香里奈の苦悩

 草薙美羽と井崎美生が帰った後、瀬戸内香里奈は動かない足を動かしベットに倒れた。大企業を束ねる社長でもあるが、まだ17の少女なのには変わりない。昔からの幼馴染と出会えたことは、彼女にとってもリフレッシュしたことだろう。


「今日も色々あった1日だったわ。でも、いつもより充実したかも」


 一人で寝るには大きすぎるベッドに、仰向けで倒れていると、腕を頭に当てる。『ブレイバー』としても活動している彼女は、人一倍ストレスを感じることが多い。社内には今だに彼女からグループの社長という座を狙う役員が多く、香里奈はその役員たちに目を光らせている。


 7年前に父を研究所の事故によって亡くし、思い出もあった家を引き払ってからは、このビルの使っていない箇所を居住区に変えた。母は父が遺した会社の立て直しに図るために奔走した。

 その奔走が祟ったのか、母は4年前に過労で倒れ、1年後に病でこの世を去った。その時に会社の経営権を全て当時14歳だった香里奈に渡し、彼女は今の地位にいる。もちろん、美羽達とは一緒の高校にも進学できないことは覚悟していた。

 そして、彼女はそれを覚悟し瀬戸内グループの社長に就任する。父と母から受け継いだ経営のセンスを遺憾なく発揮した。そして、グループ全体としての利益を向上させ、現在に至る。


 これも全ては、彼女が『ブレイバー』として活動できるようにするためだ。あの事故から現在まで、彼女は翼と共に『ブレイバー』として、現在の情勢の影に潜む巨悪を探っている。しかし、7年経った今でも、その正体を掴めないでいる。

 途方に暮れていた頃だった。香里奈はある事件の記事とカメラの映像を見て、ある人物を見つける。


「これって、美羽なの!?」


 そう、彼女のとってテロリストによる学校襲撃事件は衝撃的な出来事だった。そこの写っていたのは、『ブレイバー』となって草薙美羽の姿だったのだ。


「まさか、また覚醒したの!?」


 彼女はどこか心が昂っていた。美羽が帰ってくる。その想いだけが、今の彼女を昂らせていた。そして、彼女は自分から接触することなく、ただ待つことにした。そして、闇カジノの所在を突き止め、彼女は井崎美生を通して、草薙美羽に情報を流す。美羽が本当に『ブレイバー』になったのかを確かめるためだ。

 そして、彼女は闇カジノがある施設の屋上でただ二人の戦闘を待つ。そして、彼女は予定通りにその場に待機する。こうして彼女達が戦闘を終わったタイミングで、香里奈は逃げたヤクザを捕まえたのだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


美羽視点――――――――


 瀬戸内グループでの騒動を終え翌日となる。彩葉は友達と出かけているため、一人で家にいる。はずだった。


「なんで、私の家なのよ!?」


 呆れながら、家に来ている香里奈と美生、それに翼に言う。昨日の事もあるが、なぜか私の家に集まっている。


「仕方ないよ。あそこじゃ悪目立ちするし」

「そうね。私の立場上、ここの方がまだ安全よ」

「だからって、なんでそう決まるのよ」


 ため息をしながら、翼の用意した紅茶を飲む。中々に美味しい茶葉だったので、驚いてしまう。すかさず、翼は我が家のキッチンでアフタヌーンティーを用意する。


「皆様、アフタヌーンティーの用意ができましたよ!」

「って、こっちはなんでそんなものを用意するのかしら?」


 これまた呆れながら、アフタヌーンティーを嗜む。4人で嗜んでいると、香里奈が本題を話し出す。


「さて、今度をもっと厄介な事になるわ。今度の相手は米軍よ。私の知ってる情報網によると、彼らの汚職の現場を捉えたらしいのよ。そこを突き止め、彼らを倒す。それが今回やる事よ」

「軍だなんて、随分と大掛かりだね。一体この国で何をしているの?」

「おそらく、佐々木の商売でしょう。上物な武器を仕入れては、決起でも企ているかもね」

「ますます厄介な事になるわね。決起だなんて、いつの時代の話かしら」


 翼が用意したタブレットを、3人で眺める。どうやらヤクザと来たら、今度は軍らしい。それも、世界でも知名度が高いアメリカ軍だ。


「それで? 時間帯はいつ頃なの?」

「今日の夕方くらいよ。食事中の時間帯なら、奇襲しても対処は難しいでしょう」

「それで決まりだね。それでどうする? 私が作ったプログラムを翼に渡してもいい?」

「そうしてくれると助かるわ。では、夕方にここへ集合しましょう」


 香里奈はメモを私に渡す。そして、紅茶の淹れたカップを飲み干す。それを見た翼は、カップに紅茶を淹れた。


「わかったわ。では、夕方に集まりましょう」

「そうだね。でも、まずはプログラムを作成しないとね」

「大丈夫なの? 夕方までまだ時間があるにしても、急がなきゃいけないじゃない?」


 私は時計を見て美生を心配する。でも、彼女の一言でそれは心配事でな無くなった。


「大丈夫だよ。クーフーリンと一緒にやれば、作成するのに2時間あれば十分だから」

『全く。私はそういうの向かないわよ?』


 クーフーリンは、呆れながら渋々美生に付き添う。そして、その場でノートPCを用意してプログラムの作成を開始した。そこに翼も入り、二人で作成する。


「いいところね。相変わらずここは」

「そうね。私たちで守ってきましょう」


 香里奈と共にアフタヌーンティーを嗜む。こうして、私たちは夕方に備えての準備を始めるのだった。

 

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