第18話 リスタート

引っ越しが落ち着いたある日、麗子からLINEが来た。『その後お元気ですか?』と言うものだった。「なんなんだ、様子を探る様なコメントは。」と思わず笑った。

すぐに事の次第をかい摘んで送ったが、『今、少し仕事が忙しくなったので、そちらに行けるのはもう少しだけ先になりそうだ。』と送った。すると、私がそちらに行くのはアリ?と入る。『なくは無いけれど、古びた1Kのアパートに煎餅布団しか無いよ。』と返事した。別にどこでも良いのよ。あなたと一緒なら。そう、この感覚が忘れてしまった感覚で、それは若いからと言う物では無いと思った。そんな一言で、全てが救われる。『何処でも良い。なんでも良い。貴方と一緒なら。』まるで昭和歌謡の歌詞の様に響く。しかし、単純に好きと言うことにはそう言う事なんじゃ無いかと思う。だんだん歳を重ね、心が横柄になって、プライドと言えば聞こえはいいが、ただの見栄でしかなく、本当に意味のプライドとは、その人の信念で、格好がいいとか悪いとか、金持ちだから貧乏だからと言うことでは無いと思う。今回、離婚を機に断捨離してみて、つくづく思った。今の日本は拝金主義で、お金や物が無いと幸せになれないと思っている人が多くいると思う。本当に幸せになるには、むしろ何も無い方が良いのでは?と思ってしまう。『いつから日本はおかしくなってしまったんだろうか。』元来、人間の欲求の根源である3大欲求とは、食欲、睡眠、性欲だけれど、異常に最後の性欲はタブー視されるきらいがある。もともと食欲や睡眠の欲求と同列である性欲が、おざなりにされていると思う。そこだけを蓋をして、昭和という時代は学校教育とかPTAと言う組織がそれを押し殺して気がする。そして、その結果出生率低下に拍車がかかったのでは無いかと思う。必要以上煽ることは良くないが、自然な欲求やその目覚めを阻害しているとしか思えない節がある。そのため、それが行き過ぎると、どうやって異性とつながったら良いか、会話すらおぼつかず、草食系男子が増えたんではないかと思う。何故そう思うかって?だって男の子は母親が基本的に大好きだから「〇〇ちゃんダメよ」なんて言われると良い子はすぐに染まってしまうと思うから。食欲だってそうだ。テレビ番組では、グルメ番組や旅番組で食の紹介をするが、摂取過多による肥満や糖尿病の急増も問題になっていると思う。とにかく、日本はテレビ大国で大いに影響されている人が多いと感じている。そんな中で、幸せを見つける事は比較的困難を極めるのではないかとさえ思う。欲張っての向上心は良い事と言われて来たが、やはり欲張り過ぎるのもよくないのではないかと感じている。そんな事を考えつつ、麗子からのLINEを改めて見ていると、素朴で、シンプルだった。『本当に君が良いなら、歓迎するよ。ただし、ゴキブリとダニは漏れなく付いてくると思ってくれ。』と入れたら『何処かホテルを予約します。笑』と帰ってきた。やはり、こいつらには耐えられないんだろうな、と苦笑する。

離婚届は、引越しをしている最中、由紀は旅行に出かけている間に出した。その時はすでに記入済みの離婚届を書いて居たので、僕の都合で、名前を書いて役所に持って行った。そして、その後荷物を全て搬出して玄関の鍵を閉めた時に本当に終わったと感じた事を、後に麗子に会った時に報告をした。

「ねぇ、これから私たち、どうなるの?」と聞いて来たので「君はどうしたい?」と聞くと「やっぱり雄二さんと結婚したいかな?」と言った。

「本当にそう思うの?だって僕は64歳で今年65歳になる年金受給者だぜ?そんな僕と結婚しても、財産はないし、行末間違いなく要介護になったら君は苦労するだけなんだよ?」と言う。「だって、本当に好きなんだもの、仕方ないじゃない。」と悲しそうに俯く。「ごめん、そんな積もりで言った訳じゃなく、君には幸せで居てほしいから、まして僕のことで君を心配させたり、増してや手を煩わせるなんて、考えられない。」と言うと麗子は「好きな人の世話くらいさせてよ。それが私にとっての生き甲斐。」と少し怒った様に言った。「確かに、お互いが言うことは両方とも正解で、視点が180度違うと言うだけで、お互いを思いやっている事は間違いなかった。

「どうだろう、結婚という既成事実も大切だけれど、急がず、ゆっくりお互いを見つめながら一緒に暮らす事はどうかな?」と言った。「そうね、そんな気になったら結婚届を出しましょう。」この年になってまた結婚届を書けるかもしれない事実に、胸がキュンとなった。恐る恐る僕のアパートを見に来たが、さほど落ち着いて居た訳ではなく「ふう〜ん。こんな感じの住まいなのね。新しい雄二さんの城は。」と言いすぐに出て、お茶をする事になった。そして今、この喫茶店で今後の話をしている。そして新幹線の時間があるという事なので、駅まで一緒に行って見送る事にした。こうして彼女は、3日間ホテルに泊まって帰って行った。別れ際「仕事が落ち着いたら新潟に来て、母も待っているし。」そんな会話を遮る様に発車の合図がなり、ホームドアの外に出る。同時に新幹線のドアも閉まり、少し不安そうな麗子の顔が窓と共に流れて行った。そして、此処から僕の本当の第2の人生が始まる。

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リターンライダーの憂鬱 〜浅草キッドに憧れて〜 神田川 散歩 @nightbirds60

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