三話
太陽が
シン、と静まり返っていた国は活気にあふれそれはかつての世界を思わせた。戦前もこうして賑やかな街で賑やかに暮らしたものだと、ライアは過去を噛みしめるように反芻した。
「———しかし、遅いな」
住民の目覚めは異様に遅い、午前に起きて働く者が新聞配達員しかいないのは異常だ。
真ん中にそびえたつ宮殿を睨む。
その眼光は鋭く、親の仇を前にしたよう。
「ドー・キュラー‥‥‥やはり貴様」
だんだんと心は嫌な気分に呑まれていく。
地獄の景色が頭をよぎる。
ふわりとマントが揺れる。
風が、体を突き抜けていった。
ライアは浅い眠りについた。
「ねぇお母さん、あのかべのむこうってどうなってるの?」
そんな言葉がふとライアの耳に入ってきた。
彼は柱に預けていた体を起こし、声のする方に体と耳を傾けた。
目線の先では、母と子が手をつないで教会の横を歩いている。
「どうなってるって、うーん」
母親はどうこたえるべきか答えあぐねているようだ。
そうして少し考えた後、
「あの向こう側はね、とてもひどいことになってるの。水もないし木も生えてない。向こう側ではそんな中で過ごしている人たちでいっぱいなの」
といった。
子供はそれを受けてうーん、と考え込む。まだまだ足りない経験を総動員して想像する。
「それってかわいそうだよ」
実にシンプルな答え。
「そうだね。だから私たちが幸せに暮らせることを感謝しなきゃね」
「うん!!」
親子はそれからとりとめのない話をしながら去っていった。
なるほど母親は外の状況を知っていて日々を暮らしているわけだ。ならば、ここの住民はおそらく全員があの戦争を知っているはずだ。
心の中で相反する気持ちがぶつかり合って眩暈がする。
世界がどうなっているのかを知りながら、外の人たちに手すら差し伸べようとしない自己中心的な生き方を非難する気持ち。
それでも、幸せになってほしいと思う。——そんな気持ちが、まだ残っている。
結局のところ、自分はどうしようもなく人間でいつも物事が判然としない。
きっとどちらか片方に気持ちが揺れれば、すぐに楽になれるんだろう。この罪だってすぐに償える、はず。
「———は、はは」
乾いた笑いが喉から喘ぐように出る。
「俺は、これ以上‥‥‥壊さなきゃ」
人間の心は痛むばかりで、癒えようとしなかった。
罪の旅路 結城 春 @mizumizugoro
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