先生、走る。

AKTY

先生、走る。

 部屋に入って荷物を置き、いつものように棚に目を向ける。すぐに気がつく違和感。その惨状が飛び込んでくる。情報が網膜から視神経をつたい、後頭葉へ。そして担当領域がそれぞれ分析し、連携して統合した像が側頭葉を経由し、前頭葉で解釈される。

 遠藤は理解した。そこに在るはずのものの不在を。そこにあってはならない文字を。

 こめかみが脈打ち、熱が一気に上昇する。前頭葉が発火して、頭頂部へ向けて爆発する。爆風が吹き上がるように、そこに髪があったならば、まさに怒髪天を衝くといった様相を呈していただろう。

 心臓が激しく鼓動し、言葉が、あの忌まわしい文字が、跳弾のように体内を跳ねまわる。

 花岡、花岡、花岡、花岡、花岡、ハナオカ、ハ、ナ、オ――

「カーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 ついに内側から溢れた怒りの咆哮が口腔から迸る。遠藤は衝動に突き動かされてドアを激しく開け放ち、走り出す。行き先も考えず、ただ本能の赴くままに全力で廊下を疾走する。花岡という名をひたすら身内でこだまさせながら。

 

 中学校で生活指導を担当している遠藤は、毎朝欠かさず校門の前に立って、生徒がやってくるのを待ち受けている。どんなに忙しかろうと、体調が悪かろうと、これだけは人任せにはしなかった。澄んだ朝の空気の中、生徒から元気な声で挨拶をされると、それだけで体に気力がみなぎる気がする。教師冥利に尽きるというやつだ。

 もちろん目的はそれだけではない。登校してくる生徒たちの服装のチェックをするのも生活指導の大切な仕事だった。服装の乱れは心の乱れ――使い古された言葉ではあるが、遠藤は真実だと実感していた。髪の毛を茶髪にするだとか、制服を崩して着るだとか、靴の踵を踏むだとか、それらは生徒から発せられる重要なサインであると考えていた。教師たるもの決して見落としてはならない。問題が大きくなってからでは遅いのだ。非行の芽はできるだけ早く発見し、育ち切る前に摘んでしまうに限る。

 さらに昨今は携帯電話も普及してきて、生徒の中にも学校に持ち込む者がちらほら出てきていた。あのようなものが生徒の情操教育に好ましかろうはずがない。技術の発展を押し留めることはできないだろうが、子どもたちの健全な育成のために、なんとしても教師が正しく導いてやらねばいけないと、遠藤は強く決心しているのだった。

 そろそろ時間のようだ。向こうから必死で走ってくる生徒が数人。遠藤は「遅いぞ」と声を掛ける。生徒は息を切らしながらあいさつをして、下駄箱へと駆け込んでいった。

 このあとのスケジュールを思い浮かべながら腕時計を確認したその時、爽やかな一筋の風が吹いて遠藤の髪をフワッとなびかせた。顔を上げて、その風が向かう先に目を向ける。⋯⋯そいつがやってきた。

 遅れそうにも関わらず悠々と歩いてやってきたその生徒・花岡は、きちんとお辞儀をしながらひときわ元気な声であいさつをする。

 服装の乱れもなく、時間が遅いこと以外は完璧な態度であった。いや、その時間帯ですら、こちらが五分前行動を奨励しているがゆえに急かしているだけで、遅刻というわけではないのだ。しかしそうでありながら、いやそうであるがゆえにかもしれない。遠藤はこの花岡という生徒を嫌っていた。憎んでいたと言ってもいいかもしれない。

 苦々しく思いながらもあいさつを返す。生徒に対しこのような個人的感情を抱くことに戸惑いと、多少の自己嫌悪感があるが、こればかりはどうしようもない。少なくとも態度にだけは出さないようにするのが大人として、教育者としての最低限の義務だと考えている。

「ちょっと遅いぞ。もう少し余裕を持って登校しなさい」とたしなめる。

「すいませ~ん」悪びれる様子もなく、それでもちゃんと礼はして去っていく花岡。その背中に、何か言い足したい衝動が込み上げたが、言葉にはならなかった。

 それから彼はようやく駆け出し、校舎へ向かっていった。


 始業の鐘が鳴ると遠藤は校門を閉め、施錠する。今は各学級でホームルームが始まった頃だ。担任のクラスを持たない遠藤は、ちょっと職員室に寄って必要な道具を取ったあと、授業の準備のために理科準備室へ向かう。

 扉の鍵を開け、薄暗い室内へ入る。手探りで壁のスイッチを押して明かりをつけた。そして奥にある机に、とりあえず手にした荷物を置き、すぐ左隣の棚へ目を向ける。

 その目を向けるという行為は遠藤の毎日のルーティンだった。そこにあるのはガラスのケースに入った、握りこぶしを一回り大きくしたくらいの美しい蛍石である。遠藤が鉱物の同人即売会で入手してきた石だ。特別に高価すぎると言うほどでもないが、その質感、サイズ感ともに遠藤のお眼鏡にかなった逸品で、大切な宝物だった。

 生活指導という立場でありながら、個人の私物を職場に持ち込むことに問題はあったが、遠藤はそれを「生徒に資料として見せたいから」という理由で許していた。実際に生徒に披露する機会を作ってもいた。こういう素晴らしいものをその目で見ることは必ずいい経験になる、と信じていた。

 そういえば花岡のクラスでも見せたことがあった。遠藤はその時のことを思い浮かべていた。直前に出会ったあの生徒が遠藤の記憶を呼び覚ましたのだろう。あれは地層についての授業だった。

 風化して脆くなった地表の岩石は水によって削られ、下流へと運ばれる。緩やかな流れの場所で堆積して層ができる。この時点では砂や泥、小石など様々な物質が混在しているが、その層が積み重なっていくうちに荷重によって押し固められる。水に溶けていた鉱物が隙間に入り込み、粒同士がくっついて堆積岩となる。この指導要領に即した説明から遠藤はさらに発展させる。世の中にある様々な鉱石についての、遠藤の個人的情熱を含んだ講釈が始まる。

「この世界の岩石ってのはな、ただの石ころじゃないんだ。地球の時間を閉じ込めた記録なんだよ。ひとつひとつ、成り立ちも姿も違う。先生はそういう“個性”をもった石たちが大好きでな……」

 ある程度話が弾み興が乗ってきたところで遠藤は言った。

「先生な、とても立派な石を持ってるんだ」

 言いながらいそいそと理科準備室へ向かい、丁重な動作でそのガラスケースを持ち運び、教卓の真ん中に据えた。

「これはな蛍石、フローライトとも言うな。ああ、ちょっと、窓際の席の者、暗幕を閉じてもらえないか?」

 電気も消して部屋が暗くなると、一緒に持ってきていた紫外線ライトの光を当てる。青白い幻想的な光が放射され、生徒らの感嘆の声や、うっとりとしたようなため息が聞こえてくる。長時間紫外線を当てるのは石にとって決して好ましくないが、この瞬間の生徒たちの反応を聞けるのならやぶさかではないと考えていた。

 ライトを消し、教室の電気をつける。暗幕をもとに戻すよう指示する。生徒たちの好奇心に輝く瞳を満足して見渡し、こう告げる。

「じゃあもっと近くで見たいだろう。いっぺんに来ると大変だから班ごとに前に出て見に来い。まず一班から」

 生徒たちはワイワイとはしゃぎながら言われた通り順番に前に出てくる。遠藤はガラスケースも取り外し、いろんな角度から見えやすいようにしてやる。この時の自分の周りに集まってくる熱気が遠藤には堪らない。これこそが学習であると思っていた。

 そしてついに花岡のいる班が前に出てくる。花岡も他の生徒と同様に真剣に石を見つめていた。いや、それ以上に、どこか魅入られたようでもあった。花岡は自分でも意識せずそっと指を伸ばし、石に触れようとした。

「さわるな!」

 遠藤は自分の発した強い言葉に驚いた。そんなつもりはなかったのだが、いつの間にか声に出ていたのだ。花岡はきょとんとした表情で遠藤を見ていた。

「いや、すまない。こういう石は見た目よりもずっと脆いんだよ。だから不用意に手を触れてはいけないよ」と最後はクラス全体に向けて発し、なんとかその場を取り繕った。横目で花岡の様子をうかがうと彼は遠藤の目を見つめたままニヤリと笑ったのだった。


 チャイムが鳴って遠藤は自分がしばらくほうけていたことに気づいた。あの時の花岡の顔。遠藤はあの笑いの意味を測りかねていた。叱られたバツの悪さをごまかすはにかみか、それとも声を荒らげた教師に理解を示す笑みか、あるいはそのまま自分への嘲笑であったのか。それ以前からどこか相性の悪さを感じ、苦手としていた生徒だったが、あの日のあの瞬間から、もっと得体のしれない何者か、自分とは決して相容れない天敵であるような気がしていた。

 そういえば、と遠藤はスケジュールを確認する。今日は三時間目に花岡のクラスの授業があるのだった。顕微鏡を使って食塩の結晶を観察する実験を予定していた。何もあろうはずがないが、遠藤はどことなく不穏な予感がしていた。


 三時間目、実験は滞りなく進んでいた。食塩水をスライドガラスにスポイトで垂らし、アルコールランプで乾燥させる。ランプの炎が小さく揺れ、しずくの縁から白い結晶がじわじわと浮かび上がってくる。それを顕微鏡にセットし、低倍率でピントを合わせていく。教室のあちこちから、見えただ見えないだの、活気ある生徒の声が聞こえる。実験はこうでなければと遠藤は満足して眺めていた。しかしその時花岡がスッと挙手をし、こう言った。

「先生すいませ~ん。なんかぜんぜん見えないんですけど」

 遠藤はギクリとしたが態度には出さずその班の机へと向かう。なるべく花岡とは目を合わせないようにしながら、班員全員へ向けて言った。

「どれどれ、ちょっと見せてみろ」

 花岡は即座に椅子から立ち上がり、顕微鏡の前を譲る。遠藤は花岡が座っていた椅子の温もりに嫌悪感を覚えながら腰を掛け、顕微鏡をのぞき込む。その時⋯⋯

「あ、先生ハエが⋯⋯」と言いながら花岡は遠藤の頭の上を払うような仕草をした。

 遠藤はその動きを感じ取り、大きく反応してしまう。反射的に花岡の手から身をかわそうとして、のぞき込んでいた右目を接眼部に強かに打ちつけてしまった。

「ううう」と小さなうめき声が漏れた。

「先生大丈夫ですか」と慌てた様子で声を掛ける花岡。ちらほらと他の生徒のクスクス笑いの声が聞こえた。

 遠藤はあくまでも平静を装いながらそのまま顕微鏡を操作し、これで見えるからと言い残して教卓へ戻った。手元のプリントを整理するフリをしながら、燃えるように熱くなった顔面を生徒たちの目から隠す。胸の奥で、押さえていた何かが音を立てて膨らんでいく気がした。


 次の時間は三年生の教室で授業した。まだ内心の変調は続いていたが、授業を進めていくうちにだんだん平常へ戻りつつあるように感じた。受験を控える三年生に対して、いい加減な授業をするわけにはいかないという意識がそうさせるのだろう。

 丁度キリのいいところまで進めたタイミングで四限の終わりを告げるチャイムが鳴った。次の時間までの課題を指示してから、互いに礼をして教室を出る。廊下は給食の支度を始める生徒たちで明るく活気づいていた。そういえば、と遠藤は思った。今日は血の巡りが良すぎたためか妙に空腹感が強いようだ。給食のメニューはなんだろうと歳柄にもなくはしゃぎたくなった。急いで職員室へ向かう。

 二年生の教室がある階にさしかかった時、同じく授業を終えたのであろう国語の三浦先生に呼び止められた。三浦先生は妙齢の美しい女性で、生徒たちからも人気がある。この歳でやもめの遠藤にとって眩しい存在だった。

「なんでしょう」と頬を上気させながら応対する遠藤。要件は通常の業務に関する質問だったが、遠藤の気持ちはソワソワと浮ついていた。

 そんな時、またやつが、花岡がやってきたのだ。花岡は遠藤の顔をちらりと見やり――と遠藤は思った――三浦先生を目指して駆けてくる。話はほとんど終わっていたので、遠藤はすぐにこの場を立ち去ろうと考えたが、少し遅かった。

「みうらせんせ~い、オイラもう腹が減ったズラ〜」と花岡。遠藤はつい睨みつけてしまうのを止められなかった。

「もう、な~に、花岡くん、そのしゃべり方」と甘い声で言って、三浦先生はうふふと笑う。

 遠藤はその瞬間、三浦先生が自分の頭を盗み見たような気がした。顔から血の気が引き、心臓がギュッと締め付けられるように痛んだ。遠藤はどうにか三浦先生に自分の表情を見られないように、軽く礼をして、そそくさとその場を立ち去った。花岡と三浦先生はまだ楽しげに笑いながら会話を続けていた。

 

 一日の授業がすべて終わり全校での掃除の時間となった。スピーカーからは軽快なBGMが聞こえてくる。花岡は理科室および理科準備室を担当する一年生たちを待ち受けて、しばらく監督したあと、用があるからと言い残して職員室へ向かった。掃除後に準備室は施錠しておくようにとの指示も忘れなかった。

 その日遠藤が顧問を務める科学クラブの活動はなく、生活指導に関する簡単なミーティングはあったものの、それもすぐにお開きとなった。仕事もそれほどたまっていなかった遠藤は、この機会にあの宝物を思うさまに愛でようかと思い立ち、急ぎ足で理科準備室へと向かった。

 指示通りきちんと施錠されているのを確認したあと、鍵を開ける。薄暗い部屋に入り、後ろ手でドアを閉め、壁のスイッチを押す。まっすぐ奥の机に向かい、荷物を置いたあと左隣の棚へ目を向ける。異常に目を奪われ遠藤は立ち尽くした。

 ガラスケースの中に鎮座しているはずの蛍石が、ない!?その代わり一枚のコピー用紙が貼られていた。そこにはマジックペンの太い字でこう書いてあった。


    少しの間お借りします

    今日中に必ず戻します

            花岡


 激しい咆哮をあげて部屋を飛び出した遠藤は、全力で廊下を疾走した。花岡の居場所に当てがあるわけではなかったが、本能の赴くままに動いていた。自然とまずは花岡のクラスへと向かった。

 教室のドアを開けると、そこには居残って雑談をしている男女二人ずつの生徒たちがいた。遠藤は激しい形相と語気のまま問いかける。

「花岡は!花岡はどこにいる!」

 生徒たちは日頃見たことのない遠藤の様子に怯えている。男子生徒の一人がおずおずと答えた。

「分かりません。たぶんもう帰ったんだと思います」

 遠藤はさらに問う。

「やつは、花岡はどこに住んでいる!」

 生徒は誰も知らないのか、恐怖で答えられないのか、みな黙って首を振った。

 遠藤は自分で問いかけながら、住所は職員室で調べられることに気がつく。そのまま生徒たちに声をかけることもなく、身を翻して飛び出した。


 職員室へと向かう廊下の途中、昇降口のあたりを通りかかった時、遠藤は視界に入ったものに気がついて急ブレーキをかけた。そこには部活の最中であろう数人の生徒に混じって、今まさに靴を脱ごうとしている花岡の姿があった。

 遠藤の内部で怒りが再び爆発した。体内をひたすら跳ね回っていたその言葉が、ついに行き場を見つけて形となって迸る。

「は、な、お、かーーーーーーーーーーー!!!!!」

 遠藤は花岡に向かって駆け出した。不意を突かれた花岡はそのまま動かずに立ち尽くしている。遠藤は走る勢いのまま右腕を大きく振りかぶり、花岡の顔面に向けて、一切の躊躇なく固めた拳を打ちつけた。

 長い教師生活の中で、生徒の頬に平手を浴びせたことは幾度かあったが、拳を他人の顔面に叩きつけたのは人生で初めてだった。肉と肉の接触ではなく、固い骨と骨とのぶつかり合い。人を殴るというその初めての感触は、快感となって遠藤の背後へと突き抜けていった。

 遠藤はさらに追撃を加えようと胸ぐらをつかみ上げ、拳を振りかぶる。花岡は覚悟を決めているのか、それとも恐怖ゆえか、力いっぱい歯を食いしばっていた。遠藤にはその表情が猿の威嚇に見えた。再び拳を叩き込む。

「キャーーーーーーーー!!!」近くにいた女生徒の叫び声。そして他の教師を呼びに行く声が聞こえた。

 すぐに職員室から駆けつけた男性職員たちが遠藤にしがみつき、羽交い締めにする。倒れ込んだ花岡のもとへは三浦先生が介抱に駆け寄っていった。押さえつけられながら遠藤は見た。花岡がビニールの袋を落とさないように大事に胸に抱えている姿を。


 職員たちはみな、花岡に同情的だった。

 花岡は蛍石を黙って持ち出した理由として、妹にきれいな石を見せたかったのだと証言した。掃除の時間に何となくあの石が気になって、理科準備室へ赴いたのだという。掃除を終わって施錠しようとしていた一年生に声を掛け、先生に頼まれたのだと言って、鍵を受け取った。しばらく石を眺めているうちに、以前あの授業があった日に、すごい石を見たという話を妹にしたことを思い出した。するとどうしても妹に見せてやりたくなって、張り紙を残して持ち出したのだという。部屋は施錠して、鍵は自分で職員室に返しに行ったとも告げた。

 急いで家に帰った花岡は小学校から帰ってきていた妹に蛍石を見せてやった。もちろん花岡の家には紫外線ライトなどないので、あの時見た美しい光は見せられなかったが、それでも妹は珍しい石を非常に喜んでくれた。妹は手を触れたがったが、そこは遠藤の言いつけを守り、直接触れてはいけないんだと妹をたしなめた。その後花岡はビニール袋に入れた蛍石を大事に胸に抱いて、急ぎ学校へと戻ってきたのであった。


 花岡が無断で石を持ち出したのはたしかに悪い。しかし彼はきちんと置き手紙も残していたのだし、ああまで激高する理由はないじゃないか。さらに暴力を加えるなど以ての外だ、という意見が職員たちの総意であった。特に遠藤に苦しかったのは三浦先生が言い放った次の言葉である。

「だいたいあれがそんなに大事なものでしたら、学校に持ってなど来なければよかったんじゃないですか!?」三浦先生は目を真っ赤にしたままそう言ったのだ。

 口にこそしなかったが、言外に生活指導教師でありながらという非難も含まれていると遠藤は読み取った。遠藤を取り囲むすべての職員の目が、冷ややかにそう言っていた。

 花岡は聞き取り後、即座に病院へと連れていかれた。頭部への打撃を被っているため、精密な検査が必要なのだという。そのためすぐに保護者も含めた話し合いはできないと判断された。さらに詳しい調査と処分については後日ということになり、今日のところは自宅謹慎をしておくようにと、校長から命じられたのだった。


 花岡は自分が悪かったのだから遠藤先生を責めないでほしいと両親を説得したのだという。そのため事態はそれ以上大きくなることはなく、徐々に沈静化していった。遠藤は花岡家をはじめ、関係各所への謝罪行脚を行った後、減俸半年と生活指導等、学内の全ての役職の任を解かれることとなった。

 授業には早々に復帰できたが、生徒たちからは暴力教師と陰口され、同僚は露骨に距離を置いているように感じる。三浦先生はあれ以来業務に関すること以外は話しかけてもこなくなった。

 遠藤はもうここには居場所がないなと思っている。


                                      了



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