最終話 『お忍びの正体と別れ――恋もまた研究対象』
そして、翌朝、村は平和を取り戻した。
「あら? もう行くのかしら?」
まだ日が昇り始めた村の入り口で荷物を抱えているアークの姿があった。内緒で村を出ようとしているようだった。
「アキナさん……ええ、僕の目的も終わりましたので一度、国に帰ります」
「そう……ところであなたの本名は? アークは王族のファミリーネームみたいなものだものね……」
「よくわかりましたね、ええ、僕の名前はゾディアです。」
「ゾディア……そう、面白い名前ね、ところであなたは何でお忍びで、こんなところまで来ていたの?」
「……王都のいえ、この国の未来のためにとある人物を探して、旅をしていました。残念ながら亡くなっていたみたいですけどね」
「え? じゃあ目的を達成できてないんじゃ?」
「ええ、ですが……その人物に会うよりも、もっといい収穫があったので一度帰ります。王都の内情も気になりますし……」
アーク……もといゾディアは軽く微笑むもどこか、寂しげな笑顔だった。
「アキナさん、助けてくれてありがとう。あなたには借りができました」
「アキナ……で、いいわよ。それに、借りなんて気にしないで。素材も取れたし、いいデータもとれたし」
そう言って微笑むアキナ、だが、ゾディアはその笑顔を見て、先ほどの寂しげな笑顔とは違い、真剣な顔になる。
「では、アキナ。また、会えますか?」
「さあ? 私は暇じゃないから、でも、私はここにいる。また何かあったらここにきていいわよ」
ゾディアは笑い、アキナの手を取って軽く口づけを落とした。その頬がわずかに赤く染まる。
「では、さようなら、アキナ」
「ええ、さようなら、皇子様。ごきげんよう」
アキナの言葉を受けたゾディアは、懐から一枚の羽の様なものを取り出すとそれを空高く放り投げた、するとゾディアの体が静かに光に包まれ朝日とともに消えていった。
一陣の風が残り、アキナの白衣を揺らす。
「王家の人間にしか持つことを許されない転移の羽か……」
アキナはつぶやくように空を見上げると、振り返り自身の工房へ足を進めながら、懐からペンと紙を取り出した、そして
『人間の感情変化による鼓動の上昇速度――興味深い。再実験の価値あり。』
とメモを取った、彼女にとって、恋ですら“研究対象”だった。
――変人錬金術師リサ。
今日もまた、爆発と恋の香りに包まれていた。
『変人錬金術師アキナの事件簿 ~爆発と恋の香り~』 罰t星人 @Tiga-04
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