第7話 神からの頼み
隊長が、盗賊が全て壊滅したという報告書を何枚もガリガリ書いている頃——————。
その王国の北にある広大な森の中で、光り輝く魔法陣が暗闇の中をパァッと照らしていた。
その魔法陣は、王都の前で展開されたモノと同じもの————転移魔法である。
転移魔法による光が徐々に落ち着いていくと、そこにいたのは————魔狼であった。
それも、ジャラッと音を鳴らす袋を首に掛けた魔狼である。
魔狼が現れたと思った———その
———
『あの者———確か、新入りと呼ばれていたな。——————魔物の類と勘違いしていたようだったが…………。まぁ、いつも報酬を渡してくれる者もそう考えているようだったしな』
静かな森の中に響く———重厚感のある声であった。
一体誰が話しているのか?
ここには、一匹の魔狼のみだ。
『我のような精霊達は【神界】にいることが多いからな。地上にいるとすれば———生まれたばかりか、数百年の時しか生きていない精霊ぐらい…………。人間たちが、我を魔狼と見間違えるのも無理はないか』
そう、声の主はここにいる魔狼—————いや、狼の姿をした精霊であった。
『さて、森に着いたのだ。この大銀貨をスズカに渡さなければ——————あぁ、頼まれた討伐の礼も言わなければな。』
精霊は、首にかけていた袋を外し口に
———そんな中、足元からヒュゥゥッとつむじ風が突然吹き、精霊の体を包み込んだのだ。
だが、精霊は気にする様子もなく、歩いていく。
————が、精霊の体にある変化が起きていた。
精霊のシルエットが、みるみると大きくなっていくのだ。
そして、風が止む頃——————。
そこには、神々しい白銀の毛並みをした
その精霊は、【神界】から降りてきたフェンリル———
翠は数年の間、
なぜ、そうしているのか?
————それは、涼華が【神】によって異世界へ送られた後、【神】が翠———フェンリルに頼み込むところからである。
◇◇◇
「———あのお嬢さんを頼んだぞ」
涼華を地上へ送った後、【神】は誰かに頼んでいた。
————すると、その言葉に反応したのか空中にポゥっと光の球体が現れたのだ。
『なぜ我なのだ?』
球体は、パッと狼の姿になり【神】のすぐ隣に舞い降りると
「ふむ。———フェンリルよ、お前は精霊の中でも最上位の存在じゃ。そうなると、多くの知識や経験を積んできているはずじゃ。それを生かして、あのお嬢さんを色々と助けてやってほしいんじゃ。」
『それなら、我と同等の精霊にも頼めるのでは?』
そう、最上位の精霊はここにいるフェンリルの他にも何体か【神界】いるのだ。それなのに、なぜ【神】は自分を選んだのだろうか?
———そして、その疑問は【神】が口にしたことで晴れた。
「それはの——————お前を誰よりも信用しているからじゃ。お前は、面倒見も良いし、威張ることもせんからの」
まぁ、ちと頭は固いがの————と、ポソッと言ったが、そこまではフェンリルの耳には届かなかった。そんなことよりも、フェンリルは自分が信頼されているということを聞いて胸が熱くなっていたのだ。
『…………分かった。その頼み、引き受けよう。それに、彼女の
「———そうか…………。お前もそう思ったか…………」
【神】とフェンリルは、涼華の性格を話している間で知ったのだが…………少し抜けている気がしたのだった。
元の世界とは違い、異世界では争いや戦闘が多々あるのだ。
それなのに、涼華は不思議そうに質問してきた。
————【神】とフェンリルが、心配するのも仕方がない。
「そういうことじゃから、お前はお嬢さんのサポートをしっかりやるように。あとは————そうじゃ、【
フェンリルに渡したその神剣は、青みがかった美しい刀であった。
「その神剣は、神聖魔法を
『では、彼女————スズカが、神聖魔法を使える種族【
そう言うと、フェンリルは【
「そこは、お前の腕次第じゃ」
【神】はフッと笑いながらフェンリルを見送ったのだった————。
◇◇◇
翠は、この広大な森———それも、闇の中を歩いていく。
人間なら、シンッと静まり返ったこの空間をたった一人で進むとなると………………それは、絶望的な心境になるだろう。
月の光さえも通さぬ枝葉がザワザワと音を鳴らしながら揺れ、
そして何より————
誰かの視線を感じるのだ。
だが、翠は臆さず森の中を歩き進める。
それは、まるで目的地へと向かっているかのように——————。
そして、辿りつく。
彼女が待つ、その場所に——————。
翠が見上げるソレは、この森で何千、何万もの
皆が噂する『白銀の魔法使い』、実は異世界人です ~神様のミスから始まる、私の第二の人生~ カズ @minkazu
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