第5話 再結成ミーティング

ー[病室・夕方]ー

オレンジ色の光がベッドの上を染めていた。

タブレットには、練習を終えたチームの笑顔。

砂まみれで、疲れきった顔。

けれど、みんなの目が前よりずっと輝いていた。


航はその映像を何度も巻き戻して見た。

フォームの癖、守備の位置。

指で画面をなぞりながら、紙の上に簡単なメモを取る。


「ここを変えたら……次は勝てる」

小さく呟いた声が、自分でも驚くほど確かだった。


ふと、父の声が脳裏によみがえる。

〖転げてもええ。ただ、笑うのは立ってからじゃ。〗


航は笑った。

「……転げてもいい、か」

肩の力が抜け、ペンが止まった。

それはもう“諦めの笑い”ではなかった。


ー[広陵ジュニア・集会所]ー

翌日、河川敷の横にある古い公民館。

チームの子どもたちが集まっていた。

泥のついた帽子、手にしたノート。

その中央に、武が立つ。


「ええか、お前ら。市から廃部言われとるが、ワシらはまだ終わっとらん」

「でも……大会、もう出れないんですよね?」

蓮の声に、武はにやりと笑う。

「出られんかったら、出れるようにすりゃええ」


子どもたちがざわめく。


「そのために、ワタルが“新しい形”を考えとる。

 今日はそれを聞いてもらうけぇ」


ー[タブレット中継・病室]ー

航が画面越しに笑顔を見せた。

「やあ、みんな」

「わっ、ワタル!」

「え、オンライン!?」


「えっとね……この間の試合で見てて思ったんだ。

 ポジションの守り方、動線、投球のリズム。

 ちょっと変えれば、全然違うチームになる」


航はボードに手書きの図を出した。

ラインと数字が並び、子どもたちは食い入るように見つめた。


「監督みたい……」

「いや、監督より熱いぞ」

「お前、頭いいな!」


航は照れくさそうに笑った。

「父さんがさ、“届かんもんは工夫で届く”って言ってたから」

武が後ろで頷く。

「そうじゃ、それそれ!」


笑いが起こる。

だが、その中には、確かに“再出発の空気”があった。


ー[病室・夜]ー

中継が終わり、画面が暗くなる。

航は天井を見上げた。

「よし……次は“作戦実行”だ」


窓の外には春の夜風。

街灯の光が点滅し、どこか遠くでグラウンドの砂を撫でていくようだった。


ちりん。

ベッドの脇のキーホルダーが静かに鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔週 日・土 08:00 予定は変更される可能性があります

ヤンキーパパとホームベース 梅チップ @Kow700

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る