BOMBマラソンランナー
ちびまるフォイ
自覚のない参加者
「放送席、放送席。実況の〇〇さん、そちらはどうですか?」
「はい、こちらはマラソン会場に来ています。
10年ぶりの開催ということでランナーも気合十分です」
「これからどんなレースが始まるか楽しみですね」
「はい! 私もランナーと併走し、レース状況をしっかり伝えていきます!」
「では一度ニュースです」
映像はしばらくニュースに切り替わった。
その間にマラソンははじまっていた。
ふたたびカメラが切り替わるのはそれからしばらくしてから。
「では、マラソンの状況を確認しましょう。実況の〇〇さーーん?」
「はい! こちら現地の〇〇です!
すでにレースは開始され、ランナーは一斉に走り出しています!」
「今はどのあたりですか?」
「そうですね、第1給水所を過ぎたところです」
「このあとのレース展開も楽しみです。
……おや? なにか番組おたよりが……ええっ!?」
「どうしたんです?」
「おいちょっと緊急ニュースだ!!」
急にスタジオがあわただしくなる。
「実況の〇〇さん、落ち着いてくださいね……」
「は、はあ」
「先ほどスタジオに脅迫状が届きました。
どうやらそのランナーの中に人間爆弾をまぎれこませたそうです」
「え!? そんなバカな! ランナーは事前に身体チェック受けてますよ!?」
「どうやら先ほど経由した"第1給水所"がポイントだそうです。
給水コップのどれかに小さな爆弾を混入させていたらしく……」
「変な味しませんでしたよ?」
「ええ。どうやら紛れ込ませたのはそのうちの1つ。
つまり誰が爆弾か、犯人にもランナーにもわからない」
「今のところレースは問題なさそうですが……」
「爆弾化したランナーがゴールすると起爆するシステムらしいです。
それ以降のランナーすべてをケシズミにする強力なものです」
「なんてことだ! 誰が爆弾かもわからないのに!?」
「マラソンを中止しても爆発するそうです。
ああ、いったいどうすれば……」
スタジオも実況もただ失意に暮れるだけだった。
レースは無情にも続いている。
ランナーは刻一刻とゴールラインへと近づいていく。
それはまるで時限爆弾のように。
「実況の〇〇さん、なにか思いつきますか?」
「ひとつアイデアを思いつきました。
爆弾はゴールするのがトリガーなんですよね?」
「ええそうです。でも誰が爆弾なのか……」
「なら大丈夫です! 任せてください!」
実況は報道用の車を借りて一気に先頭へとおどり出る。
先頭ランナーに爆弾のことを話して一旦ストップさせた。
後続のランナーが徐々に集まってきて、全員が一列で横並びにされた。
「みなさん、私は実況の〇〇です。
ゴールまであとわずかとなりましたが、
いまだに誰が爆弾なのかわかりません!」
ランナーたちはお互いの顔を見合う。
「ですが安心してください。とっておきの方法を考えました!」
実況の指示のもと、横並びにされたランナーは手をつながされる。
「オーケーです。全員きちんと一列になりましたね。
ではこのままゴールラインをきりましょう!」
「え? これにどういう意味が?」
「爆弾はゴール後に後続ランナーを爆破させるものです。
先頭ランナーには影響がない。
……つまり、全員同時にゴールすれば誰も死なないんです!」
「「 なるほど! 」」
死にたくないランナーは納得した。
二人三脚のように声とタイミングを合わせながらゴールへと向かう。
やがてゴールテープが近づいてくると、
それまで息のあっていたはずの隊列は波打ちはじめた。
「おい! お前、なにちょっと前出てるんだ!」
「うるせえな! お前こそちょっとでっぱってるじゃないか!」
「自分だけ助かろうとしやがってずるいぞ!!」
もしもゴール判定がズレて同時ゴールにならなかった。
そう思うと、わずかでも前に出て自分だけゴールして助かりたい。
そんな自分勝手な気持ちがランナーをゴールへと駆り立てる。
「実況の〇〇さん、そちらの状況は!?」
「もう収集がつきません!!
全員ゴールさせようと思ったのですが、
助かろうとするランナーが先を急いでしまって……」
「では強硬手段です。今特殊部隊を向かわせました!」
「と、特殊部隊!?」
空からヘリの音が近づいてくる。
開け放たれたヘリの窓から狙撃銃の銃口がランナーへ向けられる。
何度も放たれた麻酔弾はランナーを次々に眠らせた。
「これは……いったい……」
「実況の〇〇さん、眠らせれば同時ゴールも簡単でしょう?」
「そ、そうか! その手がありましたか!」
「手を繋いでゴールが理想だったんですけどね。
誰も犠牲者を出さないのが一番です」
「そうですね。誰が給水爆弾を飲んだかもわからないですし」
やがて現場に大きなトラックが到着すると、
眠らされたランナーは次々に折り重なって詰められた。
「あとはトラックが同時にゴールすればOKですね、〇〇さん」
「はい。トラックは自動制御で完全に同期されています。
これなら間違いなく同時にゴールできるでしょう」
「ぜひゴールの瞬間も実況してください」
「もちろんです。この世紀の大イベント。
しかと実況させていただきます!」
眠ったランナーを載せた車はゆるゆると動き出す。
ゴールラインはもうすぐそこ。
「さあ、トラックがこちらに向かって進み始めました。
どのトラックも完全に同じ進みです!」
ゴールテープが迫ってくる。
実況はトラックの先で後ずさりしながら続ける。
「ゴールのアーチはすぐそこです! さあまもなくゴールです!!」
実況を続ける男の背中がゴールテープに触れた。
するとトラックに載せられていたランナーはもちろん。
実況よりも後ろにいたすべての人達は爆発に巻き込まれて消えた。
「実況の〇〇さん!? 〇〇さん!?」
スタジオに届く真っ暗な映像。
アナウンサーは最後に実況が言っていた言葉を思い出した。
>変な味しませんでしたよ?
「爆弾はアイツかよ……」
現場では焼け野原になったマラソン会場で、
ぼうぜんと佇む実況の人の姿があった。
BOMBマラソンランナー ちびまるフォイ @firestorage
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