第3話 ラブレターに想いを乗せて

『 野田川健人のだがわけんと君へ


 気持ちを口に出しちゃうと素直になれない気がしたから、手紙を書きました。

 突然でびっくりしたかな?

 いつも素直になれないから、今は素直に気持ちを伝えようと思います。笑わないで読んでね。

  

 幼稚園の頃から一緒にいて、気がついたら健人が隣にいることが当たり前だって感じていたから、もし誰か好きな人が健人に出来るって想像したことが無いんだ。

 小学生の時に野球を始めてから、健人、モテ始めてたの気づいていたかな。幼馴染なんだから、紹介してって何回か言われたことがあって、その時は自分で直接気持ちを伝えることに意味があるんだよって、女の子に言ったんだけど、正直他の誰かに健人を渡したくないって胸のあたりがモヤモヤしていたの。

 

 小学五年生の臨海学習の時に初めて一緒に料理をした時、間違えて指を切っちゃった私を直ぐに、先生のところに連れて行ってくれて、痛くて泣いてた私の傍にずっと居てくれたの覚えてる?

 私はあの時、恋に落ちたんだよ。

 傍にいたから、気が付かなかったけど、私はずっと、健人の事を男の子として見てたし、他の子がかっこいいと言っている人が居たとしても、健人を基準に考えてた。


 健人に好きな子が居るって噂を聞いたことがある。迷惑をかけたいわけじゃないけど、言わせてください。

 好きという気持ちを教えてくれてありがとう。これからも野球応援しているから、高校に行っても続けるんだよね?甲子園に行って野球しているのを楽しみにしてる。


 もし、時間があったら屋上で最後に少しだけ話したいです。

 今日の放課後、待ってるね。


                          高木 亜瑠たかぎ あるより』




 アンジに背中を後押しされたから、気持ちを全部手紙に書いてみた。

 登校した時にこっそり下駄箱に入れて、その日の授業は何も集中できなかった。放課後、健人が話しを聞きに来てくれるか分からなかったし、突然告白してドン引きされてないか不安になった。

 不思議とその日一回も健人には会わず、放課後屋上に言ったら、先に健人が来ていた。


「ごめん、待った?」


 私は慌てて縁との元に駆け寄る。フェンス越しに校庭を見ていて、駆け寄った私に、ポケットからクローバー柄の便箋を取り出す。


「亜瑠、こんな手紙下駄箱に入れて、他のやつに読まれたらどうするんだ」


 怒っているのか、顔が少し赤くなっていて、しゅんとする。だって、素直に口に出せないから全部気持ちを書き現した。小さいころから一緒に居たから、今更好きですだなんて言えるわけがない。


「だって学校で健人のこと呼び出したら、すぐに噂になるでしょう」


 幼馴染だって知ってる人には誤解されないかもしれないけど、健人が人気者なのは皆知っている。何人もの人に告白されているのに、彼女が居ないことを不思議がられて、よく質問されるんだから。


「お前からの呼び出しを蹴ったりはしない。それにメッセ飛ばせばいいじゃん」


 手紙を大切そうにポケットにしまう。アンジが想いを伝えるのは手紙って言ったから行動したけど、確かにメッセでも問題は無かったんだ。でも、私の気持ちを伝えるなら、手書きでしっかりと伝えたかった。

 一文字一文字に気持ちを込めて書くのは凄く楽しかった。


「家で話したら、お母さんとかに聞かれても恥ずかしいし」


 学校で誰かに見られた方が恥ずかしくないかもしれない。

 健人が私の髪の毛をぐじゃぐじゃになるまで撫でまわす。この時のために必死でセットして来たのに、台無しじゃない。


「ちょっと女の子の髪の毛を乱さないでよ」

「お前が鈍感過ぎるのがいけないんだ」


 普段あまり他人を怒らない健人が珍しく不機嫌になっている。私何か悪いことしたかな。鈍感って、手紙書いて私ただけじゃない。


「俺もお前が好きだから、こんなまどろっこしい手紙なんか寄こさずに行ってくれれば、良かったのに」

「嘘だ」


 私は乱された髪の毛を手櫛で治しながら、目の前にある健人の顔をまじまじと見つめる。幼稚園の頃は同じくらいの目線だったのに、いつの間にか頭一個分と少し目線が上になっていて、可愛かった声も、低い男の人の声に変わって言って。野球を始めたのが理由だけじゃないくらいに、筋肉がついてきて、「可愛かった幼馴染の健人」から「男の子」に変わっていくのも正直恥ずかしかったのに。


「本当だ」


 一言だけ健人は言うと、はぁっと私に聞こえるように大きなため息をついた。


「野球部のマネージャーさんと仲良しじゃない」


 練習後に差し入れにジュースを持って行ったことがある。大体いつもマネージャーさんが嬉しそうに健人にドリンクホルダーを渡しているのを見ていた。フワフワのタオルを渡して、それで汗を拭く姿を見ていると、自分の出る幕は無いんだって思って、もう二度とやらないって決めたのに。


「あれは部活だからで、そういう関係じゃない。マネージャーなら全部員に配ってるだろう」


 呆れたように健人はその場にしゃがみ込む。私は必死に気持ちを手紙に書いたのは、健人がもう誰かの物だと思ったから、それでも伝えないと、前に進めない気持ちがあったから、伝えたのに。


「健人好きな人いるって言ってたし」


 告白をしたいから呼び出してって言った子が、泣きながら私に教えてくれた。『呼び出してくれてありがとう。でも健人君は好きな子が居るから、私じゃダメだったんだって。想いを伝えられて良かった』って言っていた子が居るから。

 しゃがんだままの健人は見上げるようにして私の顔を見た。その瞳はどこか熱が籠っている様に見えるのは気のせいではないかもしれない。


「それはお前だ。何度も言わせるな」

「はい?」

「高木亜瑠のことを俺は幼稚園の頃から好きだった」


 すくっと立ち上がる健人は耳まで真っ赤にしている。恥ずかしそうに顔を右手で隠していた。


「そんな素振り一回も見てない」


 私は過去に健人に好きと分かるアピールをして貰ったか記憶を手繰ったけど、一つも思い出せない。


「……その頃お前は兄貴に夢中だったろう」


 苦しそうな声に、私は小さなころに健人の兄、悟に惹かれていたのを思い出す。


「そうだけど、あれは小さいころに年上のお兄ちゃんに憧れる気持ちみたいなものだから」


 紗奈を見て分かった。あの時の気持ちは憧れの気持ちで本気の恋じゃなかったって事。

 健人は顔覆っていた手を外し、私の手を触ってきた。


「だから、困らせたくなかったんだ」

「ずるい」

「ずるいのはお前だよ。今更好きだって言ってきて。俺は何年我慢してきたと思ってるんだ?覚悟できてるんだろうな」

「覚悟」


 自分から告白をした。健人は昔から私の事が好きだと言った。

 ということは答えは一つしかないじゃない?OKもらえるとは思っていなかったので、私は、逃げようと一歩後ろに下がろうとしたけど、健人は握っていた手を離してはくれなかった。


「野球頑張るのは中学までって約束してるんだ。高校は野球推薦で行くわけじゃないから、亜瑠と同じところを受けるつもり」

「そんなの聞いてない」


 高校が離れると思って、恥ずかしかったけど、自分の気持ちに区切りも付けたかったから、伝えた気持ち。どうすればいい。こういう時こそ、恋愛マスターのアンジが居たら相談が出来たのに‼


「言ってないからな。亜瑠をビックリさせたかったんだ」


 今までにないくらいの、嬉しそうな笑顔に私は、ここ最近抱いていた不安を口にした。家は近所かもしれないけど、学校が変わったら自然と離れてしまうものだって考えていたから。


「離れなくていいの」

「ずっと一緒にいる。離すつもりはないからな」


 健人は握っていた手の力を強め、ギュッと私を引き寄せ抱きしめた。


「亜瑠の方から告白してくれるって思ってなかったからすっごく嬉しい」

「離してください」


 腕の中でもがいてみるが思っていたよりも健人の力が強い。


「駄目。やっと両想いになったんだから離しません」


 そのまま健人が満足するまで抱きしめられていると、小さな声で呟いた。


「なんだこれ?雪か?」


 私を話、足元に落ちた物を拾った。

 健人が拾ったのは白い鳥の羽。

 


 

 私の恋は、天使アンジが間違えなく、叶えてくれた。

 恋愛マスターなのは本当だったんだ。

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天使の恋愛相談 綾瀬 りょう @masagow

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