第13話怪獣
朝、滅多につけないテレビをつけてみると、近くに怪獣が出たことがニュースになっている。ヘリコプターが出動し、街を壊しながら歩く大きな怪獣の様子が小さなテレビに映し出されている。私はその映像を見て、彼女に電話をかける。というのも彼女の家の近くのようだったからだ。彼女はすぐに電話に出る。私は「すぐ逃げるんだ! わかったか!」とできる男を演出していう。しかし彼女は逃げることはできないという。忘れていたが、彼女は無類の怪獣マニアなのだ。私は全然いうことを聞かない彼女にイライラしてきて、「勝手にしろ!」と口走ってしまう。電話を切った後で、不安が押し寄せてくる。あんなバカな彼女のことだから何をするかわからない。私はもう一度テレビのニュースを見る。見知った街が壊されていっている。私は着の身着のままで外に駆け出す。彼女の家までは結構あるのだ。しかしながら、電車が動いているとは限らない。私は走ることを選択する。息が上がる。
しばらく走り続けると彼女の住むマンションが見えてくる。不思議なことに怪獣の足音などはしてこない。私ははあはあいいながら、彼女のマンションに合鍵で入る。開く自動ドアさえ遅く感じられる。幸い、エレベーターは止まっていない。私は12階を目指す。1215室のチャイムを何度も鳴らす。しかし彼女は出てこない。私の想像力が怪獣を撮影しようとする彼女や怪獣の前に飛び出す彼女、食べられる彼女を描き出す。私は怖くなって、震える手で玄関を開ける。
すると「サプライズ!」という声とともにクラッカーが鳴らされる。私は何のことかわからないが、しだいにおちょくられたことに気づく。彼女は莫大なお金を使ってこの茶番をやってしまったのだ。私は力が抜けて倒れ込む。彼女はあくまで笑顔で「おもしろかった?」と聞いてくる。私はもはや何もする状態ではなく、ただ「うぁー」とか声にならない声を上げながら、窓の外を眺めている。空では渡り鳥の渡りが始まっており、季節はもう秋だと告げている。
練習 熊笹揉々 @madouarmer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。練習の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます