「政治」論

1 戦争をしよう




 一部の方々が想起されるだろう某アルバムについてだが、まったく何の関係もないということをここで申し上げておこう。

 もちろん名盤であることに疑いはない。


 小説についてばかり考えていても、無益でないかという気がしてくる。それは小説について考えるということが、小説を書くことになにか資する所があるのでもないし、おそらく支障を生じさせるのだろうと思うからだ。小説について真面目に検討すればするほど、小説を書けなくなっていくという気分すらする。

 いってみるなら、小説というのはまずもって「小説」であるものとして書かれるのであり、それを後からやはりこんなものは小説でも何でもないなどと言われたって困るという話ではないか。


 小説がどのようなものであるかを考える意味と、どうあるべきかを考える意味とは、それぞれ一致しない(ⅲ)とみれば、この問題は解決するのではないかとおもう。つまり小説がいかなる実態を有するとして、その上でしかし、いやむしろ小説とはこうあるべきだろうというある種の理想によって、「小説」でない小説といった救われないものたちを拾い上げようではないかというのである。


 余談だが、たったいま筆者の頭のなかに去来したのは、唯名論と実在論の論争である。これは面白い偶然というもので、なぜならば小説家と小説の関係とは、いわば神的存在と神学者の関係に類するだろうと考えられるからである。後述するので、ここでは簡単に説明しよう。


 小説家はきっと小説を擁護するだろう。たとえ小説というものが曖昧で見境が無く、または骨抜きのすかすかであったとしても。

 物書きと文章との間には、きっと目的をもった関係が必要であると思う。文章はたしかに一つの仮定、世界を構築できるが、それ自体は持ち上げればただの紙切れであり、曲がったり衝突したりする黒線の羅列であり、誰かが目的や意味を与えたり、それらを見出そうとしなければならない。それは虚構フィクションであるからだ。


 小説について、文章について考えることは、もしかすると小説というものを現実の世界の一部として(つまりは言語的に、または文化、社会的な一部として)目的を持った存在として認めることにつながるかもしれない。けれどそれは虚構性を否定してしまう。物書きはそうでないものをそうだと、AでないものをAと言わなければならない。その虚構、「神話」を否定してしまったとき、外から見てどうあれ、書き手と書かれたものの間には単なる事実としての作文という行為しか残らない。


 要は創作というものに、現実における意義をあたえるということは、創作という行為自体が現実と関係を持ってしまうがゆえに、虚構との連絡を失ってしまうのである。


 たとえば誰かがいうには、嘘とは有益である。なぜなら、科学的真理や真実がいかなるものであろうとも、それが発見されるまで我々はまったく平気なのであって、それは「知らない」ということが毒になるという事もあれば、時に薬にもなるということなのである。その主眼は、我々はある一定の嘘を共有し、それに疑問(または関心)を抱かなければ、存外楽しくやっていけるのではないだろうかというものである。


 「物書き」とよばれる人々には痛々しいほどの神話が必要だ、ということを、読者諸氏なら首肯して頂けるのではないかとおもう。


 ✽✽✽


 前章で述べたものは、小説自体がそもそも創り物フィクションであるという一点に集約されるだろう。

 またその上で、虚構フィクションというのは、たとえば紙の上に書かれてじられた文字たちを、相応の事実やまたは架空として、つまりは現実にある(つまりそれは存在として紙や文字という記号)とは見なさずに、それ自体が一種の事実的要素、意味を持つ「世界」を形成するものとしてみなすということであり、そして筆者はそれを、目の前に広がる経験的世界とは別の「もうひとつの世界」とでも呼称してみたのである。


 さて、もし小説についてなにか語ろうというときに、「虚構性」という枠はあまりに不定形で、曖昧なものであり、いわば何でも入るブラックボックスであって、これでは十分条件と必要条件のように、あるものについて小説という性質を肯定しうることはできても、小説という枠組みから実質的な内容を取り出すことは難しいだろう。


 このようなとき、我々は「比較」という武器を用いる。自分の位置は他人との距離で測ればよいのだ。今回取り上げる相手は「戦争」、そして「政治」である。【続】


 


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小説と「正しい戦争」について 三月 @sanngatu

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