夢喰いの妖刀使い

@ringToT

第1話

 タッタッタ…

 何かが廊下を走っていく気配がする。

 夏休み友達がみんなどこそこに家族で出かける予定があり、一人予定のないのが嫌で両親と祖父に無理を言って泊めてもらっている祖父の家。

 着いたその日に探検は終わり、ゲームは没収され、やれることは遊びに行くか宿題をするか。朝から意気揚々と外へ出るつもりがあいにくの空模様。仕方なく宿題を進めていく。

 タッタッタ…

 何かいる。玄関の引き戸が開けばガラガラと音を立てるから仕事に出ている祖父ではない。サッと鉛筆を置き、外に遊びに行きなさいと祖父が置いていった虫取り網を手に取る。

 もう雨の音しか残っていないが、クーラーの効いた居間から廊下に出る。歩けば少しきしむ音のする廊下を進み、IHになった台所、新しい給湯器のついた風呂場、物置になっている子供部屋と見て回ったが何もない。仕方なく居間に戻る。

 何もなければどうすることもできない。さっきの気配は気のせいだったのだ。これだけちゃんと見ても何もないなら気のせい以外になにがあるだろう。別に怖いというわけではない…決して。

 タッタッタ…

 驚いた勢いで立ち上がり、怖いという感情がアドレナリンでかき消され、その足は音のする方へかけていた。不気味にも遠くで犬の遠吠えが聞こえ、その足を速めさせる。かなり急いだが音の正体はわからず音は子供部屋の前で消えた。

 何かあるなら子供部屋の中だ。勢いよく扉を開け、舞った埃で少しむせた。

 ただ、それどころじゃないものが目の前にあった。自分よりも少し背の低い着物を着た女の子が何かを大事そうに抱えながらうずくまっていた。

「大丈夫?」

 思わず声をかけてしまった、見ず知らずの相手に。いや、勝手に家に入ってる不審者?に。

「助けて、ください…」

 目の前の少女は恐る恐るこちらを向きながら、今にも泣きそうな顔で訴えてくる。

「わかった。私はれい、あなたはどちら様?」

 その可愛らしい姿に心を打たれ、思わず抱きしめながら私は返事をしてしまった。

「あ、ありがとうございます。わたし、座敷童と申します。お家の守り神です。」

 抱きしめられていた腕からプハッと息継ぎをするように顔を出し、着物の少女は答える。近くで見るととてもかわいらしい人形さんのような顔立ちに泣いていたのか赤くなった目元が怜の心を鷲掴みにする。座敷童に見とれていると、スルッと怜の腕を脱出して抱きしめていた棒のようなものを前に置き、土下座する。

「今、この家に危機が迫っています。なので、この刀を抜いていただきたいのです…」

 仰々しい姿勢でいかにも怪しい話である。家の危機とは何か、そもそも座敷童が刀を抜けばいいのではないのか。

 そんなことを思うよりも早く、手は刀に伸びていた。もうすでに妖刀に私は魅せられていた。

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