41.告白
扉を開けると外は背の高い建物が降ってきたビルに潰されて瓦礫だらけになっている。
瓦礫の向こうにはもうほとんど太陽が姿を隠していた。
ルカと2人で黙って後ろを振り返り2人で扉に手を当てる。
見えないがこの世界から切り離せたと思う。
緊張の糸が切れて一気に疲労感が押し寄せて腰を抜かしてしまう。
「おつかれさん!立派やった。よく堪えたよ、ほんま。」
そう言ってルカはボロボロと涙をこぼしている。
その涙の理由がすぐわかってしまう。
「もうダメなの?ようやく戦いが終わってまだいっぱい話したいことがあるのに…!」
ルカが唇を噛み締めながら首を振るのを見て僕の目からもまた涙が溢れ出す。
「特別大サービスはおしまい。共闘できる、なんて思ってなかったからめっちゃ嬉しかったわぁ。息めちゃめちゃピッタリやったやん。それにうちを重力から助けてくれたりほんま白馬の王子様やで。」
ルカの声は震えていて時々鼻を啜りながらさっきの戦いの印象に残ったことを話している。
僕は泣きすぎて頭がぼーっとしてきた。
ルカの一言一言がただただ悲しく感じる。
ルカはもっと昔の話もし始める。
僕は堪えきれず小さなルカを抱きしめる。
お互いの涙がお互いの肩を濡らしていく。
突然抱きつかれたルカは驚いたようで黙っていたが僕の方にもたれかかり深く2人の時間を共有する。
「ルカ…好きだ。大好きなんだ。僕には君しかいないんだ。困るよな。でも好きなのはやめられない。ルカには甘えてばかりだから安心してもらいたいし僕これから頑張るよ。」
グズグズの声で果たして聞き取れたかも怪しいがルカはうんうんと頷いて僕の首に回した腕に力を入れて抱きしめてくれる。
終わりの時間が近いことはわかる。
夕陽はいよいよ地平線の向こうに姿を隠そうとしているのだろう。
最後の光が一際輝いて見える。
ルカは僕を離して少し距離を取る。
「ほな、本当にもうお別れやな。うちはもう帰るよ。」
嫌だ、本当は死ぬほど嫌だ。
だけどこれ以上ルカを困らせたくない。
僕はおそらくみるに耐えないような顔をしているに違いないが無理やり顔をくしゃっとして微笑み、ルカに一歩近づいて唇を重ねる。
僕もルカも唇が震えている。
2人のその時間は永遠のようにも感じるがほんの一瞬の出来事でもあった。
ゆっくりと2人とも少し離れて見つめ合う。
2人とも涙でボロボロだが満足そうな顔をしているのは間違いない。
もっと一緒にいたいけど別れは必ずやってくる。
僕らはそれが複雑で早くきてしまっただけだ。
ルカは僕に向かって手を振ると
「ほな!うちあっちから帰るから!」
そう言ってまるで通学路で別れたかのように瓦礫の影を曲がって消えていく。
その姿を見届けると僕は膝から崩れて抑えきれない涙を流し続ける。
どれくらい泣き続けたんだろう?
気づくと夕陽は姿を消してあたりは静かな夜を迎えていた。
泣き疲れやいろんな疲れがどっと押し寄せてくる。
足音が聞こえる。
バタバタと音を立てて駆けつけてきている人間がいる。
ずいぶん手前でバタっと倒れ込む音がする。
顔を上げると見事に顔から地面に向かっていったやつがいる。
その姿を見て思わず力が抜け笑ってしまう。
こけた男に近寄り飛んでいったメガネを拾って起き上がれるよう手を差し出してやる。
男は手を掴むと涙を流しながら一気に立ち上がり僕を抱きしめる。
「リック…。」
「やったんだね?とうとう君が勝ったんだね?生きて…帰ってきたんだね…。」
最後の方はもう言葉になっていない。
背中を叩いてやる。
「そうだ。いろんな犠牲はだしたけどもうドリームランドは大丈夫だ。」
遠くから遅れてゴラムが車椅子に乗せた仗を連れてやってきている。
彼はいつになく真剣な顔をしている。
僕とリックの手前で立ち止まり、車椅子を止めるとその隣に立ち深々と頭を下げる。
「すまなかった!本来は私たちが対応しなければいけないことを全て任せてしまって。改めて謝罪をさせてくれ。そして、この世界を…ドリームランドを救ってくれて…ありがとう…。」
顔は下げたままだがゴラムの声は震えている。
そしてポタポタと地面に水滴が落ちる。
僕はゴラムの元に行き肩に手を置いて言ってやる。
「あんたに謝れる筋合いもなければ感謝される筋合いもないよ。この戦いはただの僕と晴の自分勝手のぶつかり合いなんだから。あんたこそ巻き込まれてしまった人間だよ。」
そういうとゴラムの肩は震え、何度もすまないとありがとうを繰り返している。
しばらくして落ち着くとこれからの話をゴラムがしたいという。
「この世界はやはりリセットしようと思う。今回の戦いはドリームランドに多大な影響を与えた。もはやこの影響はリセットしてもどうしようもないほどの傷であると私は考えている。しかし、リセットすれば少しはマシになるはずだ。今までの営みを無かったことにするのは大変心苦しいがこれが最善だと思っている。」
その言葉に僕は頷く。
「それがいいと思う。最後の最後に人が死にすぎた。恨みはドリームイーターを生み出す原因になりかねない。それならもういっそ全てを忘れてもらった方がいい。大切な人たちも蘇るし、こんな出来事無かったことにした方がいいよ。」
そういうとゴラムも頷く。
そして今度はリックの方を見る。
「君はどうする?同じくリセットすることもできる。君も彼ほどではないにしても大変な思いをしただろう。何もかも忘れて平穏な日々を過ごすこともできるがどうする?」
リックはメガネをクイっと元の高さに戻すがすぐに落ちている。
「ぼ、僕はこのままでいます。忘れちゃいけないと思うから。それに僕は元々友達がいないですからリセット後にいなくても誰も気にしないですし。」
そう言って自虐的に微笑む。
それを聞いて僕はリックと肩を組む。
「ならお前は元の世界よりも友達が増えたわけだ!」
リックはそういう僕を驚いたように見つめる。
ゴラムも手を差し出す。
「もちろん私も友達でいいのかな?」
そういうとまた涙を流しながら
「もちろん…もちろん!」
そう言って力強く握手を交わす。
「であれば仗君、リック君、そして君がりせっとのたいしょうがいになる。それ以外のみんなはリセットしてこの世界に来たばかりの頃と同じ状態で復活する。だが、元々君たちを知っていた人間は誰もいなくなる。それだけは肝に銘じておくれよ。」
リックも僕も黙って頷く。
それを見てゴラムは満足そうに笑うがすぐにまた顔を引き締める。
「では、今これから私たちは協力関係でありながらも体裁的には追うものと追われるものだ。コレが今生の別れにはならないことを祈る。元気に暮らしてくれると私も安心する。」
そう言ってゴラムは涙を堪えている。
僕らも涙を堪えながら手を差し出して固く握手を交わしてリックに肩を借りて背を向ける。
「これから世界はリセットをしても歪むはずだ。申し訳ないがこれからも助けてくれると大変助かる。」
ゴラムがそういうのを聞いて僕は左手を高々と上げ親指を立てる。
そうして瓦礫から新しい扉を見つけてくぐりドリームランドへの扉を閉じる。
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