第9話 全てを捨てて、愛する人と生きる

僕達が朝ごはんを食べていると、戸を叩く音がした。

2人で思わず手を繋いだが、ミナハトが「出るよ」

と言い、ドアに向かった。

僕は立ち尽くすことしかできない。


戸を開けるとタマラン王国の騎士が立っていた。

「ヤヘルファン王子により、ジョゼルカ殿下を探しに参りました。こちらにいらっしゃると聞き参上しました」


ついに来た。僕は魔法が解けたみたいに足が動いてドアの方へ行った。

「僕は、ジョゼルカはヤヘルファン王子殿下の元には2度と参りません。ここにいます。そう伝えて」

騎士は僕の姿を見ると片膝をついて頭を下げていたが、弾かれたように立ち上がった。


「何をおっしゃいます!殿下がどれだけ心配されたか!よりによってハウルレンに攫われ、こんな村にずっといるなんて、お許しになるわけがございません!」

「ハウルレンは亡くなった。ヤヘルが許すも何も無い!僕が決めたんだ。帰って伝えて下さい。もう全てが終わったのだと」


騎士は苦悩したが、僕の毅然とした態度に

「殿下を連れて出直します」

と渋々帰って行った。


戸を閉めた僕とミナハトは思わず気が抜けて、その場に座り込んでしまった。

「言ってしまった、言ってやった!ねえ、ミナハト!」

「ああ、あれで引き下がるとは到底思えないけど」

「うん、次はヤヘルが来ると思う。でも、僕の意思は変わらない。君といるよ」

「ジョゼ!」

僕達は抱き合い、支え合いながら立ち上がった。


かと言って、いつまでも閉じこもっているわけにもいかない。農作業が待っている。

僕達はまず自家用の畑の手入れをして、共同の畑へ行った。

つまり、この村で暮らす日常を始めた。


僕が戻って来たことに皆驚いていたが、素性も明かし、一村人として扱ってくれるように頼んだ。

改めて、ミナハトと恋人として一緒に住むことを宣言した。



一月ほど経ったある日、ようやくヤヘルファンがやって来た。

護衛が付いているのはわかるが、もう1人、線の細い金髪の少年がそばに付き添って来た。


「お前には愛想が尽きた。国を捨てて村人を取るとは、見下げ果てた奴だ。故郷の親達も伏して詫びていたぞ」

そして、少年を抱き寄せた。

「この子は侍従見習いだったが、私によく尽くしてくれる。何も嫌がらず、従うんだ」


「その子が私の代わりですか?」

僕はヤヘルファンに襲われた事を思い出し、吐きそうになったが、耐えた。

「ああ、このままではそう成るな。どっちにしても、お前が逃げた時点で、婚約は破棄だ。

お前が心から私に詫びて戻ると言えば、愛妾として面倒を見てやらん事もない。どうだ?」


相変わらず傲慢で自分勝手だ。絶対僕が戻ると思っている。

でも、婚約破棄は、僕の望み通りだ。

「婚約の破棄を慎んで受け入れます。愛妾には決してならないし、あなたの元には戻る気は無い。僕は平民になっても、この村で愛する人と暮らす」

「馬鹿な!お前は王子だぞ⁈全てを捨てると言うのか!」

「そうです。僕には不要なモノです」

僕はキッパリと言い切った。

「僕も、不要なのか」

ヤヘルファンは悔しそうな、でも悲しそうに見える顔をすると頭を振った。


「わかった。好きにすれば良い。後悔するな」


ヤヘルファンは抱いていた少年を突き放すと、早足で馬車の方へ戻っていった。

少年は「殿下、待って下さい」と慌てて追いかけた。


「ジョゼ、あの少年はわざと連れられて来ただけだと思うよ」

ミナハトが傷ましそうな顔でヤヘルファンの後ろ姿を見ていた。

「いいんだ、どっちでも。ヤヘルファンのプライドの問題だ。僕には関係無い」


僕は気を失いそうになってミナハトに支えられた。

「良いよね?僕の選択は間違ってないよね?」

「間違えたとしても、僕はジョゼに従う」

僕は感無量でミナハトに抱きついた。


ヤヘルファンはそれから現れなかった。

ただ、村への扱いが気になったが、永年、村人に掛かる税を半額にすると通知が有り、村長が喜んで知らせに来てくれた。

浮いた分は新たに開墾したり、用水路の整備などに有効活用され、以前より生活に余裕ができた。


村人は以前と同じように僕を受け入れてくれて、僕も一員としてミナハトと働いた。

簡単な家や内装の修理もできるようになり、ミナハトと別に働く事も増えたが、基本2人は一緒だ。


麦葉を揺らす風にほっと一息ついていると、この辺には似つかわない服装の人達がやって来た。

シグネチャル国王の使いだった。


文書を読むと、全てを許すから、国へ戻れ、そう言う主旨だった。

国の景色が目に浮かんだ。父母や弟の様子も。

「ジョゼの思う通り行動していい。何ならシグネチャルへ行ってもいいよ」

ミナハトは言ってくれたけど、僕は首を振った.

「僕はここがいいんだ」


使者の人に待ってもらって、用意してもらった紙に返事を書いた。

王族を抜ける事、平民としてアイル村でミナハトを生涯の伴侶として生活する事。

最後に家族の健康を祈る文章を追加した。


グッと胸に込み上げるものがあったが、表には出さないようにした。

紙を使者に渡し、もう帰らないと告げた。

使者は悲痛な顔をして、去り難そうだったが帰ってもらった。


これで王族ともお別れだ。

思えば、ハウルレンに攫われた時から、こうなる事を望んでいたのかもしれない。

他人に決められた運命から逃れたかったのかもしれない。


だからハウルレンに悪感情は抱かなかった。

あそこでの気兼ね無い生活が有ったから、アイル村の暮らしもすんなり受け入れられた。

むしろ感謝したい。


僕は時々ハウルレンの墓参りをして、話しかけ、お礼を言う。

好意には、答えられなかったが、友達に近い感情はある。


「家に居ないと思ったら」

墓の前で跪いていると後ろからミナハトの声がした。


「うん、早く帰れたから、ついでにね」

僕は立ち上がるとミナハトに駆け寄って抱きついた。

「ハウルレンも、死んでからもこんなにジョゼに構ってもらえて喜んでると思うよ」

「どうだろう、案外あちこち旅してるかもしれない」


僕達は並んで家路を辿る。

月日は経って、明日はヤヘルファンの戴冠式だ。現王から譲位されて王様になるんだ。

ヤヘルファンの功績からだと遅いくらいだと思う。

街道や街中の犯罪はほとんど無くなり、貧民街も整備され、孤児院の待遇も良くなった。農業や商業も活発だ。後世に賢王として伝えられるに違いない。


懸念としては、未だ独身なので、王位に就いたら他国からの婚姻の要請に応えるかもしれない、応えて欲しいと思う。

僕への執着がまだあるのだろうか?


王都でパレードがあるので、観光と村人に頼まれたものを購入するついでに見に行く予定だ。

もちろんヤヘルファン王は遠くから見るだけだが。

「ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられなかった。僕は今幸せです。あなたも幸せになって」


遠い空に向かって祈った。



『見ぐるみ剥がされた王子の行方』

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身包み剥がされた王子の行方 Koyura @koyura-mukana

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