ハイライト
茶村 鈴香
ハイライト
佇まいに惹かれて
初めて入ったバーの
窓から外を眺める
雨が降ってきたようだ
小走りする少女
折りたたみを広げる婦人
ポケットから煙草を取り出し
口にくわえる男
雨の中で火がつくのかな
なんて眺めてたら
男はそのまま
バーに入ってきた
「喫煙大丈夫ですか?」
まだ煙草に火はついてない
「はい、うちは大丈夫ですよ」
カウンター席に灰皿が置かれる
オーダーはマッカランのロック
まだメニューを見てた私は
ウォッカトニックと
蛸のフリッターを頼む
ようやく男はライターを出し
左手で庇いながら火をつける
深々と吸い込んで 煙を吐いて
「スミマセン」と会釈してくる
「あ、大丈夫です
うち、父も煙草吸ってたんで
リビングいつも煙ってました」
「それはなかなかですね」
ライトブルーの箱
“ハイライト”紙巻煙草
2年前亡くなった父と同じ
嫌いだった苦い煙
時刻は夕方の6時半
窓から見える景色も
ぼんやり霞んできた
狭い道を車がすれ違う
早めの夕食 ピザでも頼もう
雨の日は何でだか
トマトソースが食べたい
陽光のような色が欲しいのか
「すみません
マルゲリータのピザください」
再び窓から外を眺める
雨足が強くなったみたいだ
高校生らしいカップル
女の子は白い傘を閉じたまま
男の子は青い傘を差し掛けて
自分は半身濡れている
ああいう風に とても昔に
傘に入れてもらったな
柄を持つ腕に手を絡めて
結局風邪引かせちゃったけど
うっすら漂うハイライトの煙
懐かしいような匂い
マルゲリータのバジルの香りで
しばし打ち消される匂い
父は肺の疾患ではなく
交通事故で逝った
車中の灰皿にも吸い殻
最期もハイライトを味わった筈
何事も洋風好みだった父
精進落としはパスタとピザだった
母は大量のタバスコをかけて
からいねと涙を誤魔化した
もうちょっと飲もうか
今夜はこれくらいにするか
ちょうど雨も止んだようだ
傘がない私には帰りどき
「お会計、お願いします」
ハイライトの男は片手をあげて
「どうも」と言う
「お先に」少し迷ってから
「帰りは車に気をつけて」
雨上がりのアスファルトが光る
ガソリンスタンドを曲がって
駅まで歩く
ウォッカトニック一杯で酔ったな
薄青くて苦い
ハイライトの煙に酔ったのかな
そういえば父さんも
マッカランが好きだった
ハイライト 茶村 鈴香 @perumi
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