町の端にて怪異あり

化野 佳和

第一話 閑古鳥と黒い影

 その日も店をほっぽり出して、要はふらふらと街に出る。

 どうせ開けていても閑古鳥が鳴いているのだ、だったらいっそ閉めていても同じこと。

 そう自分に言い訳をすると、行きつけの茶屋に足を運んだ。


「あー! 要さん、今日もまたお店閉めてるー!」


 茶屋に着くなり看板娘に目ざとく見つけられ、要はうんざりした顔をする。

 もちろんいることが分かっていて訪れたのは要だが、こうもあっさりと見つかってしまうとは。

 大きくため息をついた要が適当な席に座ると、看板娘が早速隣に座ってくる。


「もー、商売はどうしたんですか!? ちゃんとしないとまた修理頼めませんよ!」


「うるさいなあぁ、分かってるよ。だた今日はやる気が起きん」


「いっつもそうかないですかー、もー!」


 ぷいとそっぽを向いた要に、看板娘が頬を膨らませる。

 しかし次の瞬間には立ち上がり、厨房へと引っ込んでいった。

 構われなくなったことでやれやれとため息をついた要は、店を見渡す。

 昼下がりだがそこそこ繁盛している茶屋には、よく見る顔が並んでいた。


「はい、いつもの! それで、今日は何を聞きたいんですか?」


「何でもいい。とりあえず何か目新しいものを」


 何も言わずとも運ばれてきた団子と茶に、要は早速湯呑に手を伸ばす。

 そして呆れた顔をする看板娘の問いにさらりと答え、次は団子に手を出した。


「うーん、そうですねぇ……。あ! じゃあ、こんなのどうです?」


 腕を組みながら考える看板娘を横目に見ながら、要は店の外に意識を向ける。

 要の視線の先には路地があり、通りに出るか出ないかくらいのところにもやっとしたものが立っていた。

 耳には看板娘の声が届いているが、要は聞く気がない。

 それどころは要は頭から看板娘の声を追い出し、路地にいる黒い影に集中する。


「もー、聞いてますぅ!?」


 話していても反応を示さない要に、看板娘が痺れを切らす。

 しかし要は返事をせず、団子の串を咥えたままじっと黙っていた。


「あれぇ? 要さぁん……?」


 何も言わない要に、看板娘は訝し気に眉を顰める。

 それでも反応しない要に、看板娘は眉間のしわを深めながら要の視線を追った。


「え、あれって……」


 どうやら看板娘にも黒い影が見えているらしく、急に顔が青ざめる。

 それを見た要は、串を皿に投げるとぐっと湯呑を煽った。


「勘定はここに置いておく。追ってくるなよ」


 それだけ言うと袂に手を入れ、机に銭を置くとさっさと店を出る。

 看板娘が後ろで何か言っていたが、要は無視をした。


 店を出て真っすぐに路地へ向かうと、黒い影が慌てたように奥へと引っ込む。

 逃げるような仕草に、要は目付きを鋭くしながら後を追っていくのだった。



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町の端にて怪異あり 化野 佳和 @yato_writer

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