嘘つき優等生は恋を隠せない

星神 京介

心のしおり

俺――真田佑介は窓の外に目を向けた。

冬休みも迫ってきているということもあって、ちらちらと雪が降り積もってきている。

長野県の山間に位置するウチの学校としては、ある種見慣れた光景でもあった。

学校側の気遣いで円筒型の電気ストーブと暖房が効いている放課後の図書館というのは、まさしく俺にとっての楽園だった。

それになんだか今日は人の数も少ない。

ゆっくりと本を読むことができる。

俺は新刊棚に収められていたミステリー小説に手をかけようとしていたそんな時だった。


「ねぇ、真田君。ちょっといいかな?」


俺は声の方向に視線を上げる。

そこには雪代詩乃だった。

俺の席の近くに座っているクラスメイトの女の子である。

同じ高校一年生で、黒に近い落ち着いた長髪で、その艶やかな髪は肩より長く伸びている。

白いマフラーとの組み合わせはその透き通るような肌と相まって、綺麗なコントラストを成しており、映えて見える。

可愛らしい顔立ちと、品行方正な優等生らしい仕草に、男子生徒の中では人気の存在だった。

一人でいることが好きで目立たない俺とは対照的な存在だ。

だけど彼女は何かと俺に話しかけてくる。

まるで子猫が遊べるおもちゃを見つけたみたいに。

俺にはその真意がよく分からなかった。

そんな彼女が俺に何の用事だろう。


「なんだ? 見ての通り俺は読書に勤しもうと思ってるんだが」


俺は読みかけのミステリー小説を彼女に見せつける。


「これを見てほしいんだけど」


彼女は俺の話を無視して進めていく。

――いや、無視かよ!

そう言うと彼女は俺に一枚の古いしおりを見せてきた。


「なにこれ?」

「いいからよく見てみて」


仕方なく俺はそのしおりを観察してみる。

しおりを裏返すと、『あなたにこの想いが届きますように』と書かれている。


「なんだ、これ?」

「私、誰かのラブレターなんかじゃないか、と思ってるんだけど」


彼女は笑ってみせた。


「これを俺に見せてどうしたいんだ?」

「佑介君って読書家でしょ? だから頭が良いからこの謎が解けるかなって」


それは偏見だ。


「別に俺は本を読むのが好きなだけで、頭が良いというわけでは――」

「いいから! 解いてみてよ!」


俺はやれやれ、という感じで彼女の圧に負け、しおりの謎を解くことになった。

――お姫様のご機嫌が直らないと解放されなそうだからな。

もう一度じっくりとしおりを観察した。


「ちなみにこのしおりはどの本に挟まれてたんだ?」


俺は彼女に聞いた。


「この本だよ。私が読もうと思ったら挟まっていて」


彼女は比較的新しめな恋愛小説を指さした。

――俺はあまり読まない悲恋モノらしい。

女の子ってこういう物語、好きだよな。


「恋を題材にした本か」

「そうだね。ベストセラー作家の先生が書いた今人気の本なんだって」

「ふぅん」


俺は適当に相槌をうち、観察を続けていく。

――ふと、とあるアイディアが浮かんだ。


「……なるほどな。そういうことだったのか」

「え? もう分かったの?」


びっくりしている彼女に俺はしおりに書かれた文字を指さす。


「ここをよく見てみろ」

「どれどれ?」


彼女はしおりを覗き込んだ。


「字の癖が特徴的だ。”想”の字の”心”の部分が小さい。この癖、見覚えがないか?」

「うーん、分からないな」


しらじらしい奴だ。


「同じ字、書いてみろよ」


俺は彼女に同じ漢字を書くように言った。

彼女は言われたままに漢字を書くが、見事に筆跡が一致した。


「この前の国語の授業であてられた時に黒板に書いてた字を思い出してな、お前の字の癖と全く同じだ」


「お、女の子ならこういう可愛い字、誰だって書くわよ!」


ムキになって否定している。

耳まで赤くなってるぞ?

可愛いところもあるもんだ。


「それから筆圧だ。最初の一角だけ妙に濃くて、あとは力が抜けてる。さっきの字もそうだし、お前のノートに書かれている字も見たことがあるけど、同じ癖だ」

「そんなの気のせいだってば!」


彼女は指先で髪の毛をくるくるといじりながらいじけたように否定している。

――もう一押しだな。


「さらにこのしおりそのものが真相を雄弁に語っているよ。紙質は古いけど、角がすれてない。貸し出したものに挟まっていたしおりなら傷ついていてもおかしくない。むしろもっとボロボロになってる可能性もある。つまりこれは最近挟み込まれたもので、最近まで大事に保管してあった私物だ」


俺はしおりの端をゆっくりと撫でながら言った。


「……っ」


彼女は言葉に詰まったようだ。


「さらに言うとな、このしおりの穴にお前の今身に着けている白いマフラーの糸が絡まってるぞ? お前がどんな意図なのかは分からないが、仕込んだ、ということは明白だ」


そうして俺はしおりの謎についての考察を終えた。

しばらくぷるぷると震えていた彼女は顔を真っ赤にしてしおりを奪い返した。


「ち、ちがうもん! たまたまマフラーの糸が絡んだだけだから!」


彼女は精一杯の強がりを言ってみせる。

ぷーっと頬を膨らませて、不満をアピールしている。


「その態度こそが答えだと思うがな。まったく嘘つきな奴だ」


俺はにっこりと笑ってみせた。

そういうところも可愛らしいかもしれない。

窓の外ではしんしんと雪が降り積もっていく。

暖められたストーブの熱気でその雪が解けてしまいそうなほど、放課後の図書館はふんわりと温かい空気に包まれていた。

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