第5話 M-1グランプリ2025

 M-1 2025を見ました。

 実は関西出身なので、毎年見てます。生まれたときぐらいからある番組なんだけど、遡って全部履修してます。毎年あれこれ考えたりしてますけど、今年は創作の勉強にメモを取ってみました。点数つけるみたいなおこがましいことはしません。

 普段の漫才の勉強度は、関西人の平均ぐらいですかね。3回戦全ネタとかABCのチェックは、ここ数年は全くしてません。偉そうなこと書いてすみません、ただのメモだと思ってください。

 今年は例年より面白かった気がしますね。たくろう、おめでとう!!!



【一回戦ネタ振り返り】

① ヤーレンズ 

 楢原の独身いじりをするしゃべくり漫才。

 好き。ボケの数が多いし、楢原はもはや存在が面白いから良い、ゾーンに入ってる脂の乗ったボケ師だ。フット岩尾とかノンスタ石田、霜降りのせいやあたりの、「何言っても笑い取れるじゃん」の段階に近づいてる気がする。出井がちょっと高度なボケをカマしたところも、ヤーレンズらしからぬテクニカルさで良かったな。

 トップバッターなのが逆風だったかな……。序盤から飛ばしてるのに会場がまだ温まってなかったよね。最後にはウケてて点数も高くて良かったんだけど、落ちちゃいました。悔しい!


② めぞん

 女の子に「彼氏のフリをしろ」と言われたが、本人はやる気がなく……、というしゃべくり漫才。

 んー、まあねえ。

「逃げろ」のボケが良いと思う。あとは吉野おいなり君の演技者としての才能。ただ、途中から歌の勢いでもっていく感じなのが、ちょっとな。作り込みとしてはやっぱりネタ数が少ない、滑るときは盛大に滑る気がする。微妙やなあ。短編小説はどんでん返しでアゲるだけじゃ足りない、それほど甘くはない。

 ミルクボーイ駒場が高い点数をつけており、なるほどと思った。芸人の友人が言っていた、「俺らの世代は『型』を作るのが漫才」というのが、ちょっとわかった気がする。

 でもまあ、このネタが最下位だったら、めっちゃいい勝負の年だったんじゃないですかね。次のネタはあるのかな?


③ カナメストーン

 ダーツの旅で人を殺しちゃうコント漫才。

 私はもともとキャラが強い芸人が好きで、ガンガン変なボケをやってほしかったのだが、コント漫才にしたせいで火力が足りませんでしたね。

 コントの筋も微妙だと私は感じる。「ソフトなはずの場面で人が死んじゃう」ってのは、かなり陳腐じゃないかな。シュール系の芸人の遺産と比べてしまう。「人間を大砲で飛ばす」が序盤に来るぐらいじゃないと厳しい。

 あと山口誠、そんなに変な人じゃないのに変な人をやってる感があって、ちょっと聞きとりにくいよね。ストレートな狂気が見えてこない。野田クリスタルになるには、もう少しパワーが欲しいな。

 あと、フット後藤の「イルカが振り向く」コメントが面白すぎる。フットボールアワー、大好きなんよな。お前煙草やめろ。


④エバース

「デートに行くから相方を車にしたい」というプロットのしゃべくり漫才。

 私、エバースがめちゃくちゃ好きなんですよ。小技も圧倒的に上手なんだけど、物語として良くない? 構造的な作り込みのある漫才はむしろ苦手なんだけど、この二人はマジで面白いと思う。

「町田って人間のなかではだいぶ車っぽい」

 がすごく好き。美しいよね、この人たちの着眼点は。よく社会を観察してるんだ。

 ただ、このネタについては、ちょっと序盤のボケ数が少なくて、待たされたかも。だから逆に後半がウケて、審査員の点数が高かったのかなあ。

 あと、佐々木はこのボケがハマるほど変人キャラじゃないのでは。オズワルド畠中みたいな、何でも本気で言ってそうに見える不気味さは、彼にない気もする。

 870はすごいな。あと、エバースの漫才は「日常会話」って答えてたのが良かった。そうよね、あなたたちは、そうよね。


⑤真空ジェシカ

 ヤバい自動車教習所のコント。

 まあ、やっぱり完成度高いし、面白いよね。

「ばあさんが教習所ができるより先にいた」は好きだった。強い。

 余談なんだけど、私の周りの漫才好きには、「真空ジェシカは苦手」って人がけっこう多いんですよね。曰く、ボケが小賢しすぎる、大学時代のノリを思い出す、と。

 んー、まあ私は擁護側なんですが、この意見はちょっとわかる。「高級漫才データベースでヒットした最高のボケを繰り出し続ける」を徹底してて、破綻感が上限スレスレのまま一定ですよね。トガる意識が高すぎて、いびつさがない。工業製品みたい。

 ただ今回に関してはそこではなく、個人的にはツカミの、

「車いす選手が二連続で車のネタ引いた?」

 が、気に入らなかったですね。芸人としてはネタ合わせで上手に入れたんだろうけど、私はここで冷えてしまった。車いすと自動車は、さすがにザラツく。例えば私に足がなかったとして(反証できます?)、あれを聞いたらどう思うんか。「それは私が運転できへん方の車やな」って思うやん、そこから「教習所にいるヤバい人」の話やるんやろ。もうネタに乗れへんって。

 笑ってくれる人は多いだろうけど、生放送の舞台でそのボケを選ぶのは、プロ意識が希薄だと思う。ナイツ塙が「大学のサークルで一番面白い先輩」って言ってたけど、プロならそれじゃダメじゃん、心理的安全性は担保しないと。担保してくれないなら、私の一番面白い大学の先輩と飲んだ方が楽しいやん。遠慮せずに他人の悪口をカマせるし、その人は私のdisabilityに触れない。

 別に物議を醸すネタを辞めろというわけじゃなくて、私は金属バットとかは見るのよ。彼らのdis漫才には明確な攻撃の意図があって、批判対象に恨まれてでも客に思考を突きつけようという、暴力と露悪の芸なわけやん。真空ジェシカは自分の言葉の矛先を認識できてないっぽい。漫才師なのに、自分が何を刺して笑ってるか気づかないってのはね。

「あ、ガクの方がそのタイプやねんな」と思いました。今年もお疲れ様、頑張れ!


⑥ヨネダ2000

 バスケットボールでお金をもらうネタ。

 好き嫌いが分かれるよなあ。私は残念ながら、あんまりハマらないんですよね。いや、このタイプの漫才師の中でトップクラスに面白いってのは理解できるんだけど、他の人ほどノれない。これはヨネダ側の問題じゃなくて、私自身の視覚・聴覚能力が低いため、皆ほど快感がないんです。これは私が漫画・アニメでなく小説にこだわってる理由にも通じますね。これはもう、私の認知の特性だから仕方ないです。

「あれが面白いって言えないとダサい」みたいな雰囲気が形成されつつあるのが怖い。ハマらない人には厳しいって。

 漫才好きの人なんかは、「リズムなんて関係なくて、コンテクストから外れているのが粋で面白い」とか反論するんだろうけど、それは違います。コンテクストから外れれば何でも良いってのなら、『モンティ・パイソン』の方が面白いよ。ヨネダ2000の面白さは、二人の挙動とリズム感に核心があり、その点で「舞台でマイクの前に立ってやる寄席演芸」、すなわち漫才なんです。内容だけで語るべきレベルの芸人じゃない。


⑦たくろう

 リングアナウンサーを知らない人がリングアナウンサーの真似をするコント漫才。

 というか、赤木の挙動不審なキャラ漫才ですね。めちゃくちゃ面白かったね。

「PCR、5年連続、陽性」

 が良かったな。陽性やろうな、陽性やろうな、陽性やろうな、と。地味に赤木の間の取り方が天才的に上手よな。京都産業大学も良かったね。

 身内ネタにオチたところは、しぼんだけど、個人的には好みだった。ときには優しい笑いで終わっても良いし、あの軟着陸も実力だと思う。芸はテンプレ化されてはならない。


⑧ドンデコルテ

 スマホ断ちを敬遠するしゃべくり漫才。

 めちゃくちゃ好きなネタだった。最高。これは良い、漫才の良さです。まずネタが斬新、骨のある話なのがデカいよね。私は新しい視点重視のSF屋なので、こういうネタがハマりやすいのかも。「金がない奴はスマホを見ろ、脳が混濁してキモチイーぞ」とか、いかにも私は短編で書いてそう。

 漫才としても、温故知新の様相で良かったと感じた。語りは古き良き香りのするトガリのない台本になっている。ただ、渡辺が強い。目の使い方が上手で、謎の説得力で自らのショボさを語る。個人的には真空ジェシカよりずっと評価が高かったので、もう一本見られて満足でした。


⑨豪快キャプテン

 ポケットパンパンしゃべくり漫才。

 緊張してましたね。やっぱ芸人は、会場を飲み込めるかが重要ですねえ。ほんとにすごい、かっこいい仕事だよ。

 喋りは強いけど、今ひとつクセがなかった。ポケットパンパンも天丼しすぎかな。やっぱ喋くりをするならネタはどんどん転がした方がいい。これだけ話せるならオールドスクールの漫才ができる気がするから、ボケとツッコミをもう少し明瞭にして、ツカミも早くして、ボケ数も増やすといいんじゃないかなあ。素人意見かな。

 ミルクボーイ駒場、なんでこのネタで96点なんや。かまいたち山内の96点はわかる、彼はしゃべくりに繊細な価値を見出すのが得意だ。

 個人的には好きになりましたね。期待できるよね、ここからハネてほしい。


⑩ママタルト

 初詣のコント漫才。

 安定してますね。まあ、9位かあ。ボケは爆発力より柔らかさ重視、数が少なくて、余韻が強いタイプの漫才。ずっと活躍してもらって、ときどき年末・正月に見たい感じのコンビだ。

 コントとしては展開が弱いのかも、ちょい優等生すぎて、枝葉や超展開が少ないね。タカアンドトシとかサンドウィッチマンみたいな、「コントは時系列の最初から最後まで、各フェーズでボケを用意する」という感覚を引きずってるのかな。2010年代からは、文脈を破壊して擦れるところを擦る、という傾向が強まってる気がするけど。

「二人のご縁で25円」のところとか、唐突な「みんなが太りますように」が良いと思うんだ。太ってるネタにも「破壊」以上の引き出しがあると化けそう。これからも頑張ってほしい。



【2回戦ネタ振り返り】


2回戦-① ドンデコルテ

 名物おじさんになりたい、というしゃべくりネタ。

 社会派漫才師としてレベルが高いな、ちょっとびっくりした。だから私がハマるのか。そうなると、審査員はともかく世間の評判はどうだろう。ほんとに好みだ、ちょっといくつかネタを見よう。

「光るおじさん」の話が聴衆にどこまで通じたのかが気になった。彼の自転車をこぐ姿は理解できたのか? という。あとは、ああいう「変なおじさん」みたいのは理由なしに忌避してる・下に見てる人も多いだろうから、そういう若者には哀愁の文脈が伝わらないかもね。地獄のエモは地獄を背にした人じゃないとわからないが、間抜けは地獄にいてもわからない。

 渡辺が40歳であることがもう少し一般に知られていると、序盤からもっとドカンといったんじゃないかなあ。彼、けっこう若く見えるよね。

 かまいたち山内だけドンデコルテ票でしたね。これはすごくわかるぞ。しゃべくり漫才の水平線に惹かれるロマンの男なんだね。


2回戦-② エバース

 町田を人形として腹話術をするネタ。

 あー、いいネタを仕上げて来てたけど、1回戦のネタと笑うポイントが被ってましたね。佐々木が困ってるまでは鉄板なんだけど、町田の見た目関連を連打したのがミスじゃないかなあ。

 エバースに優勝してほしかったが、今年はドンデコルテとたくろうの方がシンプルに面白かった、残念である。


2回戦-③ たくろう

 アメリカのビバリーヒルズに住む吹き替え版の会話コント。

 圧巻でしたね、びっくりした。この二人は役者として上手すぎるわ。細かい赤木のボケは覚えてるけど、笑いすぎて全体の筋が記憶に残らなかった。

 たくろうだけ2巡目のほうが強いネタを持ってきてたんじゃない? 優勝おめでとうございます。これはほんとに良かった。



【全体を通して】

 今年は良かったですね、5組6組ぐらい優勝レベルがいる中で、ちゃんと面白い人を発見できた。大きくスベった組もなかったのが、聴衆の満足度としては大きかった。

 5年前のM-1は「1回戦で強いネタを持ってくる」って言われてた気がするんだけど、2回戦でも同レベルかそれ以上のネタで勝負する感じに変わりましたよね。普通に今年は最後まで最高でした。やっぱり令和ロマンがトップで走って優勝したのがデカかったか?


 ドンデコルテ、エバース、たくろうの3組について思うのは、トガりボケ連打の漫才から、日常の気づきを拾う繊細な漫才に世代移行してるんじゃないかな、と。いわゆるお笑い第7世代――霜降り明星、EXIT、四千頭身など、あるいは金属バット、トム・ブラウン、Aマッソあたりから、今もいる真空ジェシカに至るまで、ああいう内輪感の強いパンクな若者漫才が、王者・令和ロマンの誕生によって、急速に死に体になってるのかも。令和ロマンって第7世代っぽさもあるけど、もう少し大衆向きに面白いもんな。

 今回の三組は2015年以降結成ですが、彼らは令和ロマンっぽいかと言うと、まあぼちぼちですね。霜降り明星の影響からは、ほとんど離脱したのでは。新世代じゃないですかね。

 第7世代は、同じキャラ漫才でも第6世代よりアタックが強くて、カルト的な切れ味で玄人系聴衆からの爆ウケを勝ち取った成功例が多い気がするんだけど、今回の三組はむしろ落ち着きのある理性に振れている。共感と狂気の配合で美しくウケを取ろうとするタイプが決勝に固まった。

 もしもこれが新しい漫才の潮流として確立するなら、令和時代は一口に語れない二重の文化を宿すんじゃないかな、と思いつきました。なんて言うんだろう、強さではなく弱さ、トガリではなく矮小さ、ギラつきではなく切なさ。なぜ『チェンソーマン』が若者に爆売れしているのか、あたりに繋がるだろうか(この段落は未検証の妄想です)。


 面白かったですねえ。エバースとドンデコルテ、また来年よろしくね。ヤーレンズと真空ジェシカも頑張れ。

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未知のゆる勉 わきの 未知 @Michi_Wakino

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