【採集クエスト】ドラゴンの鱗三枚

石田空

お人好しは依頼を断れない

「ドラゴンの鱗三枚ですか!?」

「はい、お医者様いわくドラゴンの鱗が難病の特効薬に必要な材料とのことです」


 顔を青褪めさせて依頼を受けているのは、B級パーティのリーダーのサブリナであった。対するのは、この町有数の商会の令嬢のリラである。


「……あのう、失礼ですが、うちはB級パーティでして……この依頼、本来だったらS級相当依頼なのですが……」


 一応はリーダー。パーティメンバーを守る役割があるため、ギルドからの依頼であったとしても、時には断らないといけないのであったが。

 リラはそれを聞いた途端にみるみるしょぼくれた顔になった。


「妹が病気ですの。特効薬がなかったら、あと七日の命とのことで……ですが今、お医者様には特効薬がございません。材料さえあればすぐつくってくれるとのことですが……駄目ですか」

「うーあーあーあーあー……」


 サブリナはパーティメンバーの命とリラの涙を天秤にかける。

 そもそも彼女のパーティは故郷の仲良しメンバーで結成したパーティであり、全員がお人好しで形成されている。そもそも生の糧のために働くギルドの中でも数少ない人助け中心で依頼を引き受けているのだ。

 人が悲しんでいる上に、家族が薬の材料を待っていると言われたら、放っておけない。そもそも彼女たちの所属しているギルドのS級パーティはこの三か月不在であり、次いつ帰ってくるのかすらわからないのだから。


「……この依頼持ち帰らせてください。パーティメンバーと相談した末に決定します」


 そう言って、一旦お茶を濁すことしかできなかった。


****


「という訳です」

「断り切れなかったの!?」

「人の命がかかっていると言われた上に、S級パーティ不在なのにS級パーティに頼めって言える!? 言えるの!?」

「……言いづらいよねえ」


 彼女たちが根城にしている宿屋で、全員腕を組んで考え込んでしまった。

 リーダーのサブリナはマッパー。地図と作戦立案が仕事であり、一応毒矢を使っての狙撃もできるが。猛獣までだったらともかく、ドラゴンみたいな幻想種にはなかなか太刀打ちできる腕ではなかった。

 故郷の友達であるリノは頭を抱えた。彼女は故郷で一番の本の虫であり、本を読んで魔法を会得した魔法使いである。

 同じく故郷の友達であるルーナも途方に暮れた顔をする。故郷の神殿に通っていた信心深い彼女は補助魔法使いである。

 そして故郷の友達であるローラは尋ねた。彼女に至ってはヒーラーである。

 このパーティ、極端過ぎるほどに、戦力が偏っていた。


「私たち、今までで一番強かった敵はなんでしたっけ」

「熊じゃないかな」

「……まあ、隣村が人食い熊で壊滅した以上、故郷守るために熊殺し頑張るしかなかったですもんね」


 たった四人で作戦を練り、毒薬を準備し、罠に嵌めて何度も何度も攻撃魔法を使って熊を殺し、熊の巣ごと焼き払ったのは今でも鮮明に覚えている。熊は殺さなければいけなかった。特に人の肉の味を覚えた熊は殺さなければいけなかった。


「熊倒せるなら、ドラゴンも倒せない? なんとか罠に嵌めて攻撃魔法を使って……とか」

「……ドラゴンブレスどうやって防ぐの? ドラゴンブレスは火だったらサラマンダーより強いし」

「それ以前にドラゴンは空飛ぶじゃない。コカトリス退治だって私たちだと骨が折れたのに、それより更に強いんだよ?」


 村ぐるみの依頼だと専ら畑を荒らす魔物や猛獣の討伐だが、当然B級パーティだと幻想種と呼ばれるような稀少価値の高い魔物討伐の依頼なんかやってこない。

 それ以前に空飛ぶ敵を倒せるような魔法や技を取得しているようなパーティなんて、最低でもA級パーティなのだ。B級パーティはほぼほぼ自己流で研鑽したメンバーなため、A級のように実家が騎士家系とか宮廷魔道士からフリーになったとかの華々しい面々とは扱いが違う。

 四人で腕組みしている中、ローラは冷静に自分たちの装備を見た。


「……そもそもうちの装備、サラマンダーの炎までだったら耐えられるけれど、ドラゴンの炎になんか耐えられるの?」


 魔物や猛獣退治となったら、どうしても装備はレアメタルが使われるものでなかったら防御力に欠けるのだが、B級パーティの日頃の賃金でそんなレアメタルの装備なんか買える訳もない。ルーナの加護魔法を重ねがけし、無理矢理防御力を嵩増ししたものを使っているのだ。そもそも魔力も対魔力も備え持っているドラゴンにどこまで聞くのかがわからなかった。


「ドラゴンのブレスに耐えるとなったら、素材はミスリルが絶対だよね。いっそのこと、装備をミスリルに全部買い換えるとか……」


 ローラの思いつきに、サブリナは首を横に振った。


「無理。依頼費で装備代賄えないし、むしろ赤字になる。私たちすかんぴんになったら、ここの宿からだって出ていかなきゃいけなくなるよ」

「困った」

「困りました」

「ものすごく困ってる……どうしよう」


 そもそもこのメンバー、ぽんこつが過ぎるのである。

 どう考えても必要なのは、そこじゃない。


「せめてあとひとりいたら、なんとかならないかな」


 リノの思いつきで、全員は首を傾げた。

 ……そもそもこのパーティ、前衛がいないのだ。装備に金かけられないなら、せめて前衛に補助魔法を大量にかけて頑張ってもらうしかないというのに。


****


「レオ、悪いが君にはこのパーティを出てってもらう」


 皆で暇している人がいないか、ギルドに立ち寄って追加メンバーを探しに来たときだった。

 久々に見たS級パーティがなにやら揉めている。


「こ、これは……噂で聞くパーティ追放イベント!?」

「なにそれ」

「なんか依頼受けているときに聞いたことがある。人間関係のトラブルだったり、役に立つのか立たないのかわからない能力持っている人がいたら、とりあえずパーティから追放するんだって」

「でも人手なんてなんぼあってもいいもんじゃないの?」

「でもうちのパーティで男の人が入ってきた場合スケベだったら困るよ?」


 女オンリーパーティでなかなか追加メンバーを加入させられない理由の八割は「パーティメンバーに手を出すような人間を入れる訳にはいかない」というものがある。

 そもそも。S級パーティメンバーは基本的に馬鹿ではないのである。

 能力だけでなく、人間性も高く、それゆえに国レベルの案件だって請け負うことがあるというのだから。わざわざ追放するなんてことは……。


「レオ、君が来てくれたおかげで、無事にうちのパーティも鍛えられた。本当にありがとう!」

「いや、俺は対したことしてないよ。剣士にただ稽古に付き合ってもらっただけで!」

「レオさんに教わった奥義で、皆を必ず守り通します!」

「レオ、故郷の彼女ちゃんによろしくな!」

「今度のパーティでも人助けしろよ!」


 ……温かく見送られている。


「これ、追放ではなくって、ただの放逐では」

「むしろ傭兵が一時的にパーティに入ってただけでは」

「ややこしい! でもチャンス! すみません、レオさん!」


 サブリナは慌てて走ってレオを捕まえると、レオはキョトンとした顔でサブリナを見た。


「君はたしか……サブリナ?」

「はい! 今度ドラゴンの鱗三枚取ってこないといけなくなったんですけど……」

「ドラゴン? そりゃいくらでも依頼引き受けるけど、普通にS級パーティ向け依頼じゃ……」

「手違いで来ちゃったんですよぉ。お願いです。一時期でもいいです。うちに剣士が加入するまででいいですから、ドラゴン退治に付き合ってくれませんか!?」

「そりゃまあいいけど」

「やったぁ!!」


 ぽんこつパーティ、無事に剣士を確保。

 さて、これからがドラゴンの鱗を取りに行く本筋だが。

 いろいろあってなんとかなるのだろう。


<了>

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【採集クエスト】ドラゴンの鱗三枚 石田空 @soraisida

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