第4話 ドッジまさし
軌跡の一球
――報告書。
対象は、幼少期より「特殊部隊」育成を受けていたとされる少年。
氏名は不明。ただ、呼称は“たかし”。
第一章 幼少期の記録
物心ついたときから彼は走っていた。
庭先での反復横跳び。
砂場での匍匐前進。
縄跳びの二重飛びは、彼にとって空挺部隊の降下訓練だった。
「泣くな。立て」
父の声が響く。転んでも起きる。
その反復の中で、彼は戦士の目を宿していった。
第二章 訓練の成果
現在。
校庭でのドッジボール。
敵陣から放たれた一球が、彼の胸を狙う。
――瞬間、彼は受け止めた。
まるで特殊部隊員が手榴弾を処理するように。
仲間の視線が集まる。
「これが俺の訓練の成果だ」
彼は心でつぶやき、ボールを握り直す。
ボールを投げる瞬間、彼の脳裏には映像が走った。
十年後。
しずかと結婚し、子どもを抱きしめる未来。
夕暮れの帰り道、笑い合う家族。
「幸せは、もう掴んだも同然だ」
第三章 崩壊
だが次の瞬間、世界が裏返る。
轟音。
顔にめり込む衝撃。
視界が暗転し、空気が凍る。
彼の目に最後に映ったのは、対面でガッツポーズを決めるまさし。
汗と歓喜が、彼を支配していた。
第四章 俺の勝利
カメラはまさしに切り替わる。
「勝った。ついに、俺が勝ったんだ!」
その足はしずかに向かって走る。
胸の奥から噴き上がるオーラ、赤黒い炎のように燃え立つ闘志。
「すべて、この瞬間を狙っていたんだ」
まさしの笑みは、勝者のものだった。
だが、しずかは動かなかった。
彼女が駆け寄ったのは、倒れたたかしの方だった。
終章 笑み
立ちすくむまさしの影が長く伸びる。
しずかの姿は遠ざかる。
しかし、その顔には消えない笑みが残っていた。
「たかしの奴、これを狙っていたのか」
心の奥に響いた自らの声。
誰も気づかぬまま、教室の片隅で——
その笑いは不気味に広がっていった。
(了)
まさしとたかし akagami.H @akagami-h
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