地球の作り方

猫小路葵

地球の作り方

 ここは天界の庭。

 天使たちがいろいろな木や花を植えて育てている。

 とてもきれいだ。

 そこへ神様がやってきた。

 天使たちはこぞって挨拶をした。


「神様、おはようございます」

「おお、おはよう天使たち」


 今日の神様はちょっとうきうきしている。

 なぜか。

 理由は、とても面白そうな「たね」を手に入れたからだった。

 一人の天使が興味を示して尋ねた。

「神様、それはなんの種なんです?」

 神様はフフンとうれしそうに笑って答えた。

「ひとくちに何の種とは言えん。これは『星育て』の種じゃ」

「星を育てる種ですか?」

「さよう」


 神様は、天界のバルコニーから下を見た。

 太陽の近くのちょうどよい位置に、こないだ新しく惑星ができた。

 生まれたばかりのこの星にとって、例えるなら今は夜明けの段階といえた。

 まだ何色にも染まっておらず、暑からず寒からず、星育てにはもってこいの環境だった。

 神様は、その惑星めがけて種を投げた。

 天使も目で追う。

 種は、新しい星の美しい夜明けの空を落下していった。


「これでよし。何日かすればバクテリアが生まれるじゃろう」

「楽しみですね。どんな素敵な星になるんでしょう。名前はどうしますか?」

「そうじゃな……大地の球じゃから地球でよかろう」


 その日から神様は、地球を観察するのが日課になった。

 何日かしてバクテリアが見つかったとき、神様はたいそう喜んだ。

 バクテリアが順調だとわかると、神様はほくほくとして別の種を取り出した。


「神様、その種は?」

「これは『海の生き物』の種じゃ」

「そうか、そうやって少しずつ星を育てていくんですね! パッケージに≪混合≫って書いてありますね」

「いろんな種類の生き物が混ざっとるらしい」

「それはいいですねえ」


 神様はごきげんでジョウロを傾け、地球に水やりをした。

 翌日には海ができていて、数日後、海の中にさまざまな生物が生まれた。

 パッケージの記載通り、海の生物は種類が豊富で、色や形もバリエーションに富んでいた。

 肥料をやると、素晴らしい進化を遂げるものもいた。

 試しに今度は違う肥料をやってみると、なんと、海から陸に上がるものまで出てきた。

 こうなってくるとますます面白い。

 神様は星育てに熱中した。


「神様、今日も種をまくんですか?」

「これは『竜の種』じゃ。面白そうじゃから、まいてみようと思うての」


 竜の種が入ったパッケージにも≪混合≫と記されていた。

 神様が「竜の種」をまいた数日後、地球でさまざまな種類の竜が生まれた。

 チョロチョロと動く小さな竜に神様は目を細め、餌をまいた。

 竜は繁殖し、地球はたちまち竜の楽園になった。

 しかし、天界まで届きそうなほど大きく育ってしまったものや、おそろしく獰猛なものも増えてきた。

 空を飛ぶものまで現れて、神様はちょっと持て余し気味になった。


「神様、おはようございます。あれ? 今日もまた種まきですか?」

「いや、これは除竜剤じゃ」


 神様は竜を駆除するための除竜剤をまいた。

 除竜剤の粒はバラバラと音を立てて地球にぶつかり、その衝撃で地表の温度は一気に下がった。

 寒さに弱い竜たちは、そのほとんどが死に絶えた。

 神様は、今度はもっとおとなしくて管理しやすいものを育てようと思った。


「神様、次はなんの種ですか?」

「これは『猿の種』じゃ」


 神様は「猿の種」をまいた。

 猿の種のパッケージにも≪混合≫と書かれていた。

 神様が猿の種をまいた数日後、地球でさまざまな種類の猿が生まれた。

 神様は喜んで、猿の餌をまいた。

 猿は繁殖し、地球のあちこちに散らばった。

 中には頭のいい種類もいて、道具を使ったりするようになった。

 神様が肥料を施すと、そういう猿はみるみる進化して、直立二足歩行をするものも現れた。


 神様は、その様子を毎日興味深く見守った。

 が、あるとき神様はひどい風邪をひいてしまった。

 高い熱で意識朦朧とする神様を、天使たちもつきっきりで看病した。

 そんなある日、一人の天使がふと気になって、地球の様子を見に行ってみた。

 天界のバルコニーから下を見る。

 次の瞬間、天使は思わず叫んだ。


「なんだこれ!」


 ほんの何日か目を離しただけなのに、地球はとんでもないことになっていた。

 緑豊かだった大地も、輝いていた海も、無残に変わり果てていた。

 ひたむきに生きていたはずの猿はみな妙につるつるした顔になり、ゴテゴテと着飾って、わかったような態度でひしめいていた。


「大変だ……」


 見る影もない地球の惨状を前にして、天使は呟いた。

 ああ、神様はどんなにがっかりなさるだろう。

 きっとすぐにおっしゃるはずだ。

 除猿剤をまかなくては、って。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球の作り方 猫小路葵 @90505

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ