勇者レンタルサービス

道端ノ雀

第1話

「勇者レンタルサービスへようこそ。」


見渡すかぎり真っ白な空間に、無機質な女性の声が響いた。


どうして私は、こんな場所にいるのだろうか。


ーーーーー


彼女の名はロミス・セイント。


セイント王国の王女である。国王サンパ・セイントのたった一人の愛娘として、幼い頃から宝物のように大切に育てられてきた。輝く金髪に宝石のような碧眼。誰もが認める美貌を持つ彼女は、完璧なお姫様だった。


だが、そんな彼女には一つ大きな使命があった。


それは聖女として勇者と共に戦い、魔王を討つこと。


この世界には古くからの伝わる伝承がある。


二百年に一度、魔王が復活する。


それに対抗するため、王族の中から金髪碧眼の女児が生まれる。彼女は聖女となり、闇を浄化する力、傷を癒す力を授かり、勇者と共に魔王を倒すだろう――と。


さて、ここで一つ疑問が生じる。


魔王と聖女が二百年周期で現れるのなら、勇者はどうやって現れるのか?


絶対に抜けないとされる聖剣を少年が引き抜いた時?――否。


ある日突然、神に選ばれる?――否。


勇者は、『異世界から召喚される』のだ。


勇者召喚の儀式。それは聖女と十人の魔導士で行われる儀式である。


そして、今日がその日。

魔導士たちはすでに儀式の間で待機している。


あとは、彼女が扉を開くだけ。


その扉は、城の中でもひときわ大きく重厚なものだった。一面に細かな細工が施され、これまで幾度となく聖女を迎え入れ、勇者を送り出してきた歴史を刻んでいる。


普段は誰一人として開くことを許されないが、今――二百年ぶりに、その扉が開かれようとしていた。


ロミスは大きく息を吐き、吸い込む。そして、力強く両手で扉を押し開いた。


ーーーーー


「勇者レンタルサービスへようこそ、ロミス様。」


、、、は? 勇者? レンタル? サービス?

それに、なぜ私の名前を知っているの?


純白の世界に、ひときわ異質な存在が立っていた。


黒のメイド服を纏った女性は、優雅に一礼し、穏やかに微笑む。

その所作は洗練されており、王室付きのメイドたちにも引けを取らない。


いや、それ以上かもしれない。

ただ、どこか人間味がない。


その姿は、彼女が人間ではない“何か”であることを物語っていた。


「、、、私は勇者召喚の儀式を行っていたはずです。ここは一体どこなのですか?」


必死に記憶をたどる。


儀式の間に入り、魔導士たちと共に召喚魔法を発動させた。


その瞬間、眩い光に包まれ、そして記憶は途切れている。


「はい。ロミス様は勇者召喚の儀式を、見事成功されました。

ですので、ロミス様の世界を救うにふさわしい勇者をご紹介するため、こちらにお呼びした次第でございます。」


、、、意味がわからない。


呼び出されるのは勇者のはず。

なぜ私が、この場に呼ばれているのだろうか。


「どういうことですか。勇者は異世界から召喚されるのではないのですか?」


「はい。昔は、異世界から勇者の素質を持つ人間をランダムに召喚しておりました。

ですが、何の教育も受けていない普通の人間を勇者として異世界に呼び出したため、さまざまな問題が生じまして、、、。

その結果、より確実かつ円滑に世界を救うため、このようなサービスが誕生したのです。」


メイドはにこりと微笑んだ。

ほんの一瞬、懐かしげな表情を見せたように見えた。


初めて彼女に『感情』を感じた気がする。


勇者レンタルサービス、、、。


にわかには信じがたいし、言葉の意味も掴みきれない。


だが、目の前で起きている以上、これが真実なのだろう。前回勇者召喚を行ったのは二百年前だ。情報が正しく伝わっていないのも無理はない。


今いちばん大事なのは、勇者を召喚することだ。


「、、、分かりました。あなたが私の世界を救ってくださる勇者を派遣してくれるのですね。」


「はい。ロミス様にぴったりの勇者をご紹介いたします。」


そう言って、メイドは一枚の紙を差し出した。


そこに記されているのは、どうやら勇者のステータスのようだった。


ーーーーー

ラクル・トワ


年齢  17歳   性別 男


称号  奇跡の勇者


体力  1500  魔力  1000

攻撃力 100   防御力 100

知力  100   器用さ 100

素早さ 100   幸運  100


武器  片手剣


ーーーーー


「、、、すごい。何、このステータス。」


ステータスは勇者だけでなく、すべての人に存在する。


体力や魔力には上限がなく、鍛えれば鍛えるほど上昇する。

だが、その他の能力、攻撃力や防御力、知力などには最大値があり、その数値は100と決まっている。


ちなみに一般騎士の平均の体力、魔力は500程度、その他の能力値は大体50前後。


全ステータスが最大値に到達している者など、聞いたことがなかった。


「こちらの勇者になさいますか? もしご不満でしたら、別の勇者をご用意いたしますが。」


そう言うメイドの表情は変わらない。

声には不安を含ませているが、顔からは一切感情が読み取れなかった。


「い、いえ! この方にします!」


私は確信した。

きっと、この勇者なら魔王を討てる。


「かしこまりました。それでは勇者をお連れいたしますので、少々お待ちくださいませ。」


メイドは一礼すると、そのまま虚空に溶けるように姿を消した。


「え、、、? ど、どこに?」


先ほどまで人がいたとは思えないほど、世界は再び静まり返る。

風も音もなく、ただ白だけが広がる異様な空間。

ひとり残されたことで、この場の不気味さがいっそう際立った。


どれほど時間が経ったのか。


感覚が狂い始めたころ、目の前の空間がぐにゃりと歪む。


「きゃっ!」


突然現れた人影に、思わず悲鳴をあげてしまう。


「驚かせてしまったようで、失礼いたしました。」


冷静に頭を下げるメイドとは対照的に、私はドキドキと暴れる心臓を押さえ必死に落ち着こうとした。


「、、、こちらこそ、ごめんなさい。それで、勇者様はどちらに?」


恐る恐るメイドの背後を覗くが、何もない。

ただの白い世界が続くだけ。


「大変お待たせいたしました。こちらが姫にご紹介する勇者でございます。」


そう言って、メイドは左斜め後ろの空間を指し示す。そこにはなにもいない。


、、、直感で理解した。


また、あれだ。


ごくりと生唾を飲み込み、心の準備をする。


空間がぐにゃりと歪み、ひとりの青年が現れた。


予想していたはずなのに、思わず声を上げそうになったのを必死に飲み込む。

心臓は普段の倍の速さで脈を打っていたが、必死に姫としての威厳を取り戻し、青年へと声をかける。


「初めまして。私はセイント王国の王女、ロミス・セイントと申します。どうか、私の世界を救っていただけませんか。」


現れた青年は、茶色の髪に金色の瞳。

全身に金色の輝きを放つフルプレートを纏い、爽やかな好青年そのものだった。


「初めまして。僕は「奇跡の勇者』ラクル・トワです。あなたの世界を、必ず救ってみせます。」


彼は一歩前へ進み出て、穏やかな笑みを浮かべながら手を差し伸べてくる。


何気ない仕草に、どこか気品が滲む。


平民や傭兵のような荒々しさを想像していたが、彼はむしろ王侯貴族のようだった。


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」


差し出された手を取った瞬間――バチッと電流のような衝撃が体を駆け巡る。


ほんの一瞬の出来事。私はただの静電気だと自分に言い聞かせた。


ちらりと勇者を見れば、彼も同じ感覚を味わったらしい。爽やかな笑顔のまま、驚いたように目を見開いていた。


、、、ただの静電気でしょう? そんなに驚くことかしら。


さきほど悲鳴をあげた自分を思い出し、気まずさから見なかったことにする。


ニコリと笑いかければ、彼もまた笑顔で返してくれた。


「ちなみに、オプションで勇者パーティにふさわしい戦士たちもご用意しておりますが、いかがなさいますか?」


唐突なメイドの言葉に、私は思わず固まった。


、、、は?


―――――


「それでは、ご武運をお祈りしております。」


メイドの声を最後に、視界が光に包まれる。


あまりの眩しさに思わず目を閉じ、そして再び開けた時。


そこはもう、真っ白な世界ではなかった。

儀式を行っていた、あの部屋。


「姫様! 成功ですぞ!」


鼻息荒く声をかけてきたのは、長い白髭を蓄えた老人。顔中しわくちゃだが優しい目元が人柄を物語っている。


彼の名はシャロゼ・ソルシエ。


この国一の大魔導士であり、私にとっては祖父のような存在だ。

そんな彼がここまで興奮している姿は珍しい。


ぱっと振り向くと、そこには例の青年。


、、、あ、完全に忘れてた。


あまりにも非現実的な空間から戻ってきた反動で放心状態だったため、勇者の存在をすっかり頭から飛ばしていた。


周囲の魔導士たちの「やった!」「成功だ!」という声が耳に届き、ようやく実感が湧いてくる。


「初めまして。奇跡の勇者、ラクル・トワです。必ず皆さんの世界を救ってみせます。」


爽やかな笑顔と声。

これぞ勇者とでも言うべき姿に、魔導士たちは一斉に歓声をあげた。


ーーーーー


「これから魔王軍と戦ってもらうことになるのだけれど、その上で魔王軍についてできる限りのことは教えておくわね。」


いつまでも儀式の間で立ち話というわけにはいかないので、私たちは応接室へと移動した。


来客用の客間に着くと、メイドたちが気を利かせてくれたのだろう、すでにテーブルには紅茶と軽食が並べられていた。私は奥のソファに腰掛け、勇者にも座るよう促してから、魔王軍について説明を続けた。


まず魔族について。

魔族はこの国の北にある大きな山脈を越えた先に住んでいる。人族よりはるかに優れた筋力と魔力を備えているが、繁殖力は弱く、その数は少ない。そんな魔族たちを統率するのが、魔王「ディアボル・ディーノ」という存在だ。


魔王に関する情報は残念ながら一切分かっていない。ただし、噂だけは広まっており、「一撃で山を消し飛ばした」「海を干上がらせる魔法を使う」といった荒唐無稽な話ばかりだった。確実に分かることといえば、魔族の中でも圧倒的な力を持つという事実だけだ。


魔王そのものも警戒すべき相手だが、脅威はそれだけではない。魔王に仕える直属の部下、四天王の存在である。


人間の倍の体格と圧倒的な筋力を誇る「ウィース・ポスタス」


美貌を持ち、男たちを誘惑する「プルケリ・トゥード」


頭脳派で魔王軍の参謀を務める「サピエド・ンース」


そして、幼い見た目ながら誰も追いつけぬ速度を誇る「ラピド」


まずこの四天王を倒さなければ、魔王のもとへは辿り着けないだろう。


一通り説明を終えたその時だった。


「姫様!ウーナの街に四天王が現れたとの報告が!」


こんなにも早く、、。


兵の準備を――そう言いかけた時、私はとある事実に気づいた。


ウーナの街。


なんてことない普通の港町だ。だが、この街には大きな秘密がある。


「ウーナの街ってことは……まさか。」


「はい。おそらく聖剣を狙っているものと思われます。」


兵は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


そう、あの街には聖剣が眠っている。


ーーーーー


「ガハハ!聖剣を壊せば、いくら勇者といえど魔王様に手も足も出なくなるだろう!」


人々の悲鳴の中に豪快な笑い声が響いた。


人の倍はある身長、逞しい筋肉。その太い腕で殴られれば、人間の骨など一撃で砕けてしまうだろう。眉間には大きな角が二本。腕には彼の身長ほどもある大剣が握られていた。


魔王軍四天王――ウィース・ポスタス。


彼は策略など絡め手を好まない。

ゆえにシンプル。力こそすべて。弱き者は淘汰されるのみ。


「きゃっ!」


ウィースは逃げ遅れ転んでしまった少女に目を向けた。すぐ近くに、その母親らしき姿もある。


「きゃぁ!! ママぁぁ!!」


「アンナ!!!」


少女と母の悲鳴が辺りに響く。


ウィースが少女の細い首を掴み、宙吊りにしたのだ。少女は必死に体を動かして拘束から逃れようとしたが、この体格差ではびくともしない。


次の瞬間、獰猛な肉食獣が吠えたような威圧の声が響いた。


「こいつを助けてほしければ、聖剣のありかを教えろ!」


村人たちは迷った。誰もがその哀れな少女を助けたかった。だが誰一人、それを実行できなかった。

なぜなら知らないのだ。聖剣のありかを知るのは領主だけだからだ。


ゆえに母親は泣き崩れ、懇願するしかなかった。


「どうか、、、どうか娘をお助けください。

、、、聖剣の場所は御領主様しか存じません。

お願いします、娘に罪はありません!お助けください、、、。」


そう言って、母親は額を地面に擦りつけ、精一杯の誠意を示した。


ウィースは辺りを一瞥し、母親の言葉が事実であると悟る。この場に聖剣の在り処を知る者はいない。


「ちっ! 無駄骨だったか。」


「きゃぁぁ!!」


ゴミでも投げ捨てるかのように、少女を放り投げた。そして少女に向けて、大剣を大きく振り上げる。


「いやぁぁぁ!!」


母親の絶叫が響き渡る。


少女の身長を優に超える刃が、その体を断とうと迫る。


ーーーその瞬間。


ガキィィィン!


激しい金属音が響いた。


刃が少女に触れる寸前、大きな盾がそれを受け止めたのだ。


盾を構えていたのは、筋肉質で逞しい身体を持つフルプレート鎧の青年。名はトム・スクート。オプションとやらでこの世界に召喚された勇者の仲間である。年齢は勇者と同じくらいだが、爽やかな勇者とは対照的に、野性的でまさに“漢”という表現が相応しい。


「怪我はないか?」


豪快だが優しさあふれる笑顔を少女に向けた。


「……」


少女は恐怖に震えながらも、弱々しくうなずいた。

すぐに母親が駆け寄り、少女を抱きしめる。「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も頭を下げ、親子はその場を離れた。


「紅蓮の焔よ、我が言霊に応え、形を得て敵を焼き尽くせ――《フレイム・バレット》!」


ウィースは攻撃を防がれたことに一瞬ひるんだ。

その隙を逃さず、烈火のごとき炎の弾丸が襲いかかり、その巨体を吹き飛ばした。


現れたのは、艶やかな黒髪をなびかせる美しい女性。黒いローブはよく見ると星々のように輝いている。切れ長の瞳と通った鼻梁は知的な印象を与える。先端に大きな水晶をあしらった杖が幻想的な光を放ち、彼女の魔法を彩っていた。


彼女の名はミリア・マギ。彼女もまた勇者とともに召喚された仲間である。


「子供を狙うなんて、、、非道な奴。」


ミリアは鋭く睨みつけた。その美貌に宿る怒りは、妙な迫力を伴っていた。


「貴様ら、、、何者だ。」


瓦礫を払いのけながらウィースが立ち上がる。体は煤けていたが、致命的な傷は見られない。


「魔王を倒す勇者だ!」


黄金に輝く剣を掲げ、ラクルが叫ぶ。

 

次の瞬間、まばゆい光が剣から迸り、振り下ろされる。


「グァァァァァッ!」


四天王の絶叫とともに、その巨体が崩れ落ちた。


「、、、勝ったの?」


信じられなかった。


四天王は決して弱くない。騎士団総出でかかっても倒せぬ相手を、勇者たちはあっさりと退けてしまったのだ。


これなら、この勇者たちなら、、、魔王すらも。


ーーーーー


トム・スクート


年齢  18歳   性別 男


称号  勇者の仲間 "大楯使い”


体力  1750 魔力  350

攻撃力 85 防御力 100

知力  45 器用さ 50

素早さ 50 幸運  80


武器  大楯


ーーーーー


ミリア・マギ


年齢  16歳   性別 女


称号  勇者の仲間 "魔法使い”



体力  850 魔力  1800

攻撃力 90 防御力  40

知力  100 器用さ 95

素早さ 75 幸運  80


武器  杖


ーーーーー


「勇者様、ありがとうございます。」


四天王を討ち果たした後、私たちは領主の館へと招かれ、急遽開かれた晩餐会に参加することになった。


あれほどの惨事があったばかりだというのに、人間とは実にたくましいものだ。すでに貴族たちの間では、いやらしい権力争いが始まっていた。


そんな中で、私はとある人物を探していた。先ほどから姿を見せない勇者。


ラクルのことを。


ーーーーー


バルコニーに出ると、彼はそこにいた。


ぼんやりと夜空に瞬く星々を眺めている。

その横顔に、私はなぜか既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような、、、。


ちくりと頭痛が走る。


「ここにいらしたのですね。どうかなさいましたか?」


ラクルはこの街を救った英雄だ。本来ならこの夜会の中心にいるべき存在。現にトムとミリアは、宴を楽しんでいるというのに。


「、、、たくさんの犠牲が出てしまった。」


返ってきたのは予想外の言葉だった。どこか苦しげな声。


「あなたは十分救ってくださいました。民たちも感謝しています。」


大勢を救ったのだ。もちろん犠牲者は出た。

だが、我々は神ではない。全員を救うなど不可能だ。


「できることなら、犠牲者を出したくなかった。」


ラクルの言葉は痛いほど分かる。私だって同じだ。だが、、、。


「全員を救う道などありません。」


「それでも、、、、僕は君の国を、、、」


彼の言葉に、返す言葉が見つからなかった。

重苦しい沈黙が流れる。


「、、、あっ、そうです! あれを見に行きましょう!」


「、、、あれ?」


不思議そうな顔をする勇者の手を引き、私は先ほど領主から教えてもらった、とある場所へ向かった。


ーーーーー


屋敷の離れに、小さな建物がある。


美しく造られてはいるが、普段は使われず、誰も立ち入ることを許されない場所だ。


私は領主から借りた鍵でその扉を開いた。


部屋の中心には、ひとつの台座。

そこに突き立てられた一本の剣が、月光を受けて荘厳な輝きを放っていた。


聖剣エクスカリバー。


誰が鍛えたのかも分からぬ神秘の剣。

この領地の領主の家系に代々受け継がれ、いずれ勇者の手に渡り、魔王を討つと伝えられてきた。その台座には特殊な魔法がかけられており、勇者以外の者には決して抜けぬとされている。


「これが聖剣エクスカリバー。勇者様なら、きっと抜けるはずです。」


ラクルは静かにうなずいた。さっきまでの影のある表情は消え、決意に満ちた顔で剣の前に立つ。


そっと柄に手を伸ばすと、剣に魔力が流れ込むのが分かった。部屋の空気が張りつめ、圧力を感じるほどに変わる。


一呼吸置き、ラクルは勢いよくエクスカリバーを引き抜いた。


誰にも抜けなかった聖剣が、あっけないほど容易く。


「これが、、、聖剣、エクスカリバー」


ラクルはごくりと生唾を飲み込んだ。


その剣はただの武器ではない。魔力を纏う剣。


魔剣である。


魔剣は極めて稀少で、市場に出回ることなどほとんどない。私も王女として、王国に伝わる魔剣を何本か見たことがある程度だ。


だが、この剣は別格。

そのどれもが比べ物にならぬ。美しく輝く刀身からは、触れていなくても圧倒的な魔力の奔流が伝わってくる。


「、、、これなら。魔王を倒すことができるかもしれない。」


ラクルの言葉に、私の胸もまた高鳴った。


ーーーーー


「他の四天王の情報はないの? 前みたいに犠牲が出る前に倒しておきたい。」


ウィースを倒した翌日のことだった。


「四天王討伐はもう少し先にしましょう。今は英気を養うべきです。」


確かに犠牲が出るのは容認できない。しかし昨日の今日で四天王を倒すなど、無茶にも程がある。


「僕たちは平気だ。それより、、、その口ぶりだと、四天王の居場所を知っているんだね。」


爽やかな笑顔で詰め寄ってくる。痛いところをついてくる。実際、私は知っている。


だが、あの場所は、、、。


「知りませんわ。」


部が悪いのを感じ、勇者から目線を逸らす。右に少しそらす。こんなことで誤魔化される勇者ではないのだが、嘘をつくときの癖なので仕方ない。


一瞬の沈黙。


気まずい、、、。絶対バレてるよね、、、。


クスッと笑う声が聞こえる。


「……その癖、変わらないな。」


ラクルは聞こえるか聞こえないかの、かすかな声でつぶやいた。


「今、なんと?」


彼の方を見ると、真剣な表情だった。


「この世界で苦しんでいる人たちが大勢いるんだ。休んでなんていられない。僕は勇者だ。」


その意思は固い。


「それに、この剣もあるしね。」


そう言って、腰に下げた黄金の剣をコツコツと指で叩く。私の負けだ。


「実は、、、。」


ーーーーー


シュイン――。


紫色の魔法陣の上に、私たちは立っていた。


これはワープポータル。各村に作られた瞬間移動装置だ。


ちなみにウーナの街へ移動したときも、これを使った。


「ここがドゥオの街よ。」


私たちがこの街に来たのには理由がある。

数か月前、この街の隣にあるトリアの街が四天王に占拠されてしまったのだ。もちろん兵を派遣したが、相手が悪かった。


トリアの街にいる四天王はプルケリ・トゥード。住民に魅了の魔法をかけており、迂闊に手を出すと、住民が自らが命を顧みず襲いかかってくるため、兵は撤退を余儀なくされた。


数か月、どうすることもできずに時間が過ぎていた。


「なるほど。それなら領主邸に潜入して、プルケリを直接倒すしかなさそうだね。」


それしかない。しかし、その方法がわからない。

ワープポータルはもちろん破壊されている。誰にも気づかれず潜入するなど不可能だ。


「そうするしかないのは分かっています。でも、どうやって潜入するのですか?」


勇者はいたずらでも思いついたような笑みを浮かべ、視線をミリアに向けた。


「私の魔法ならできますわ。」


ミリアは力強く頷いた。


ーーーーー


「こちらです。」


地下の用水路を、息を殺して歩く4人。


私たちの姿は、他の誰にも見えていない。

ミリアに透明化の魔法をかけてもらったのだ。

こんな方法があったなんて。


私たちの作戦はこうだ。

透明化の魔法で用水路を通り、領主邸へ潜入。

領主の無事を確認する。トリアの領主は凄腕の剣士。情報を持っているかもしれないし、戦力にもなる。


さらに、事前に屋敷全体に探知魔法をかけていた。領主の位置は分かったが、四天王の居場所はまだ不明だった。


もちろん、この作戦は騎士たちから散々止められた。

目立たないようにするためには、最小人数での潜入が必要だった。たった4人で敵の本拠地に行くなど、騎士たちからすればあり得ない話だ。


だが、こうするしかなかった。

そして、彼らならきっと――。


前を歩く仲間の背中を、頼もしく見つめた。


私の不安をよそに、潜入はあっさり完了した。


これなら四天王も楽に倒せるかもしれない。


ーーーーー


薄暗く静まり返った廊下を進む。


違和感を覚える。どこかから刺すような視線を感じる。だが周囲に敵の気配はない。きっと緊張しているせいだろう。


そして、目的の部屋に到着した。


部屋は静かで、領主はスウスウと寝息を立てて眠っている。


「よかった。魅了をかけられていたけれど、無事みたいね。」


正直、死んでいる可能性もあった。


「解けそう?」


心配そうにラクルが問いかけてくる。


「ええ。」


力強く頷く私。こう見えても、歴代最強と崇められた聖女なのだ。


この勇者たちが規格外なせいで霞んでいるけど、、、。


「穢れを祓う純白の光よ、我が祈りに応え、闇を払え――《キュア》!」


魔法を発動させると、領主の体が光に包まれた。

魅了が解けると、領主はすぐに目を覚まし、経緯を語った。


「最初は、彼女が四天王だとは思わなかった。傷ついた旅人を装って領内に入ってきたのです。それで、気づいたときには兵の一部が操られ、魅了にかかった仲間を倒すこともできず、私たちは何もできず敗れてしまいました。姫よ、、、申し訳ありません。」


領主は深々と頭を下げ、苦悩の色が顔に滲む。


「あなたは悪くありません。誰だってそうなったでしょう。それにもう心配はいりません。彼らがいますから。」


そう言って、勇者一行を指差す。

ラクルとミリアは、大きくうなずいた。


「それで、プルケリは今どこに?」


「おそらく、領主の間でしょう。」


一同は領主の間へ向かった。

道中も不気味なくらい、あっさりと進むことができた。


ーーーーー


領主の間の扉の前に着いた。

奥から禍々しい魔力が漂う、、、。


間違いなく、プルケリがいる。


「あけるぞ。」


ラクルとトムが先頭に立ち、扉を開く。


扉の向こう、広間の奥に目立つ椅子。

そこに腰掛けるのは妖艶な美女。外見は人間と変わらないが、ピリピリと肌に刺さる魔力が、彼女が人間ではないことを告げる。


「うふふっ、ようこそ勇者たち。はじめまして。

私は魔王軍四天王、プルケリ・トゥードよ。」


甘くも嘲笑うような声で告げるが、その口ぶりに違和感がある。


「僕たちが来ることをわかっていたのか?」


ラクルが問いかける。


「ええ。あなたたちがこの城に入った瞬間から、知っていたわ。」


全員の表情が凍る。潜入がバレていたとは。


「そんな、、、バカな顔ね。おかしいと思わなかったの?」


確かにおかしかった。ここまで人がいないのは怪しすぎる。普通なら兵の一人くらいに出くわすはずだ。報告では兵や民たちは魅了にかかっていたはずなのに、私たちはあまりにも簡単に潜入できてしまったのだ。


「知っていたなら、なぜ今まで何もしなかったの?」


「私はね、人を嘲笑うのが大好きなの❤️」


にっこり微笑むプルケリは、視線を先頭の男へむけた。そうトムの方にーーー。


キィィン!


トムは急に振り返り、私に向けて剣を振り下ろす。

立ち尽くす私を庇ったのはラクルだった。


「なぜ、あなたが!!」


私の悲鳴混じりの声が広間に響く。


「まさか、操ったの!?」


プルケリはふふふと嘲笑った。


「落ち着いて。魅了されているだけだ。魔法を解けばすぐに元に戻る。」


取り乱す私をラクルは冷静に宥める。


「ふふ、楽しいショーの始まりよ。」


その言葉を合図に、トムは剣を振りかぶる。

激しい剣と剣のぶつかり合い。ミリアは迂闊に攻撃を放つと二人を傷つけてしまうため、手が出せずにいた。


激しい攻防の中、勇者と目が合う。


――なに? 何かを伝えようとしている。


私は察した。打ち合わせなんてしていないのに、お互い考えていることが分かる。


こくりと頷き返す。


ガキン!!


二人が剣がぶつかり合う。


「闇を裂く輝きよ、我が剣と共に道を照らせ――《シャイン》!」


勇者の魔法が発動する。攻撃ではなく、光を使った目眩まし。それが私たちの作戦だ。


トムの動きが一瞬だけ止まる。

だがその一瞬を私は逃さなかった。


「穢れを祓う純白の光よ、我が祈りに応え、闇を払え――《キュア》!」


息の合った二人の一連の連携は、まるで何年も連れ添ったパートナーのようだった。

「ゔっ、、、!」

一瞬、苦しむように声を漏らしたトムだったが、どさりと崩れ落ちる。

「おれ、、は、、、」

意識がはっきりしないのか、ぼんやりと視線をさまよわせている。

「気にするな。操られていただけだ。」

ラクルはトムからプリケリへと視線を移し、剣を構えた。

「次はお前の番だ。」

「あら、もう終わり?つまらないわね。」

プリケリも武器を構える。ラクルが踏み込んで突撃したその瞬間、彼女がニヤリと笑った。

その笑みに、私の背筋が凍るようだった。

ぐらり、ラクルの体が傾く。

「ラクル!!」

思わず私は叫んでいた。

「くっ!」

その声が届いたのか、彼は持ち直し、再び彼女に斬りかかる。

「は!?私の魅力が聞かないですって!?」

初めて、彼女の顔から笑みが消えた。

だが、もう遅い。ラクルの剣は確実に彼女へ届いていた。

能力は厄介でも、彼女自身はそれほど強くない。

激しい攻防を数度繰り返し、あっという間に倒してしまった。

ラクルの最後の一撃を喰らい倒れたプリケリ。

それを見た私はどっと疲れが押し寄せ、その場にへたり込んでしまう。

「終わった、、の、、、?」

「ああ、ありがとう。助かったよ。」

プリケリにとどめを刺したラクルが戻ってきて、拳を突き出した。その仕草にはどこか懐かしい感覚があった。

ああ、終わったんだ。

私はラクルの拳に自分の拳を重ね、お互いを称え合った。

その瞬間、安心しきっていた私たちは気づかなかった。

ぐにゃりーーーと、空間が歪むのを。


ーーーーー


「うっ!」


勇者の腹部に漆黒の剣が突き刺さる。

口から血を吐き、その場に倒れ込む。


「ラクルっっ!」


今までいなかったはずの者が現れる。


禍々しい魔力を纏った存在。褐色の肌、大きなツノ、黒のマント。会ったことはないが、この威圧感――魔王ディアボル・ディーノだ。


「早く! ラクルに回復魔法を!!」


ミリアとトムが、私たちの前に立つ。


二人の表情から、いつもの余裕は感じられない。

しかし、そんな二人も魔王の後ろから現れた少年と老人の魔族にあっさりと敗北する。


「うそ、、、」


四天王、サピエド・ンースとラピドだった。


「ふっ、時間を稼いで勇者を回復させるつもりだったのだろうが、無駄だぞ。

邪魔はしない。回復魔法でもかけてやれ。」


こいつは、、、何を言っているのか。


予想外の言葉。そんなはずはない、はったりだ!


心に言い聞かせ、悪い予感を無視して、私はラクルに回復魔法をかけた。


「穢れを祓う純白の光よ、我が祈りに応え、かの者を癒せ――《セイクリッド・ヒール》!」


結果は魔王の言う通りだった。


ラクルの傷は塞がらない。


それどころか、真っ赤な血は流れ続けている。


「なんで、、、」


絶望する私を嘲笑うかのような無情な声が響く。


「その剣は魔剣なのだ。その剣でつけられた傷は、どんな回復魔法でも癒せない。」


勇者の体に刺さった漆黒の剣を見る。

妙な魔力が流れているのを感じた。


「そんな、、、」


血色の良かった顔が、どんどん青白くなる。


何かが重なる。突如、強烈な頭痛に襲われた。


「うっ、、、」


なんで、こんな時に――。


ラクルが目を開いた。


彼の瞳には、かつての強い光が宿っていたはずなのに、今は弱々しい。


「、、、ごめん、、、きみの国を救いたかった。」


途切れ途切れに呟く。


「え、、、」


心臓が激しく鼓動する。


「、、、君に恩返しが、、、したかったのに、、、君みたいに上手くいかないね、、、」


なにを言っているのか、、、わからない。

頭に靄がかかったようだ。


「勇者様、、、?」


「ふふ、、、僕の勇者はずっと、、、君だった。だから今度は、、、君の勇者に僕は、、、なり、、たかっ、、、」


言い終わる前に勇者は瞼を閉じ、その体から力が抜けだらりと垂れ下がって。


私は再び、激しい頭痛に襲われた。


ーーーーー


「初めまして。僕は第一王子ラクル。この度は召喚に応じてくれてありがとう、勇者様方。」


爽やかな笑顔を浮かべ、青年は私に手を差し伸べた。


「勇者、、、?」


「はい。いきなり言われても困りますよね。まずはお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。」


飲み込めなかった。


全然なにを言っているのかわからない。

でも、なんとなく理解できた。ここは異世界。

この世界に来たとき、妙な言葉が頭に浮かんでいた。


「約束の勇者 ロミス」


辺りを見ると、他にも三人の勇者が召喚されていた。


私たちが召喚された世界は、とてもひどい状況だった。

魔王軍の圧倒的な力に、国は崩壊寸前。


勇者として優れたステータスを与えられた私たちにとっても、戦いは辛かった。

私たち四人は、戦ったことなどなかった。

平和な生活を送り、何不自由なく暮らしていた私たちにとって、剣で魔族を倒すことは相当な苦行だった。


ある日、勇者の一人が魔王軍に撃たれてしまった。それでも戦いは続く。

また一人、勇者が犠牲になる。

三人目の勇者は戦いに耐えられず、精神を病んで戦いから身を引いた。


一人になってしまった。それでも私たちは諦めなかった。王子であるラクルと私は、ついに魔王の元まで辿り着いた。


だが、、、私はそこで負けてしまったのだ。


圧倒的な力に敗北した。


「ラクル!!」


私を庇ったラクルは重傷を負う。

私も全身傷だらけで、戦闘の続行は不可能だった。


「ごめん、、、。君だけでも、、、生きて欲しかったのに、、、。僕の希望だった、、、。こんな絶望しかない世界に急に呼び出されて、、、それでも君は勇者として、、、ここまで戦ってくれて、、、そんな君に僕は救われた、、、ありがとう、、、僕の勇者、、、。」


「まって、、やだ、、、いやよ!!」


まだ、あなたの世界を救えていない。

私は勇者なのに。

最初は意味がわからなかった。

でも、あなたのためなら死んでもいい。

淡い恋の花が私の心に咲いていた。


「お願い。勇者の力。答えてよ。」


奇跡は起きた。


『約束の勇者』


勇者は、それぞれの称号に相応しい力を持っている。

彼女の力は『約束』

代償は必要だが、交わした約束は必ず果たされる。

私は約束した。

この世界を、みんなを救うと。そして同時に思った。もっと力があれば、この約束はもっと確実に果たせたのに、と。


その願いによって生まれたのが、勇者レンタルサービスだった。


ーーーーー


「思い出されたのですね、、、」


目の前には、あのメイド――いや、違う。


私が勇者と呼ばれていた世界で世話をしてくれたメイド、メイだった。


「メイ?ここは、、、?」


「思い出してくださったのですね。ゆっくり思い出話をしたいところですが、時間がありません。本来ならあなたに記憶が戻ることはなかった、奇跡の勇者の力でしょうね。」


「どうして、、、時間ならいくらでもあるでしょう。私はまた負けたのよ。」


私は離れたくないと、縋るように訴えた。


「いいえ。まだです。」


「でも、またラクルは私を庇って死んだ、、、」


認めたくないけれど、それが事実。

ぽろぽろと涙がこぼれる。


「死んでません。」


意外な言葉が返ってきた。


「思い出してください。あなたがどんな約束を交わしたのか。」


メイは子供をあやすように優しく、私の涙を拭き、諭した。


「世界を救う約束でしょ。でも、、、」


「はい。確かにあなたは約束した。世界を救う約束を、強さを得て今度こそ世界を、みんなを救うと。その約束が勇者レンタルサービスを生み出しました。

未熟な勇者が送られていた頃とは違い、経験豊富な勇者が召喚されたことで、多くの世界が救われたのです。

あなたの約束は数々の勇者の手で果たされました。

でも、この約束の代償は何だったと思いますか?」


なぜそんなことを聞くのだろう。

そんなもの、決まっている。


「私の命でしょ?」


メイは首を振った。


「あの世界全ての命です。私たちは、あなたが大好きだった。

故郷でもない私たちの世界のために戦ってくれるあなたが大好きだったのです。

だから世界が魔王の手によって消滅する瞬間、私たちはあなたのために、知らず知らずのうちに命を捧げていたのでしょうね。」


「そんな、、、」


言葉にできない感情が私の中で渦巻く。

そんな私をよそに、メイは続けた。


「では、あなたの命を代償にした約束は何だと思いますか?」


その言葉にハッとする。

思い出した、、、最後の誓い。


『約束の勇者の名のもとに約束する。再び会った時、必ず私はあなたを守る、、、』


私が最後に交わした約束。


それはラクルを守ること。


「でも、、、」


彼は死んだと言いかけた私を、メイは止めた。


「ロミス様ならできます。自分の力を信じて。」


力強く、彼女は私の背中を押してくれた。


ーーーーー


再び意識が覚醒する。

腕の中には、大量の血を流しぐったりとするラクル。


「私は『約束の勇者』、、、お願い。」


ねえ、力を貸して。私は強く願った。


私の約束が果たされるとき、奇跡は起きた。


ラクルの体が黄金の光に包まれ、傷が塞がれていく。真っ白だった顔も、どんどん血色が良くなっていった。


そして、重く閉じられていた瞼がゆっくりと開かれる。


「ラクル!!」


私は思わず、彼に抱きついた。


「俺は、、、なんで?」


彼は信じられないという表情だったが、優しく抱き返し、あやすように私の髪を撫でる。

その動作ひとつひとつが、今は懐かしく感じられる。


「思い出したの、、、私は約束の勇者」


「なぜ、、、それを?」


彼の瞳が驚愕に揺れる。


「話したいことはいっぱいある。でも、今はあいつを倒さなきゃ。」


私たちは魔王に向き直る。


「なぜだ?」


魔王の目には油断がなく、凍えるような冷気を帯びた視線が向けられる。


でも、もう怖くなんてない。

ここには二人の勇者がいる。


いつの間にか、私の手には聖剣カリバーンが握られていた。私が勇者時代に使っていた、あの聖剣だ。


「まあ、良い。死ね!」


魔王から魔法の矢が放たれる。


しかし、私はその魔法を剣で切り伏せた。


「さすがだ」


ラクルから感嘆の声が漏れる。

彼の方を見ると、彼も聖剣を構えていた。


いつのまにか四天王の二人が倒れている。


「あなたもね。」


私たちは頷き合った。

私たちに敵う者はいない。


魔王の攻撃を交わしながら、剣で反撃。

私は右、ラクルは左から切り掛かる。次は左上と右下から、まるで示し合わせたかのような、息のあった連携を繰り広げていく。


瞬く間に魔王の防御を破り、重厚な魔力の壁を切り裂く。


「バカな、、、こんなはずでは、、、、。」


魔王は驚愕し、攻撃の手が一瞬止まる。


その隙を逃さず、私たちは同時に強烈な一撃を放った。


「闇を裂く輝きよ、我が剣と共に、邪悪を打ち滅ぼせ――《シャイニング・ブレード》!」


「穢れを祓う純白の光よ、我が祈りに応え、闇を切り裂け――《ホーリー・ソード》!」


二つの光が交差し、魔王へ襲いかかる。

私達はついに魔王を倒したのだ。


ーーーーー


世界に平和が訪れた。


「やっと救えた。」


ポツリとこぼれ落ちた本音。長い道のりだった。

「僕もやっと君を救えたよ。」


隣で微笑むラクルに、私はある疑問をぶつけた。


「いつから昔の記憶を思い出したの?」


「え、ああ、、、最初に握手した時だよ。多分、奇跡の勇者の力じゃないかな。」


あっさりとそう告げられる。


「え、、、そんな前?」


衝撃だった。


「うん。」


「教えてくれればよかったのに」


ジトーっと不満を込めた視線を送る。


「教えても信じなかっただろう?それに、無事に世界を救えたんだから、この話は終わりだ。」


なんだか誤魔化された、、、まあ、いいか。


私たちは微笑み合った。


辛いこともあった。

でも、きっと幸せな未来が待っている。

二人はそんな希望を胸に抱え、歩き出した。


ーーーーー


この世界で、二人の勇者の物語は続いていく。


これからも困難に見舞われるだろう。


だが、二人の力を合わせれば、どんな困難だって乗り越えられる。


この幸せな国を、二人で永遠に守り続けていくことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者レンタルサービス 道端ノ雀 @michibatanosuzume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ