10連ガチャのはずれキャラになったよ。

フリオ

01 10連ガチャのはずれキャラになったよ。

 昔から妙に運がないなと思って生きてきたのだけど、スマホゲームが学校で流行してコツコツ溜めたアイテムでレアガチャを引く機会が増えてから、あまりにもレアキャラがでないので、自分の運のなさを確信するようになった。


 運の悪い人間がいれば、運の良い人間もいる。


 クラスメイトの三崎小春さんは、運が良いで有名だった。なんとはなしに引いた毎日一回無料ガチャでも、どしどし最高レアを出していくから、いつしかみんなレアガチャを引くときは小春さんに頼むようになった。


 そして今日は運命の日。

 僕は10連ガチャを引くためのアイテムを溜めたスマホゲームのアカウントを持って、小春さんの席に向かう。クラスメイトからの注目を集め、教室の外にも人だかりができている。


 僕の運の悪さと、小春さんの運の良さは周知の事実だった。みんなこのガチャの結果がどうなるのか気になるのだ。

 小春さんは手のひらをパッと広げている。細くて美しい指が伸びている。僕はその手のひらに、スマホを置いた。


「じゃあ、10連ガチャ。引かせてもらいます」

「よろしくおねがいします」


 矛盾という言葉がある。

 「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」。

 その矛で盾を突いたらどうなるのか。


 それが、この10連ガチャが持つ意味だった。


 小春さんの指先がスマホに触れた瞬間。

 僕たちの運命が矛盾に耐えきれなくなったのか、眩い光が身体中を包んだ。






 冷たさが背中を撫でるような感覚があって、僕は目を覚ました。さきほどまで教室にいたはずが、どうやらゴツゴツとした土の上に寝転んでいるようだった。身体を起こそうとすると、少女の声が洞窟に響き渡る。


「やった! SSRだ!」


 SSR? と思い声のした方を見ると、困った表情の小春さんが、銀髪の少女に手を握られていた。少女の容姿には人のものとは思えないほど幸薄そうな雰囲気があり、宝石を描くのに使う絵具のような銀髪は地面に届いていた。


「えっと……。ここはどこで、君は誰なのかな?」

「ここはダンジョン965番! わたしもダンジョン965番!」

「う、うーん」

「混乱するのも無理はないわ。あなたはガチャから出たばかりなのだもの」

「が、ガチャ?」


 少女は小春さんから手を放し、エッヘンと胸を張る。


「生まれたばかりのダンジョンには無料の10連ガチャが与えられるの。それで絶対絶命のピンチになったから10連ガチャを回したんだけど、それで出たのがなんとSSRの人間! もちろんあなたのことだよ。お名前は?」

「三崎小春……」

「じゃあ、コハルで登録しておくわね」

「ちょっと、待って。まだわたし状況が飲み込めてなくて」


 小春さんは頭をブンブンと振った。黒髪がパサパサと揺れた。

 身体を起こした僕は二人に近づく。洞窟にはいくつかの道具、例えば剣とか袋とかが乱雑に置かれていた。それを踏まないように避けて歩く。近づいてくる僕に、小春さんと少女が気づいた。


「この洞窟はダンジョンで、君はこのダンジョン本人ってことだろ?」

「お。乾燥ワカメを海に投げ捨てましたみたいな髪型をしているくせに物分かりが良いね」

「……」


 少女の小さな口から飛び出したハイセンスな悪口に僕は思わず絶句した。生まれたばかりと言っていたけど、乾燥ワカメと海を知っているのはなぜだろうか。というかなぜ悪口を言われたのだろうか。


「ぼ、ボリュームがあって良いと思うよ」

「……ありがとう」


 小春さんのフォローが入るけど、傷口は開きっぱなしだった。


「……とにかく、このダンジョンがピンチになったから起死回生の10連ガチャを回したら、SSRの僕たちが出てきたってことだよな」

「うん? ワカメはSSRじゃないわよ。SSRはこっちのコハルだけ」

「……はい?」


 なんとなく悪口を言われた理由が分かった気がする。


「ワカメはアンコモンだよ」


 どうやら僕は10連ガチャのはずれキャラになってしまったみたいだ。

 




 

 


 


 

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10連ガチャのはずれキャラになったよ。 フリオ @swtkwtg

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