朝も昼も惚れてます

浅川 六区(ロク)

970文字の物語

「夏ちゃんおはようー。ねえ夏ちゃん今クラスでさ、謎解きゲームが流行はやっているの知ってる?」登校したばかりで、まだランドセルも下ろしていない私に話しかけて来たのは菜々美だ。


 そう。今日一番フレッシュな私の鼓膜こまくに、最初に届いたのは菜々美の声音せいおんだった。

 決してイヤな訳ではない。イヤではないが、ただ、その向こう三つ離れた席にはうるわしのロク君が座って居るのだから、どうせなら“そっち”の声が良かったかな。


 でもそれらを全部吹き飛ばして凛として応える私。

「あ、菜々美ちゃんおはようー。で、何?」と言い、眠い目を擦りながら私はゆっくりと席に座る。

 あえて解説はしないが、本当に眠たい訳ではない。

 この、こう…目を擦りながら気怠けだるそうに応える仕草が、イケてる女子の所作だと思ってのことだ。いわゆる計算ってやつです。はい。


「うん。あのね、ほら、夏ちゃんが劇的にれているロク君がね、クラスで謎解きをしててね…」

「あっーーと、ストップだよ菜々美ちゃん、そのだらしなくて馬鹿そうなタラコ唇を今すぐ閉じて!そして、そんな下品な声色こわいろで言わないで!私がロク君のことを好きなことは、トップシークレットなんだから!国家機密だって言ったでしょ。そのことは菜々美ちゃん以外には誰にも教えてないんだからー、もうー…」


「え?そうなの?クラスの皆んなは知らないの?夏ちゃんがロク君に、れてるってこと?」

「そ、そうだよ。誰も知らないよ。てかその前に、“夜な夜な”ってやめてよー、朝も昼も惚れてるよお。あとそうそう、さっきから気になってるんだけどその“惚れてる”とかもNGだよ。それ、令和を生きる今時いまどきのイケてる小学生女子が使う言葉じゃないよ」


「あー、夏ちゃん…なんか色々とごめん…」

「まぁー、謝ってもらったら秒で許すけど…」


「え?ホント?許してくれるの?」

「うん。実はそんなに怒ってる訳じゃないしね」と微笑む私。


「そっかー、良かった。ほんとに良かったよ。許してもらえて安心したよ」

「菜々美ちゃん、そのくらいで“許してもらえて”とか、もうー、心配し過ぎだよ。

 私、本気で怒ってる訳じゃないよおー」


「そっかー良かった。夏ちゃんがロク君に鬼惚おにぼれしてるってこと、

 クラス全員参加のグループSNSに投下したの私だから、許して貰えないんじゃないかって、心配してたんだよねー」


「そ、…それは初耳だわ」


                           Fin

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朝も昼も惚れてます 浅川 六区(ロク) @tettow

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