第8話 懐かしい人達
月明かりに、ベッドの上で膝をついているのがわかった。
「ほら、服を着ろ」
「ヤヘル?」僕は何気なくベッドの下に蠢く影を見て目を凝らした。
両手を後ろで縛られ、猿轡をはめられた、ヤヘルファンだった。動かないのは気を失ったせいだと思いたい。
でも、僕に言った男もヤヘルファン…?
「ハウルレン⁈生きてたんだね」
「ふふ、また間違えたな?久しぶりだな、迎えに来た」
「ええ⁈僕を?駄目だよ、今度こそ捕まったら縛首だよ⁈早く逃げて!」
ちっと舌打ちすると辺りを見回した。
「お前を連れに来たんだ!早く服を着ろ」
僕はナイフで脅されて、やむ無く部屋の中で着ている服を着た。
「ねえ、ハウルレンは、ヤヘルと血の繋がりとか無いの?」
ハウルレンはふん、とせせら笑って、ヤヘルファンの腹に思い切り蹴りを入れた。
「本当はな、ヤヘルファンとは双子でそいつが兄らしい。俺は不吉だし、要らないと捨てられた。万が一のスペアとして、下級貴族の家で預けられていた。逃げ出したけどな」
目を覚ましたヤヘルファンは驚愕で目を見開き、緩んだ布の隙間から、
「そんなの、初めて聞いたぞ」
と呻きながらハウルレンを睨んだ。
ハウルレンは僕の頬を軽く撫でた。
「同じ兄弟で雲泥の差の扱い。でも、お前が手元にいれば、俺の勝ちだ」
「そんな事で僕を求めるのか?」
「お前の事も好きだぜ?」
「ふざけるな、ジョゼを離せ」
ハウルレンはもう一度ヤヘルファンの腹に蹴りを入れると、猿轡を締め直した。
邸内を抜けて破られた窓から外に出る。手を引かれて走り出すと、邸が騒がしくなった。
賊の侵入者と僕を探している声が聞こえてきた。
「待て!」
前に騎士が現れた。外で警護していた者だろう。
「助けて!」
僕が騎士の方へ行こうとすると、ハウルレンに掴まれ、後ろにやられた。
「どけ!邪魔だ!」ハウルレンは数度やり合ったが、結構強いハウルレンが、少し押されてると、思った時、剣がハウルレンの腹に刺さった。
「ハウルレン!」
「ちっ」
ハウルレンは騎士の心臓を貫き倒したが、自身も膝が震えている。
「ハウルレン、動いちゃ駄目だ」
「うるさい!行くぞ!」
ハウルレンは僕の手を引いて脱出した。馬のあるところまで行き、飛び乗ると走り出した。
「早く血を止めないと!」
「後でな」
僕はハウルレンが首に巻いていたストールを取ると、腹に巻きつけたが、血はすぐに滲んできた。
ハウルレンは荒い息のままどんどん走らせる。
夜が明けてきてハウルレンを見ると顔が真っ青で、腹からは大量に血が滲んでいた。
「ここまで来たらまだ、間があるよ。血を止めよう!」
どこかの村はずれに来た辺りで強く言った。
「わかったよ」
ハウルレンは獅避けの柵に手綱を預け、そのまま倒れた。
「ハウルレン!」
僕は急いで近寄るとハウルレンの腹を確かめた。
が、出血が止まらない。
もう、ハウルレンの顔色は土気色だった。
地面にまで血が流れていく。
「しくじった、もう駄目っぽいな…」ハウルレンは荒い息のまま呟いた。
「ここ、どこかの村の端みたいだから、行って医者を呼んでくる!待ってて」
「もう、いい。行くな」
「必ず戻ってくる、気を確かに持って!死なせない!」
ハウルレンは震える手を伸ばして、僕の頬を撫でる。
「わかった、待ってるぜ、ジョゼルカ」
去り難かったが、振り切るように僕は柵の壊れたところから一目散に走った。
走ってて、何となく見たような風景に不思議な感覚がしてきた。
しばらく忘れて、いや、考えないようにしていた。
この、先を抜けると、家があって…青い色の扉の。
「ミナハト!」
僕は扉を激しく叩いた。
いつの間にかアイル村に来ていた。
「誰?」
中から声がした。
「ジョゼルカです!開けて下さい!」
「え、ジョゼ⁈まさか」
焦って戸を開け、顔を出したのは、懐かしいミナハトだった。
「ジョゼ」
「ミナハト、久しぶり」
僕は声が詰まってそれしか言えなかった。涙が後から後から湧いてくる。
「ミナハ、誰が来たの?」
その後ろから声がして、女の人が出てきた。
「え」
涙が止まった。
茶色の目と明るい金髪の優しそうな女の人だった。
「こちらはジョゼルカって人で」
「ああ、ミナハが言ってたウノね!本当に可愛い人だわ。よろしくね」
僕はミナハトに家に泊まるくらい親しい人がいると思ってなかったので、酷く動揺した。
が、今はそんなこと気にしてる場合ではない。
「助けて欲しいんだ、連れが刺されて出血が止まらない!医者がいるなら呼んで欲しい」
「え、大変だ、ナミル、呼んできて!僕はその人をここへ運ぶ」
僕はミナハトとハウルレンの所へ行った。
女の人のことをどう切り出せばいいかわからなかった。必死でハウルレンの事に意識を向けた。
「ハウルレン!村の人を連れてきた!家まで運んでくれるって!」
横たわるハウルレンに急いで近寄った。
「ハウル…」
ハウルレンは目を開けていたが、何も見てなかった。
「嘘、ハウル?帰ってきたよ!」肩を掴んで揺さぶった僕の手をミナハトが掴んで止めた。
「どいてごらん」
「さっきまで、話してた!気を失ったのかな?」
「うん、見てみるよ」
ミナハトは強引に僕と位置を変わって、ハウルレンの口や胸に耳を近付けたり、脈を確かめていたが、首を振った。
「もう死んでる。腹からの出血が酷いから、血が足りなくなったんだろう」
「そんな、ハウルレンが死ぬなんて、あんなに強かったのに」
僕は近付くと彼の顔を覗き込んだが、無論何の反応も無かった。
「どうして、こんな無茶したんだ…」
呆然と座り込んだ。
「知り合いなのか?」
ミナハトがハウルレンの目を閉じさせた。
「僕を攫った盗賊団の頭だった人」
「ええ⁈」
「2年位一緒に居た。こき使われたけど、僕には悪い事無理強いしなかった。僕を好きだったって後で言われた」
「でも、崖から落ちた君のことを放置して逃げたんだろ⁈」
「そうなんだけど、あれは僕の不注意だし、追われてたしね」
「ジョゼが嫌な目に遭ってなくて良かったよ」
僕はいつの間にか泣いていた。
「ヤヘルファンの弟だったのに捨てられたんだって。でも、僕さえいればいいって。そんな事ないのに。悪人だったろうけど、可哀想な人だった」
ミナハトは僕を抱きしめていた。
「ジョゼは優しくて良い子だからなあ。誰でも好きになるよ」
「そんな事ない。自分勝手だよ。ねえ、ハウルレンを埋葬したいんだ。ここでも良い?」
ミナハトは少し考えていたが、
「この辺はあまり人が来ないし良いんじゃない?」
と賛成してくれて、土を掘り返す道具を取ってくると家へ帰った。
僕は身体が固まる前に自然な格好にして手を胸の前で組ませた。
「ありがとう、ハウルレン。こんな僕を好きになってくれて。最後にここに連れて来てくれて嬉しかった。ミナハトと会えたし、僕もハウルレンと一緒に埋めてもらおうかな?もう、ヤヘルのところへ戻りたくないよ」
「そんな事させないからな!」
大声で言われて振り返るとミナハトだった。
「戻りたくないなら一緒に居よう。殿下が来たら、本当の気持ちを言うんだ」
「君の家族に迷惑かけられない。彼女が悲しむ」
「え?そりゃ、妹だけど、ジョゼとはまだ別問題だ」
「妹?」
「うん、そうそう。5年前に隣村に嫁いで、昨日子供見せに連れて来てくれたんだ」
「奥さんじゃない?」
「ゲイブの奥さんだよ」
完全に勘違いしていた僕は恥ずかしくて真っ赤になった。
「僕はまだジョゼが好きだよ。でも、婚約したんだよね。結婚も半年後だろう?」
ミナハトが寂しそうに言うので。僕はたまらずしがみついた。
「そうなんだ、でも、僕もやっぱりミナハトが好きだ」
僕達はハウルレンを土に埋め、少し離れた所にあった小さな岩をその上に置いた。
それは供える花を積むときに見つけた。
僕達は手を繋いでミナハトの家に戻った。
妹ナミルがまだ戻って来ていなかったので、ミナハトは医者の所まで迎えに行った。
急患で逆にナミルは捕まって看護師の代わりをさせられていたそうだ。
「どうするの?お兄ちゃん達」
「どうするって、王子様だしなあ。でも、嫌がってるのに返したくない」
「帰りたくない。僕はここでミナハトと暮らしたい。でも、そうすると、アイル村を潰すって言われて」
「酷いわ!まるで人質じゃない!」
「そうだったのか!ごめん、ジョゼ、辛い選択をさせた」
ナミルとミナハトは僕を抱きしめた。
「取り敢えず、ここに居て?迎えが来たら取り敢えず抵抗しよう」
「でも」
「ほら、お腹空いたでしょう?私、ご飯の用意するね。さあ、座って!」
2人に座らされて、僕は仕方なく用意をする2人の様子を眺めた。
用意ができた頃にはナミルの子も起きて来て、四人で朝ごはんを食べた。
少し硬めのパンと、ベーコンエッグ、グリーンレタスとトマトのサラダ、じゃがいものスープだ。
懐かしくて美味しくて、泣きそうだった。
「そうよ、ジョゼ殿下なんだわ!」ナミルが素っ頓狂な声を出した。
「今更だよ」僕は吹き出した。
「こんな瑣末なもの出しちゃった」
「いつもこれだよ?ウチの定番だろ?」
「そうだけど」
「いつもの味だよ、おいしいよ?」僕は頷く。
「それなら良いんだけど」
結局、僕はヤヘルファンが来るまでここにいる事にした。
3日ほどしてナミルは帰って行った。
僕はミナハトを抱きしめた。
「いつヤヘルファンが来てもおかしくない。それまでミナハトを感じていたい」
「僕に抱かれていいの?」
「お願い。僕が頼んでる」
僕達は寝室に行くとすぐに服を全部脱いでベッドに横になった。
「綺麗だよ、ジョゼ」
「でも、僕はヤヘルにいっぱい抱かれた」
「仕方無いよ。気にしないで」
「ありがとう、愛してる」
「ジョゼを抱けるなんて、夢のようだ」
何回もキスした。
舌を伸ばして誘うと、ミナハトはぎこちなく応えて絡ませた。そのまま口内をしゃぶらせ、湧き出る唾液を吸う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます