第42話 終章
42 終章
それは、正しく『必中』と『貫通』の両者をミックスした、一撃だ。
結果、〝真パルラ〟を打ち砕かれた神話王の体も、ひび割れていく。
その最中、神話王・オデッセイ・パルラは微笑んだ。
《私の、負け、か。
いえ。
そうなる事は、貴方達二人が揃った時点で分かり切っていた》
《………》
《だって、私には足りないパーツがあったから。
貴方達の言う通り、よ。
私の隣には、誰もいなかった。
愛した青年さえ殺してしまった私には、もう誰も愛する資格なんて、ない。
そう思ってしまった時点で、私の敗北は、約束されていたの、ね》
だが、神話王は、最期までその誇りを失わない。
《逆を言えば私にも相棒さえいれば、貴方達には負けなかったという事。
彼さえ――タウガ・アウヴァさえ私と共に戦ってくれたなら、私達は必ず勝利した。
その事だけは、忘れないで》
《……ああ》
そう呟きながら、ジュジュは神話王の遺言を受け止める。
彼女は、更に続けた。
《もっと言えば、私は決して後悔しない。
例え貴方達がどう美化しようとも、ゾルダ人に生きている資格はなかった。
私は私が成すべき仕事を、成しただけ。
本当に、その事に、後悔はない》
やはり、神話王とジュジュ達は、最後まで分かり合えない。
それでも、リーシャは微笑する。
《そうだね。
人と人が、簡単に分かり合える筈がない。
それはゾルダの歴史が、物語っている。
でも、だからこそ私はジュジュと分かり合えた事が――奇跡だと思えるの。
その奇跡の尊さは――貴女にも分かってもらえる筈だよ、オデッセイ》
《ああぁ》
感嘆にも似た声を漏らす、神話王。
その神話王の横には、何時の間にか彼が居た。
《これも、滑稽な話、だ。
私は君達に愛する女性を殺させる事で、幕引きを図ったのだから。
けど、君だけを死なせるつもりはない。
言っただろう?
一緒に逝こう、と。
リーシャに命を譲った私も、君と同じ様に逝く。
現世では終に結ばれる事はなかったが、地獄でその想いを果たそうじゃないか、オデッセイ。
私にはもう、そうする事しか、出来ない》
《そう、ね、タウガ。
貴方は一万年間、私を愛してくれた。
貴方はその膨大な時間の間に、何度か浮気をした事もあったでしょう》
《ギク!》
いや。
ギクとか言うな。
《けど、私はその重すぎる愛に応える義務が、ある。
共に逝きましょう、タウガ。
これで本当に、私達にとっての、神話の時代は終わるの》
だが、その犠牲は、余りにも大きい。
惑星ゾルダは滅び、最早ゾルダ人の未来は失われた。
その事を、ワルキュール・オゼ達は呪うしかない。
《……そう、よ。
例えどんな理由があったとしても、私は実母達を殺した、あなたを絶対に赦さない。
ジュジュの、言う通りだよ。
ゾルダ人が滅びる理由なんて、ない。
あなたは、ゾルダ人を滅ぼす意味なんて、なかった。
……だって言うのに、何で、こうなるのぉぉぉ――っ?》
《……そういえば、まだ彼女達が生きている理由を、聴いていなかったわね》
崩れ行く神話王は、最後の疑問を口にした。
リーシャは表情を消しながら、答える。
《それは私とワルキュール達が、今も同調しているから。
言い方は悪いけど、そのお陰でザザン達は、私達の手足の延長線上になっている。
私達の体の一部であるなら、例え時間的矛盾が起きても、消滅する事はない。
これは、そういう事だよ》
《なる、ほど。
それも、貴方達の企みの一つ、という訳ね。
正直、あの不意打ちは、計算外だった。
私とした事が、してやられたの。
本当に、口惜しいわね。
だったら、私は貴方達に――最後の希望を遺すしかない》
《……最後の、希望?》
意味が分からず、ワルキュールが睨む様に、神話王へ視線を向けた。
神話王は、やはりよく分からない事を、言う。
《ええ。
私は一つだけ、嘘をついた。
あの時は些細な物だったけど、今になっては重要な意味を持っている。
なぜなら――》
《な、に?》
唖然とする、ジュジュ達。
そんな彼等に、神話王は〝命の勇者〟の力を借り、最後の魔力を使う。
《本当に――タウガが言う通りになったわね》
《ああ。
後の事は――全て彼等に託そう》
《そうね。
願わくは、上手くいってほしい。
いえ。
これでは本当に――私は敗北宣言をしてしまった様じゃない》
途端、閃光に包まれる、リーシャ達、四人。
彼女達が息を呑む中、神話王と〝命の勇者〟の体が崩れ去る。
人類史上最悪の殺戮を行った、神話王・オデッセイ・パルラ。
ただ、今際の際に彼女が浮かべていた表情は――何かを祝福する微笑みだった。
◇
気が付くと、四人は、宇宙に居た。
ただ、何かに違和感を覚えたリーシャは、星々を眺める。
結果、彼女は自分達の身に何が起きたのかを知った。
《まさ、か》
そのまま〝ドリグマ〟と分離した〝レグゼム〟は、惑星ゾルダに直下する。
ジュジュ達はその後を追うだけだ。
《――って、リーシャ先生っ?》
ワルキュールとザザンは、まだ何が起こっているのか、分かっていない。
ただジュジュだけが〝成る程〟と納得していた。
「やはり、そういう事。
サーチの結果、この惑星ゾルダには、多くの人が居る事が分かった。
滅びた筈のゾルダ人は、この時間軸ならまだ存在している。
何故なら――」
「――ああ。
何故ならここは――一万年前の世界だから」
「な、に?」
「は、い?」
これには、流石のザザンも呆気にとられる。
ワルキュールは素直に驚き、何度も目を瞬かせた。
「そう、か。
そういう事なんだね?
神話王は最後に、こう言っていた。
〝自分は、嘘をついた。一万年前、最初にスローライフを行ったのは異世界人ではなかった〟――と。
彼女はその正体までは言わなかったけど、今、確信した。
その異世界人というのは――先生達なんだ」
「どうやら、そうらしいね。
私達は今から歴史をやり直す事に、なる。
私達はスローライフを行いながら、弟子達を育てる。
何れ彼等は神々や大魔王を名乗る様になって、そこから混沌の時代が始まる。
やがて神話の時代に至り、伝説の時代を迎える。
その時、私達が神話王を倒せたなら、時間的矛盾は起きなくなる。
伝説の時代以降も歴史は続き、やがて未来の世が訪れる筈。
要するに――それまで私達はスローライフを堪能できるという事だね」
それは、本当に過酷な道のりだろう。
だが、やり遂げなくては、ならない。
自分達がそうしなければ、ゾルダ人の未来は本当に失われてしまう。
そう覚悟したジュジュ達は、微笑んだ。
「そうだな。
――やろう」
「ええ。
――やりましょう」
「はい。
僕達の肩にゾルダ人の未来が懸かっているというなら――これ程の誉はない」
話は、それで決まった。
今、四者はゾルダ人を救う為のスローライフを行う。
これは本当に、特別なスローライフだ。
その皮肉を想い――リーシャ・レグゼムとジュジュ・ドリグマはただ苦笑した。
◇
「というか、正装で畑作業とかする物じゃないね。
やっぱり、ここは汚れてもいい様に水着姿になろう」
「――阿保か?
一寸待て、リーシャ!」
が、リーシャは本当に水着姿になってしまう。
その姿を見て、ジュジュは狼狽するだけだ。
「というか、ジュジュって意外に純情だよね?」
そう呆れるワルキュールに、ザザンは小声で話しかけた。
「そんな事を言って、ワルキュールはジュジュ先生の事が気になるんだろう?
それ位は、僕にも分かる」
「――は、いっ?
何を言っているのよ、ザザンは……っ?」
「という訳で、僕とワルキュールは必ず先生達の絆を超えてみます。
覚悟していてください」
「何がという訳で、なのかは分からないけど、その挑戦は受けて立つよ」
「……そうだな。
向上心がある事は、いい事だ。
つーか、さっさと服を着ろ、リーシャ。
あ、いや、その前に言っておく事がある。
これも一つのけじめ、だ。
――俺様と結婚してくれ――リーシャ・レグゼム!」
「――ハックション!
……って、今、何か言った、ジュジュ?」
「………」
クシャミ?
クシャミがうるさくて、今のプロポーズは、聞こえなかった?
これではまるで、古き時代の漫画のオチだ。
けど、それでもいいかと、ジュジュは思ってしまう。
「ああ。
俺様達のスローライフは――ここからだ」
「そう、だね。
今から本当に――私達のスローライフは始まる」
そのスローライフは、最低でも一万年先まで続く。
それは、余りに長い時間だ。
ただその膨大な時間は決して自分達を飽きさせる事はないと――二人の英雄は確信した。
噂の二人・了
噂の二人 マカロニサラダ @78makaroni
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