みんなぼっち

@AIKAmayu

第1話 トモダチ

「ねぇ、あの時のこと、話してくれない?」

私たちは公園のベンチに座り、缶コーヒーを手にしていた。すると突然、小説家の幼なじみがそんな事を口にした。

「……どうして今更?」

「どうしてもインスピレーションがわかなくて。その時思いついたんだ。“誰かの現実”を借りようって」

私は少し笑って、目を伏せた。

「現実って言っても、綺麗な話じゃないよ?」

「それでもいいよ。君が生きてきた物語なら、きっと価値がある」

そう言って、彼は録音ボタンを押した。


――これは、もう誰にも届かない過去の断片。

でも、確かに“あの頃”に生きていた私の記録。




忘れもしない、あの高校生の時のことを。複雑な人間関係に、ありもしない噂を流されて、裏切られて。それでも私はその日々を生き抜いてきたのだ。


入学式当日、割り当てられた教室に入り、席に座っても、周りは静まり返っていた。初めての高校生活。新たな場所。知らない顔ぶれ。みんながみんな、緊張していたのだ。もちろん私も。この瞬間だけ、時間が止まっているのではないかと錯覚するほどに、みんな固まっていた。動いているのは担任の先生のみ。

「私は、このクラス全員で進級し、卒業したいと思っています。なので、皆さん協力してください。協力して、このクラスで良かったと、みんながみんな思えるような、最高の思い出を作り上げていきましょう」

先生は、笑顔でそう言っていた。そんなアニメみたいなことは起きる訳がない。そんな何もなくて平和な学校生活なんて。必ずしもどこかで、亀裂が走る。そこで解決出来るのならまだしも、解決が出来なければ、一生ビリビリとした空気感のまま、進級するだけだ。

担任の先生が去った時は、さらに時が止まっているみたいだった。みんな微動だにしない。周りをキョロキョロと見回す。まるでカメレオンみたいだ。すると、突然前の人が後ろを振り向いて、私に話しかけてきた。

「初めまして、佐藤さとう未来みらいです。よろしくね!」

私の目を見て、自己紹介してくれた。その時、時が流れ始めたような気がした。

「よろしくね。私の名前は鈴原すずはらりん!」

お互いに自己紹介をした。とても愛想が良さそうですぐ仲良くなれそうな子だなと感じた。

「ねぇねぇ、課題終わった?私まだ終わってないんだよね〜」

「え、終わってないの!?」

「うん!でも今日出すわけじゃないしいいかなーって思って」

「まぁ……それもそうだね」

たわいもない話をして、笑いあって。なんだ、友達作るのって、最初は緊張するけど……慣れてしまえば、簡単なもんじゃん、とその時は思っていた。

その日はあっという間に時間が過ぎて、放課後になってしまった。未来に「また明日ね」と伝えると、未来は「うん、また明日!」と笑いかけてくれた。これからの高校生活は豊かで、楽しいものになっていくんだろうなって思っていた。


──例えば、この時違う人に話しかけていたら、話しかけられていたら、どうなっていたのだろうか。


もしかしたら、今とは違う未来になっていたのかもしれない。


次の日、教室に着くと、周りから「おはよう」と挨拶をかわされる。私も「おはよう」と返し、自分の席に行った。みんなの視線が暖かい。中学の時はこんなこと無かったのに、どうして高校と中学ではこんなにも差が生まれてしまうのだろう。私達は1ヶ月前までは同じ中学生で、義務教育を受けていたのに……人間って不思議だ。周りの環境が変わったというのもあると思うけれど、一番はきっと、メリハリが着いたということなのだろうか。

高校生となれば大人の仲間入り。義務教育ではないのだ。全て、自分で考えて行動しなければいけない。自主性、自立性、協調性……様々な事を自分で成し遂げる。その為の高校なのだろうか。皆が立派な大人になる為に、こうして高校に入り、色んなことを学ばなければいけないのだろうか。

席に近づくと、既に未来は教室に来ていて、挨拶をお互いする。そして未来と話していた二人組の女子が私を視界に入れると、ニコッと微笑んで「おはよう」と言われた。私も「おはよう」と返した。

「私、田中たなか心美ここみだよ」

田村たむら美結みゆです。よろしくね」

名前を教えてくれた。明るく、美人という言葉が似合いそうな女の子と、とても大人しそうな女の子に見えた。それから、未来が言った。

「私も改めて自己紹介しようかな!佐藤未来です!よろしくお願いします!」

「私は鈴原凛、これからよろしくね」

まだ入学して二日しか経っていないはずなのに、友達が二人も出来ていて、自分でも驚いてしまった。いや、凄いのはつい昨日友達になったばかりの未来か。未来のお陰で、私も前に進めている気がする。それがわかると、やはり未来とお友達になれて良かったなと実感した。


その日の昼休み、四人でご飯を食べようと、机同士をくっつけている時、とある女子二人組が来た。

「ねぇねぇ、私達も一緒に食べていいかな?」

「いいよー!」

「ありがとう!」

人数は多ければ多いほど楽しいだろう。未来は元気よく了承し、六人で座った。みんなで「いただきます」と手を合わせて言って、お弁当を開くと誰かが話しかけた。

「自己紹介まだだったね。私、関口せきぐちすみれ」

「私は立花たちばな優梨ゆり!仲良くなろ!」

そして私達も自己紹介をし終えて、みんなの名前を記憶した。ここにいるのは未来、心美、美結、すみれ、優梨、そして私。最初から六人という大きなグループを作り上げた。こんなに友達がすぐできて、グループも出来るなんて……今まで経験したことがなかった。始まりが肝心とよく聞く。今、この始まりはいいスタートなのではないかと、そう思うとワクワクが止まらなかった。これからの学校生活、どうなっていくんだろうとドキドキが止まらない。人間関係のいざこざはあるかもしれない。だけれど、それを乗り越えて、楽しい一年をこの教室で、このグループで過ごそうと思った。


─そう、この時までは……


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