第4話 カクヨムコンSF読み①
前回の記事でプチ炎上してしまった私ですが、今のところ悪い意見はいただいていないので、ギリセーフかなと愚考しております。
お祭りへの便乗で味を占めまして、今度はカクヨムコン11に投稿されている長編SFを、片っ端から拝見していこうかなと。ハヤカワSFコンって、けっこうネット小説からの出品が多いと聞きますよね。
とりあえず今回は、皆様が自主企画に送ってくださったSF作品を紹介します。カクヨムコン応募作もぼちぼち拝見してますけど、これは次回に。
今回は「VRMMO以外のSF長編」を読みました。
一応書き添えておきますと、私は別にVRMMOが憎いわけじゃないんです。昔自分で書いてみたこともありますしね(大失敗した)。
ただ、VRMMOのSFとしての面白さは『SAO』に食われてしまった、というのが持論です。
「ゲーム内で死亡した場合には現実世界の自分も死亡する」
「ゲーム内と現実世界の両方で駆け引きができる」
この2点の仕掛けが最強すぎて、SF部分は出涸らしにされたような印象があるんですね。しかも川原礫先生のプロットって、美味しいところをしゃぶりつくすじゃん。あれヤバいよね、ストーリーの構成が天才的に上手。
てか、これ大きな声では言えないんですけど、今の時代にVRMMOがSFって、もう古くないですか。もうそろそろSONY's Future-productsでしょ。
というわけで、VRMMOは一大ジャンルとして認めてるんですが、私はSFじゃなくて冒険小説だと思ってます。ファンタジーは奥が深いですよ、私にはとても語れません。いつか革命的なSF的VRMMOができたら、ぜひ拝見したいです。
*
タイトルあらすじと最初の1章あたりをざっと見た所感です。
内容面に関しては、まあテンプレの割合が多い。これは悪いわけではない、そういうコンテストですからね。
やはり猛威を振るうのはバトルアクションですね。冒頭から血と軍服を見せたいらしい。ただそれにしては、「泥に深く穿たれたトラックの轍に、ちいさな女の子が顔を突っ込んでいるのが見えた」みたいな冒頭の作品は滅多になかった。みんな死んでいない。みんな死んでいなかった。
あとはネット小説らしく、「美少女」「ハーレム」などと色恋の香りを前面に出してるのも多い。これ系は評価が高く、☆3桁ぐらいが揃う印象。性転換・TSものも多かった。カクヨム読者って本当にエロで釣れるんだな。だが断る。
非テンプレ系では、意欲的な掛け算企画が多く、面白いなと思いました。さすがに宇宙で野球をやっている作品はなかったので安心した(私の作品もぜひ読んでね!)。
残念な点としては、SF的な世界観構築が遠景に飛んでいることが非常に多い。用意したギミックと無関係な、安直なヒューマンドラマ (or バトル or ラブコメ)に走りがち。SFの設定というのは、世界を見据える新たな視座であって、用意した不思議にエモが正しくハマらないと、あまり面白くないと思うんですよね。過去の恋人と出会うだけなら、タイムマシンより8ミリカメラの方が美しい。
このあたりの繊細さが、SFがwebで育たない原因の本質なのだとは感じる。悲しいですね。
描写の特徴。
何よりも興味深かったのは、冒頭です。説明過多と説明不足の両極端に振り切れている印象だった。
説明過多は仕方ないと思います。SF好きの先生が書かれている作品の多くは、1、2話目あたりで、世界観の説明が集中的になされています。これはカクヨムSFの特徴で、古典的な創作論とは逆を行っていると思う。最初に状況がわからないと安心して読んでくれない読者が多いのだろうが、この文法で作られた小説が紙書籍で売れるのかは気になる。難しいですよね、誰か解決方法を教えてほしい。
気になったのは逆側で、設定の説明が弱い作品がいくつかあった。5W1Hが冒頭1万字でわからない作品は読めない。SFは特に、時代と場所と主人公がわからないと、私はすぐ不安になっちゃうタイプなんですよね。web小説には「異世界でなければ現代日本」みたいな暗黙の了解があるのかもしれないけど、アンドロイドとオタク主人公のカップルが東京を徘徊してたら、うーん、キモいです。
あとは、オープニングの視覚刺激が、テンプレに寄りかかりますね。宇宙モノは最初に戦艦がゴゴゴゴって出て来る、モビルスーツが舞ってる。アポカリプスものは、荒涼とした世界で主人公とヒロインが歩いてるとか。文字数が少ないのもあって、「新しい世界を見せてくれそう」というワクワク感が、なかなか見受けられません。これについても、web用に最適化されてるのでしょうが、十年後に語られる作品になりうるかが争点だ。小説の電子媒体化はいつか確実にやってくると思うので、それまでに最適な着地点を探したいんだよなあ。
文体・進行の特徴。
web小説寄りの作品は差が激しかった。上手な先生はほんとにスゴい、ダメなのはダメ。文章がウスい、雰囲気とキーイベントしか伝わってこない。人間がウスい、主人公が英雄すぎ、仲間が不自然に協力的、チョロすぎるヒロインと悪役。読者フックがフック感満載、ネタの壊滅的な陳腐さ。コメント欄を開くと書き手が読み合いをしてる。世界観がシャバいから絡みやすいのかもしれんが、甘やかすな。レビューコメントは優れた作品だけにつけましょうよ。――特大ブーメラン。
文芸小説寄りの作品は……、そうですね、そりゃ商業レベルじゃないのも多いけど、きっと目指す方向は間違ってないと信じてます。私よりずっと上手な人も多く、向上心を貰いました。ありがとうございます。
細かい文体は人それぞれだけど、みんな体言止めが大好き。客体の視覚的イメージを爆発させる手法で、イメージをバルクで投擲する「web小説ぶり」の最たる例でしょう。この点は、私も一年間カクヨムで真似させていただき、たいへん勉強になりました。副作用としては、体言止めは多用すると男性的、というかオッサン的になる(面白いことに、ときどき少女風にもなる。オオカナダモ?)。SFだと特に、印象を硬くするためについ多用したくなるよね。
それから、web小説特有の癖として、1000-2000文字ぐらいで「あるある」ネタが連続する形式が多い。やっぱりこれが面白くない、全然面白くないよ。
「まだぶつけたおでこがヒリヒリする、キュートな猫耳娘だったな。ところで転校生が来るらしい。ガラガラと扉が開き……ここまで読んでいただきありがとうございます☆評価お願いします!!!」
みたいな。疑問の提示で1回、バトルで1回、セックスで1回、主人公が得るのは薄っぺらい日常の幸福感とスリルだけで、状況に依存する葛藤や成長がない。web読者に下手な認知負荷を与えると読んでくれないからだろうけど、もともと認知負荷のない小説なんて一文の価値もないのさ。やるなら1回で猫耳転校生とバトルセックスをしろ。獣人と同衾するなら乳首を指で数えろ、殺すなら鳴き声に耳を澄ませ。私は他人の五感に没入したいんだ。
そういうわけで、これから私の小説は1回5000字ぐらい書こうと決意しました。レッツ文芸!!
【グッときた作品一覧】
・つるよしの『蓬莱百貨店外商部』
https://kakuyomu.jp/works/822139838314006810
中華風バトルSF。良いです。すごく良いと思います。
カクヨムの中華ブームに乗った感じか、世界観のセンスがイイと思う。もちろん、SF×中華は古典的な組み合わせなので、それだけで評価してるわけではない。私でも楽しんで読めるぐらいの強度がある、バトルものの良作です。
まず冒頭の一文の時点で、ちゃんと何かが発生しそう、素晴らしい。いや、その程度で誉めるべきじゃないんだけど……。
・なつのさんち『Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!』
https://kakuyomu.jp/works/16817330668498971075
女しかいない世界で男主人公が成り上がっちゃう話。強いです。
こんなに売れている作品を自主企画に送ってくださり、ありがとうございます。勉強になりました。売れてる作家って文章が面白いからスゴい、読んでて快感がある。
「人類が滅亡の危機に瀕しているので繁殖しないと」というハーレム設定は、勉強不足なもので、初めて拝読しました。この作品については、男女比の崩れた世界についての考察と考証に、非常な好感があります。
読んでいて思いついたんですけど、男女比が一対三万の世界で数世代を経た場合、父親の過少によって遺伝的多様性が激減するので、人類は遺伝病に蝕まれますね。それから、人口の1/30000しかない性別に人権はないでしょう。ニーズを考えれば拉致問題は必至、男は希少な家畜として闇市場で売買される。いっそそういうSFはどうでしょうか。
・鵠 理世『魔法少女ジュディシャル*エリサ ~中性子の魔女たちはベッドの上から世界を裁く~』
https://kakuyomu.jp/works/16818622175488333020
幽体離脱と魔法少女のSF。
私の界隈で有名になりつつある作品です。そうですね、詩的な文章が売りとのことで、好きな人は多そうだ。
・高戸 賢二『科学とオカルトの交差点(Gravity Ghost Gear開発史)』
https://kakuyomu.jp/works/16817330660785824656
面白いと思います。いや、実は私の好みのSF設定じゃないんですが。
わかります? SFとしての好き嫌いを語れる、この贅沢を。立派ですね、良い、素晴らしい。
素粒子の名前、
・飴村玉衣『あなたを殺す幾億の夜』
https://kakuyomu.jp/works/822139841149081445
良いですね。いや、伊藤計劃風とまでは言わないけど、ポスト計劃の架空戦記SFとしては、これぐらいはキてないと。
架空戦記って基本的に血の匂いが見たい訳じゃないですか、鉄の匂いは後で良いんですよ。いいぞいいぞ。
・醒疹御六時『サンシャイン』
https://kakuyomu.jp/works/822139841184118244
なんかわからないけど、人間じゃない主人公が人間じゃない記号と対峙して、抽象世界の沿革を見届ける話。
ほんとに何してんだ。笑
文芸として完成しているかはともかく、萌芽としてはすごく面白いと思います。web小説だから何でもありだと思うし、こういうのを伸ばしていきたい。
・東洋 打順『『ツキハバラ』異星人の観光客がアニメに夢中すぎて、オタクの俺が救世主になる!』
https://kakuyomu.jp/works/822139840543955855
冒頭はかなり好きでした。月葉原!
「宇宙人から見たアニメ」について語りまくってくれるのかと思うんだけど、中身はドタバタギャグ系でした。
・狩村猟平『プロダクトガール』
https://kakuyomu.jp/works/822139840849991965
初回がめちゃくちゃ期待できるのに! 2回目からなにが起きてんのかわかんないっ!! ア゛ア゛ーーーーッ!
そのほか色々面白いのが集まりました、ありがとうございました。また次回の投稿で、語りきれなかった作品は言及しようと思います。
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