42.エピローグ
荒廃した現代。人は新たな世界を求め、あるものは地下を開拓し、あるものは海底を開拓し、またあるものは宇宙を開拓しにいった。人はあらゆる場所へ進出し、生きながらえようと努力した。もちろん愛する地球を諦めないものも一定数存在し、人類が存続しうる地球としては死にゆく星に鞭打ち、あの手この手で努力している。
でも私たちはどの世界にもいない。ここは夢の世界。厳密にいうと寝る時に見る夢でもなければ、将来の夢といった類でもない。一番しっくりくるのは妄想の世界だ。妄想の中なら私たちは今でも綺麗な地球にいて、エネルギー問題に食料問題全て気にしなくていい。保守派の人間は言っていた。彼らは本当に現実から逃げたのだ、と。難しいことはよくわからないけど、宇宙や地底、海底に行くよりもはるかに手軽で、大人数の許容が可能な選択肢だった。
あたかも簡単なことのように話したけど、これを作ったとっても賢い人のために弁明すると、実際の肉体から精神(実際のところは細胞同士の電気通信らしい)と呼ばれるものを抜き出し…面倒臭いし実は私もよく知らないからやめた!とりあえず科学者は難しい言葉が好きだから「思考拡張に伴う精神と肉体の分離と拡張現実による精神結合」みたいな名前をつけていた。でも、私たち若者はもっと短くてキャッチーな言葉が好き。私たちはこう呼ぶ“ドリームランド”と。
ドリームランドでは大概なんでもできる。
ルールとかはあるし悪いことをすれば捕まるけどほとんど不自由なく暮らせる。
だけど最近大きな事件が増えてきているらしい。
実際にこの間も近所で私の同級生が殴られた上に荷物を盗まれたらしい。
ドリームランドで強盗!?
初めて聞いた時は意味が全くわからなかった。
ドリームランドで人からものを取る必要はないと思うんだけどテレビで解説してる人が言うにはどうしようもなくそういうことがしたくなっちゃうんだって。
勘弁してほしいよね、全く。
そんな人たちは大抵ドリーマーに捕まってしまう。
自業自得だよ。
なんて、考えてたらこれから私も不運な1人になってしまうらしい。
ここは路地裏。
目の前には包丁を持った小太りの中年男がいる。
私は怖くて何も言えないし動けない。
走馬灯のようにいろんなことを考えてるけど何も解決策は思い浮かばない。
「一色(いっしく)ちゃんが悪いんだよ?俺が好きだって言ってたのに知らない男と歩いてたんだから君が悪いよね?」
怖すぎる。
この人に話が通じないのは会話しなくてもわかる。
足が震えて立っているのがやっとだ。
逃げないと、殺される。
助けて、誰か。
「安心してよ。俺もすぐに同じところに行くからね。君と愛し合った後、すぐに逝くよ。」
そう言ってニヤつきながら近づいてくる。
目の前までくると包丁を持った手を後ろに引いて私に向け刺してくる。
突然足元が不安定になって後ろに引っ張られるように倒れる。
間一髪包丁は空を切って私には刺さらなかった。
私を刺そうとした中年男は一瞬何が起こったかわからずポカンとしたが、すぐに興奮しながら私の後ろに向かって怒鳴っている。
「お前誰だ!わかった!一色ちゃんをたぶらかそうとしてるやつだな!お前が悪いのか!そうか!動くなよ、殺してやる!」
そういうと私を通り過ぎていく。
振り向くと頬に大きな傷跡のある男の人が1人で口論している。
「お前とゴラムの道案内が曖昧だから危なかったぞ!」
喚いている中年男を無視して口論を続けている。
「無視するな!クソ男!」
そう言って包丁を振りかざす中年男を見てようやく声が出る。
「危ない!」
しかし、倒れたのは中年男だった。
私が見たのは壁から伸びてきた何かに殴られて伸された中年男だ。
そうしてそのまま倒れると地面のアスファルトが盛り上がって中年男を包んでいく。
傷のある男はまだ口論をしているようだ。
「いつも通りアスファルトで固めたから!知らねえよ、お前のめんどくささなんて…。対処しきれない分を回ってんだからそれでいいだろ。あ、わるい。被害者いるし状態見るから切る。」
そう言って中年男を乗り越えて私に向かってくる。
私の手前で立ち止まると座り込んで顔を覗き込んでくる。
「大丈夫そ?怪我はないね。もし、心になんか傷を負ったなぁって思ったらドリーマーの病院に行きなね?てか、君どこかで会ったことある?」
傷の男は私の様子を見ながらペラペラと話しているが私は言葉が出ず首を縦に横に振ることしかできない。
「そりゃそうだよねぇ。一度見たらこんな男前の顔忘れないもんなぁ。まあ、いっか!じゃあ、僕は帰るね。すぐに僕以外のドリーマーの使いがくるから安心して。」
そう言って背を向け去ろうとしている。
よく見ると体のあちこちに巻き付くようにアスファルトをつけているようだ。
少し気が動転しながらも気になったことを最後に聞いてみる。
「待って!あなたは誰なんですか?」
傷の男は少し振り向くと微笑んで
「僕はルカ。たまに思い出してあげてね。」
そう言うとルカは颯爽と路地を曲がり消えていく。
ドリーム りとかた @ritokata
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます