日々、歳を数える

蟹味噌ガロン

日々を数える

 小学生の頃は少ないロウソクの数にもどかしい気持ちでいっぱいだった。


「ねぇねぇもう吹いて良い? もう良い?」

「まだだからもうちょっと待ってね」


 家族みんなで歌う歌に合わせて、数少ない炎が揺れ動く。


 まだかまだかと待ちかねて、息を思いっきり吸い込んで吹き消した。


 歳をとるのが待ち遠しい日々だった。


 ***


 大学受験の時はロウソクなんて買ってなかった。


 深夜に塾から帰宅して、暗い玄関を潜る。


 薄暗いリビングで洗い物をしていた母が振り返る。


「ねぇ、明日の誕生日のお祝いは何が良い? ケーキは何が食べたい?」

「お金。ケーキは後で部屋持ってきて」

「少しは寝なさいよ」

「寝れないよ、もう日が無いもん」


 未来に不安しかない日々だった。


 歳を重ねるのが嫌だった。


 ***


 社会人になった。色々な人との出会いと別れを繰り返した。


「この人が、婚約者の——です」

「初めまして、お義母さん」

「ちょっとちょっと! 早いって!」

「まぁまぁまぁまぁ、こんな素敵な人を連れてきて」


 笑顔が部屋を包み込んだ。


 手土産のケーキにロウソクは無いけれど、日々を重ねるのが楽しみになってきていた。

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日々、歳を数える 蟹味噌ガロン @kanimiso-gallon

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