入る。


『状況がかなり複雑になってます! この施設の陸軍の他に、アメリカの電子特殊部隊も来ています! 混戦になるの時間の問題です!』

「なら、三手に分かれるしかないようね。翼、合流に最適なポイントはない?」


 翼は、即座にポイントも捜索する。


『ここです。ここの場所で合流してください!』

「わかったわ。美生、香里奈。ここからは三手に分かれて行動するわ。各々各個撃破して翼が記したポイントに向かって」

「そこで合流するわけだな。了解だぜ!」

「もちろん、殺さない程度に、でしょ?」


 美生の言葉に、私達は頷く。


「そうね。殺さない程度に倒していいわ」

「無茶な注文だぜ。まぁ、人殺しになるのはごめんだけどよ」


 私が扉を開けるタイミングで、香里奈と美生はそのまま突入する。かくして、私たちは陸軍基地からの脱出を開始するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月5日 21:00 隔日 21:00

サイバーブレイン nashlica @nawoc_56

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画