我らが青春よ、英雄になれ。〜青い狼煙〜
暁月 煌
青い狼煙
「我らが青春よ、英雄になれ。 〜青い狼煙〜」
この物語は、「我らが青春よ、英雄になれ。」シリーズの第一話、「青い狼煙」です。
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7月の1時限目、8時30分。道徳の時間。
教室は、夏らしい汗ばんだ匂いで溢れていた。
女子力の高い子が汗拭きシートで首筋を拭っている。
頼りない風を作り出す扇風機が汗拭きシートの残り香を風に乗せる。
みかんとか、れもんとか、そんな感じの柑橘系の香り。
みんな額から汗を垂らし、鬱陶しそうにそれを手で拭う。
私も例外ではなく、部活の朝練があったから、汗でワイシャツが透けてしまう。
―下着、透けちゃっていないかな。
ふと、そんなことが気になった。
いつもと同じ、どうでもいい先生の話。
大抵の生徒は寝てるか、一応先生の話を聞いている。
私は窓辺の席で、たまにしか吹かない夏風を頬に感じ、
「青春」という意味を思い浮かべる。
―あなたは将来どんな人になりたいですか。
こんなことが書かれた紙が前から渡された。あわてて一枚取り、後ろの子に渡す。
「15分で考えろー。あとで何人かに発表してもらうからな。」
教室には無駄に声を張る担任の声と、蝉の鳴き声、扇風機が出す静かな風の音しか聞こえない。
将来、どんな人になりたいか。
強いていうならこの間読んだ小説に出てきた英雄。
あんな女の子のようになりたい。
同胞を集めて立ち上がり、革命の第一歩を踏み出した英雄の女の子。
自分が住んでいた村を焼かれ、他の人に自分と同じ思いをさせないために戦った優しい子。
彼女はその世界に存在する、理不尽という名の怪物に向かって牙を剥いた。
そこにどんな絶望があっても、その先の未来を見、前を向いて駆け抜けた。
彼女の人生は逆境ばかりで、最後はあと一歩のところで死んでしまう。
ハッピーエンドでもなかったその小説は、それでも私の心を動かした。
―かっこいい。
ただその一言しか出てこなかった。
私に語彙力があればもっと素敵に、適切に表現できたのだろうか。
普通の人生なんてわたしの性に合わない。
だから、あんな英雄になりたいと思った。
英雄になって、この世界の全てを変えてみたい。
そんな想像すら、許されるような気がした。
周りのもの全てを動かす力に、憧れた。
そうは言っても現実では本当の英雄や革命なんてなれっこないし、できっこない。
だから今できる、私の革命を起こそうと思う。
―高校生にもなって道徳の授業なんて、なんの意味があるの。
そう思ったから、昼寝と空想という手段で反抗する。
私の革命は、これから始まる。
名前のない、小さくて、青すぎる革命。
だけど、それは確かに「わたし」という物語に刻まれる。
永遠に消えることのない、わたしの革命。
今、狼煙を上げる。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
我らが青春よ、英雄になれ。〜青い狼煙〜 暁月 煌 @akatsuki_kou
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