私たち女子に今必要なモノ

浅川 六区(ロク)

980文字の物語り

「ねぇ夏ちゃん、あのさ…今の時代ときを生きる私たち小学生女子にとって、

 本当に必要なモノって何だと思う?」と、唐突に、隣の席に座る親友の菜々美から声を掛けられた。いつもの菜々美からは想像ができない程、声のトーンも低く、そして哀しく遠い目をしている。


「な、菜々美ちゃん…そ、その入り…大好きだよ。ちょうど今この灰色の月曜の朝に、このサビれた教室の片隅で退屈を感じていた所だったんだ」私は溢れ出る喜びを抑えてそう答えた。

 菜々美と親友で良かったと思う瞬間でもあり、自分史上、今まで感じたことがないほど気分が高揚していたのが分かった。


 それはそうとして、今は菜々美への回答が最優先事項だ。


 いや待てよ、これは親友からの悲痛な叫びかもしれないし、大きな心の悩みを抱えていてのSOS的なレッドシグナルかもしれない。


 私の回答一つで、彼女は間違えた方向に進んでしまうかもしれない。慎重に言葉を探さなければ…“今を生きる小学生女子に必要なモノ”とは……。


 オシャレとか可愛らしさかな。などと言う無能な人間が答えそうな最もチープでツマラナイ答えを発するもんなら、私が恥をかくだけでは済まされまい。菜々美はそんな答えを求めてはいないのだから。


 では何?お金?それも違うだろう。

 そんな大人びた答えを菜々美が求めているはずはない。あの子はまだ純粋な少女のままだ。私もだけど。


 となると…恋?

 恋と言えば、先月、私と菜々美は同じ男子を好きになった。

 それは同じクラスの六区ロクと言う男子だった。二人同時に告白したが、見事に玉砕した。七瀬ちゃんというこれも同じクラスの女子だが、その子の影がロク君の中にチラついていたせいだった。

 「私たちの方が一万倍も可愛いのにねー」と菜々美と語り明かして、その恋に終止符を打ったばかりだ。


 となると…菜々美の求めている正解は…


 「ねえ夏ちゃん、そろそろ答えが欲しいんだけど…」

 しまった、私がモタモタしていたせいで菜々美から催促が来てしまった。

 急がねば。


 「あ、ごめんね菜々美ちゃん、“必要なモノ”だよね…もうちょっとで答えが出そうなんだけど……。えっ?け、消しゴム?消しゴムが今必要なの?」


 「そうそう、消しゴムを家に忘れて来ちゃってね。ほら私のノート、いろいろ落書きしちゃってるから、急いで消さないと」

 「ああー、今日はノートの提出日だもんね」

 

 「うん。だからほら、今必要な消しゴムを貸してって、言いたかったのよ」

  そう言うと菜々美はふふふと笑った。

 


                               Fin

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私たち女子に今必要なモノ 浅川 六区(ロク) @tettow

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