第9話 不眠症のきっかけ
「…………やっぱり、眠れない」
帰宅した後、学校の課題やら夕飯やら、色々やっていたらあっという間に時間が経っていてベッドに横になったが、やはり眠れない。
どうやら、俺はねむ先生が隣にいないと眠れないらしい。
だけど、ねむ先生だって暇じゃない。
毎晩ねむ先生の部屋にお邪魔するのは申し訳なく感じてしまう。できるだけ一人で眠る努力をしなくちゃいけない。
ねむ先生は「そんなこと気にしないでいいのに」って言うかもしれないけど、そういうわけにもいかない。
「どうすればいいんだろう……」
こうなってしまったのはいつからだっけ。
高校に入る前から不眠症に悩まされていたから、少なく見積もってもそれより前から。
つまり、一人暮らしの影響でこうなってしまったわけではない。
「中学の時、か」
中学二年生の夏からだったと思う。
その辺の記憶は曖昧で当たっているかは定かじゃないが、俺の記憶が正しければ中学二年生の夏休みから不眠症になったはず。
中学二年の夏休み、俺に何があった?
俺は必死に過去の記憶を思い出す作業を繰り返す。
「あの夏休みはたしか……久々に軽井沢に遊びに行ったんだっけ……」
遊びに行ったけどやることが無さ過ぎて川で涼んだりしてたんだよな。
その日からか。俺がなぜか眠れなくなってしまったのは。
どうしてだろう……。
軽井沢に遊びに行っただけで眠れなくなるなんて、そんなおかしなことある?
別の要因があるんじゃないかと、その後も幾度となく要因を探してみたが、やはり軽井沢に遊びに行ってからなんだよな。他には思い当たる節がない。
「あ、そういえば」
他にもおかしなことがあったな。
中学二年の夏休みに軽井沢に行ったあの日、悪夢とは違うけど変な夢を見たんだ。
うろ覚えだけど、ある少女と一緒に遊ぶ夢。
夢の中では何度も遊んだ。
だけど、その夢の後半でその少女とお別れをしなきゃいけなくなって、「もう会えなくなってしまう!」と絶望を感じた瞬間に夢から目を覚ましたんだよな。
あれは、夢ではあるんだけど、過去にも経験したことがある出来事な気がするんだよな。
過去の記憶の様な……。
「あれから、眠るのが怖くなったんだっけな」
また同じ夢を見るんじゃないかと思ってしまって、眠るのが怖くなったんだよね。
あれがただの夢なのか、本当にあったことなのか俺には分からない。
でも、本当にあった出来事のような気がするんだよな。ただの直感だけど。
「あの夢で俺は、小学校低学年くらいの姿をしてたな」
そう。
中学二年生の時に見たその夢で、俺は小学校低学年くらいの姿をしていた。
そして、その夢で一緒に遊んでいた女の子は、自分よりも少し大きくて恐らく中学生くらいだったと思う。
そこまでは覚えている。
だけど、顔とか声までは思い出せない。
「はぁ、母さんと父さんなら何か知ってるかな」
時計に視線を向けた。
午後十時半を回ったところ。
まだ起きてるかな。
メッセージアプリで母さんと父さんに「起きてる?」と一言だけメッセージを送信した。
僅か十秒ほどで母さんから返信がきた。
『起きてるよ。どうかしたの?』
お、どうやら母さんは起きているようだ。
父さんは恐らくもう寝てしまっているのだろうか。仕事もあるだろうし、仕方ない。
「今電話できたりする?」と送ってみると、『いいよ』と即答で帰ってきた。
すぐに母さんに通話をかけた。
『はいもしも~し、光夜の大好きなママですよ~』
陽気な母の声が電話越しに聞こえてくる。
が、俺はそんな母さんのノリには付き合わず、本題へと入る。
「母さん、俺って小学校の頃に軽井沢に行ったことある? 中学の頃に行ったのは覚えてるんだけど……」
『えっ!? もしかして、小学校の頃に行ったこと覚えてないの?!』
「その反応、行ったことあるってこと……だよね……?」
母さんの驚きに満ちた声。
これは確実に小学校の頃にも軽井沢に行っているな。
『そうだよ! あんなに楽しそうに毎日遊んでたのに覚えてなかったのね』
「遊んでたのって、母さんたちとってこと?」
『違うよっ! 川で遊んでた時に出会ったっていう女の子と軽井沢にいる間はずっと遊んでたのよ』
「え…………」
やっぱり……。
小学校の頃に軽井沢に行ったことがあるうえに、そこで出会った女の子と毎日遊んでいたらしい。
夢の内容と一致する。
『本当に忘れてたの?』
「まあ、うん。母さんは俺が不眠症だってこと知ってるよね?」
『そりゃね。あなたの母親ですから』
「その理由がそれなんだよ」
『それって……?』
「その旅行が不眠症の原因かもしれないってこと」
小学校の頃に行った軽井沢旅行が不眠症の原因かもしれないことを伝えると、母さんは困惑した声で聞いてくる。
『でも、光夜が不眠症になったのって中学の頃よね? あの旅行とは関係ないはずでしょ?』
「中学の頃にも軽井沢旅行に行った時に夢を見たんだよ。小学校の頃にいった軽井沢旅行の」
『あっ、もしかしてその夢であの子と遊んでたことも思い出して……ってこと?』
母さんはかなり察しよく、俺の夢の内容を当てた。
「そういうこと」
『なるほどね。あの子ともう会えないって知ったときの光夜は泣きじゃくって本当に辛そうだったからね』
そうだったのか。
小学校の頃とはいえ、俺が泣くことなんて少なかったと思うけど。
そんな俺が泣きじゃくるって、相当その女の子と遊んでいる時間が好きだったんだろうな。
「そう……なんだ……」
『うん。あの子は今何してるんだろうね』
「さあ、分からないよ」
『とりあえず、教えてくれてありがとうね。きっかけが分かったことだし、こっちでも色々調べてみるね!』
「母さん、いつもありがとう。父さんにも伝えておいて」
『分かったわ。それじゃ、まだ眠れないかもしれないけど、おやすみ』
「うん、おやすみ」
ツー……ツー……ツー……。
通話が切れたスマホの画面を見ながら改めて思う。
母さんと話せてよかった。
いつも俺のために動いてくれて感謝してもしきれない。
いつも心配をかけてばっかりだし、早く不眠症を治したいな。
そう思いながら、再び横になった。
眠れないけど、何もしないよりはこうして横になっている方がマシだろうからね。
明日、ねむ先生にも話してみようかな。
不眠症の俺は、保健室の天使先生と添い寝フレンドになりました。 夜兎ましろ @rei_kimura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。不眠症の俺は、保健室の天使先生と添い寝フレンドになりました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます