#MeToo 有能な女性たちは魔力を奪われた

マゼンタ_テキストハック

穢れの刻印と暁の聖裁

 王都の外れにある廃れた小屋は、マナ魔力を失った者たちの沈黙が満ちていた。集まった十数人の女性たちは、かつて騎士、神官、錬金術師と、それぞれの道で輝いていた者ばかり。だが今、その瞳からは光が消え、肌のどこかには黒い茨のような「穢れの刻印」が禍々しく刻まれている。


 共通点はただ一つ。王都の夜闇で、長きにわたり暗躍する「影喰かげくらい」にマナを喰われたこと。


 影喰らいは女性ばかりを狙う。民の安全を脅かす存在であるのに、王国も騎士団も、そして神殿も、本腰を入れず、のろのろと調査し、被害者の数は数十人以上となってしまった。

 誰も口にしないが、そこには男性の嫉妬心がある。活躍する女性を許せない――そんな器量の小さい男どもは、有能な女性が襲われ、内心、喜んでいる。


 重苦しい静寂を破ったのは、元騎士の若い女性だった。

「騎士団で尋問を受けました。『なぜ抵抗しなかった』と……。影喰らいの爪よりも、そんな配慮のない言葉の方が、私の魂を深く傷つけました」


 その告白は、被害者達の凍てついた心を溶かした。

「神殿は私を追放しました。『信仰が足りぬから穢れに魅入られたのだ』。それが理由です」

「私は家族にさえ刻印をみせることができなかった。魔法が使えなくなったのは、才能が枯れたからだと嘘をつきました……」


 魔力を奪われた絶望。そしてなによりも、浴びせられ続けた「穢れし者」への侮蔑。終わることのない疎外、そして自分は汚れてしまったのだと責め続けた孤独な夜の涙。集まった女性達は同じ呪いに苛まれていた。


 窓の外の双月を眺めていた元魔術師のエレオノーラが話し始めた。彼女は最初に影喰らいの被害に遭った者だった。

 彼女はゆっくりと立ち上がり、集った者たちの顔を一人ひとり見渡した。

「我らは誰一人として、穢れてなどいません。なぜなら、生き延びたから。あのけだものが奪えたのはマナだけ」


 その言葉は、解呪のように、一人ひとりの心に染み渡っていく。恐怖に縛られていた「穢れし者」という烙印が、初めて「暁を紡ぐ者」という一つの意志ある共同体として結ばれていく。


「戦いましょう」


 エレオノーラの宣言に、誰かが頷く。

 エレオノーラが手を掲げると、その掌に蝋燭の炎ほどの小さな光が灯った。

「さあ、みなさんの光をみせて」

 女性たちが手を掲げる。すると、ある者の指先に閃光が走り、ある者の掌にはオーラが浮かんだ。それはマナではなく、魂の輝きだった。そして、女性達の光は冷え切った小屋を暖かく照らし出す。


 夜の闇は最も深く、しかし、彼女達の魂の光が、この永い夜を終わらせようとしていた。

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