二話
朝が来た。太陽が昇り、大地は灼熱の鉄板のように熱くなり、体から嫌な汗がだらだらと垂れてくる。
いつまでも壁の上にいるわけにもいかず、身を隠せる場所を探しに壁を飛び下りアルド王国に足を踏み入れた。
―——なんと!?
暑くない。いや、多少の熱気は感じるが、先ほどまでの地獄のような暑さに比べればかわいいものだ。
やはり、この壁を境に何もかもが違っている。
「これは‥‥‥探るか」
幸い、夜が明けたばかりで住民の気配はまるでない。これなら、数時間はこの国についてある程度の情報を得られるはずだ。
そう取り決めると、ライアはまず高台を探しながら、この国の全貌を理解しようと国中を飛び回った。
この国は巨大な宮殿を中心にそれを囲うように住宅が広がっており、さらにそれらを外界から断絶するように壁が囲う構造になっている。宮殿の入り口前には広場があり、おそらくそこで国王が演説をするのであろう高台と、民衆を集めるに足るスペースがある。そして、住宅街には溶け込むように公園や畑、教会に病院、その他仕事場が並んでいて緑の混じったクリーンな造りだ。
高台を探す最中、彼は壁に自らの血を少量つけて回っていた。そうしているうちに、少し大きめな教会を見つけた。それには鐘を設置するために、柱で四方を囲まれた空間がある。
ライアは鐘の横に立つと満足そうに頷き、腰に付けたポーチの中から一つの瓶を取り出した。
中身は赤い液体で満たされている。瓶を開けて、その液体を地面に無造作に落とす。むせるような鉄の匂い、これは、血だ。ライアは、瓶の中を自らの血で満たしていたのだ。
彼は、一瞬顔をひきつらせたが、次の瞬間にはいつもの無感情な彼に戻っていた。
息を肺いっぱいに吸い、目を閉じる。
右手を前にかざし、言葉を紡ぐ。
「
心臓の鼓動が早まり、魔力が術を構築していく。
血は蛇のようにうねり、集まって一つの形を作っていく。
「It will be
血はやがて円形状に並び、その内側に、そのおどろおどろしさとは正反対で華麗な模様に姿を変える。
「I
最後の一節。
血は暗く光り、術の成功を表している。
国中につけて回った血が共鳴し、そのどれもが見事な魔法陣を形作った。
今ライアが唱えたのは魔法を使うための
魔法とは、皆さんが想像している通り、人の身で本来できぬことを可能にする不思議な力だ。
発動の仕方は、心臓から作り出した魔力を体の経脈、つまり魔力の流れ道に流し術式を構築して詠唱をするだけだ。
魔法によっては、今みたいに魔法陣が必要だったり、特殊な手順を踏まなければならないものもある。
今回発動した
彼はこの術でこの国全体にかけられている大まかな術を理解、解析することができた。
そして理解してしまった、一見豊かに見えるこの国の裏を。
ライアがこの国に到着してから術の成功まで、約二時間はかかっている。だが、この国は依然として静寂を保っていた。
彼は国を見回す、この国で子の静寂を理解しているのはおそらく、彼と国王たちだけだろう。
彼の開いた口はしばらく塞がらなかった。
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